勇者パーティーを追放された不遇職の俺が最強の冒険者になるまでの軌跡

紅乃さくや

第1話 追放

 俺ことアラド・ブレンツは今、人生の岐路に立たされていた。


「アラド。悪いが今日限りでこのパーティーを抜けてもらう」


 そうきっぱり告げてきたのは、俺が所属する勇者パーティーのリーダー、セリオス・マクライン。

 セリオスの両脇には、同じパーティーメンバーのミロシュ・ザットハイルとヨアヒム・カザラギがセリオス同様、険しい顔をして俺を見つめている。


 今いる場所は王都テルネアの冒険者ギルド近くにある裏通り。

 今朝ギルドで簡単なBランクの依頼書をパーティーで軽くこなし、昼頃にギルドに達成報告をして来たところでセリオス達に呼び出されたのだ。


 勇者パーティーとはAランク以上の高ランクダンジョン攻略を目的とした冒険者のグループのことなのだが、俺は今、その勇者パーティーから抜けろと迫られている。


「そんな! 今日まで一緒に頑張ってきたのにどうしてだ!?」


 俺は狼狽しながら訴えた。

 それに対してセリオスは溜息をついて、


「本当はもっと早く言おうと思っていたのだが、ヴェーネが反対するから今まで黙っていた。だが今日で確信したが、お前ははっきり言って戦力になってない」


 と冷徹な口調で告げた。

 ヴェーネとは俺の幼馴染で、同じ勇者パーティーの紅一点だが、今は回復アイテムの買い出しに行っててこの場にはいない。


 俺は今日Bランクの依頼をこなした時のことを思い出した。

 依頼は俺達勇者パーティーにとっては簡単なもので、王都近くの森林地帯に生息するロックウルフを討伐するというものだった。

 俺達に牙を向いた岩石の肌をした大狼を前にして、俺は挑発スキルを使って相手の注意を引き付けた。


 俺は【片手剣使い】。

 片手剣使いの役割はパーティーの穴埋め役。


 パーティーに火力職が少なければ火力担当となり、後衛の守りに不安があれば後衛につく、という感じの便利屋的な立ち回りが求められる。


 それが、片手剣使いの『常識』。


 セリオス率いる勇者パーティーには敵の攻撃を引き付ける、いわゆるタンク職が不在なので、片手剣使いの俺がその穴埋めとしてタンク役をやっていた。


 だから今日もタンク職として、ロックウルフの注意をこちらに向けてパーティーの安全を確保しようとしたのだ。

 ロックウルフの注目がこちらに向いている間に、セリオス達火力担当が集中攻撃を浴びせて畳み掛けるという作戦だった。


 だが、俺の挑発スキルにロックウルフは反応しなかった。

 というより、気の早い【太刀使い】のミロシュが真っ先にロックウルフを攻撃したため、ロックウルフのヘイト(注目)がミロシュに向かってしまった。

 そのため俺の挑発スキルではヘイトをミロシュからこちらに奪うことが出来なかったのだ。


 結局ロックウルフは倒されたものの、セリオス、ミロシュの前衛に攻撃が集中し、彼らはそれなりのダメージを負ってしまった。

 依頼は成功したのに、帰り道は少し気まずい雰囲気になった。


「お前のせいでオレ達に攻撃が飛んできたんだぞ!? 相手がBランクのロックウルフだったからよかったものの、もしAランク以上のモンスターだったらいくらオレ達でも危なかったぜ」


 ミロシュがそう言って俺を非難してきた。


「でもそれは、ミロシュが先に攻撃したから……」


 俺がそう反論すると、ミロシュは舌打ちして眉をひそめ、


「タンク職だったらしっかり挑発してヘイトを奪えよ! 言い訳すんな! それがタンク職の常識だろ?」


 と怒鳴りつけてきた。


「ミロシュの言う通りだ。【斧使い】であるオレやミロシュは一秒でも敵を殲滅するのが常識。それを忠実に実行しただけだ。だがお前はタンク職としての常識をまっとうしなかった。この差は大きい」


 とセリオスもミロシュに同調して俺を否定。


 【杖使い】のヨアヒムも頷きながら言った。


「……セリオス達は悪くない。悪いのは常識を守れないアラド、お前だ」


 確かに斧使いとか太刀使いといった火力職の役割は敵を殲滅すること。

 すごくシンプルだ。

 だがただ敵を殴るだけなら子供でも出来る。時には攻撃の手を緩めて、ヘイトをコントロールするのも火力職の仕事に含まれるはず。

 だが俺は三人に睨まれ、反論出来なかった。


 それにしても。

 セリオス達は『常識』という言葉を意識的に使ってる。

 そうするのが当たり前、そうしない奴はおかしい、という意味で。


 俺は常識外れな奴とでも言いたいのだろうか。

 ていうかそもそも、俺はタンク職とか穴埋め職になりたくて片手剣を握ったわけじゃないんだけどな。

 ただこの世界では、片手剣使いは穴埋め職、それが常識になってるから、仕方なくそうしてるだけなのに。


「アラド。お前ははっきり言って片手剣使いには向いてない。もし使用武器を変えて1からやり直すというなら、オレも一考しよう」


 片手剣使いに向いてない、とセリオスに言われてカチンときたが、怒りをグッとこらえ、俺は首を横に振る。

 俺にとって片手剣は魂みたいなもので、片手剣使いを辞めるくらいなら冒険者なんて続けてる意味がない。


「……そうか。ではアラド。リーダー権限でお前をパーティーから追放する。悪く思うな」


 そう告げると、セリオスは懐から一枚の手のひらサイズのカードを取り出した。

 あのカードは冒険者ギルドから支給されるギルドカードで、自分のステータスやギルドランク、所属パーティーなどの情報が記されているものだ。

 セリオスはカードを持って念じるようにして、


「アラドをパーティーから追放する」


 と言った。


 俺はとっさに自分のギルドカードを取り出して、所属パーティーの項目を見ると、さっきまで書かれていたはずの所属パーティー名がきれいさっぱり消えて空欄になっていた。


「じゃあな、アラド。今後の健闘を祈っているよ」


 それだけ言い残してセリオスは踵を返した。


「他のパーティーに拾われるようせいせい頑張りな。ま、無理だろうけど。ははは!」

「お前はまだ18歳と若いから、他の職に就こうと思えばつけるだろう。では」


 ミロシュとヨアヒムもセリオスの後をついていった。


 こうして俺は勇者パーティーを追放された。

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