2.浴衣

 お前がお前のうっとうしい父親や母親の話を持ち出すたびに、わけも解からず苛立って中断させた。そんな話なら聞きたくない、何も男と連れ立って出かけた時くらい、うっとうしい話は止めにしろよ。


 ただ楽しい気分で、嫌な日々なら流してしまえばいいと、そう思っていたんだ。


 お前は浴衣を着て、いつものお前よりずっとずっと綺麗だから、通りすがりのヤツまでが振り返ってお前を盗み見ていく。俺は少し自慢げに胸をそっくり返らせて、だけどお前を見てなかったわけじゃないんだ。


 夜空に上がる花火なんかより、本当はお前を見てたかった。陳腐なクサい台詞だからお前には言わなかった。俺も隠れてお前の横顔ばっかり見ることになったけど、火花の光に彩られたお前がすごく綺麗で、今でも目に焼きついているくらいだ。


 浴衣のお前を思い出すたびに、あのうっとうしい父親や母親の話を聞いてやればよかったと思ってるんだ。

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