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柿木まめ太

ドリーマーへ30題

1~9

1.尾行

 一号線を北上してスピードを上げていく真っ赤な車体、名前はなんだったか、思い出そうとする間に相手は車線変更して、すいすいと三つの白線をまたいだ。

 そうだ、ロードスターだ。ユーノスか、初代のNA系ロードではなかったかと、途中合流してきた車体を視線が勝手に追っていった。その助手席に座る女の顔に見覚えがあった気がして、今度は左折予定だったウィンカーを切った。


 隣に並んで運転者の顔を拝んでやろう、ただそれだけの衝動だった。助手席にある憂い顔は見慣れたものだったから、今はどんな顔と付き合っているのかと思っただけだ。ガラ空きの三車線道路で隣に並んでやろうと迫る俺に、赤のロードスターは煽りを受けたと誤解してさらに速度を上げる。

 走り屋の車に乗っているからか、急に速度を上げて追いついたからか、二台のスポーツクーペのチェイスが始まる。いつまで経っても運転席は見えず、風がなぶる髪を押さえて目を細める助手席の顔ばかりが視界に映った。

 なにも無理をして追う必要はないんだ、徐々に車の速度を落とす。車間距離が広がり出して、緩やかなカーブの到来と共に赤いクーペはやがて見えなくなった。


 伏目がちな瞼に長い睫毛が、あいかわらず綺麗だな。

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