ドッグフードは母の味
「皆さん、輝村です。今回の件について、大変お騒がせしております。」
「この動画では、今回の騒動についての真実を、僕の知る範囲で、包み隠さずお話します。」
「今回の騒動について、なぜすぐ謝罪しなかったのか、なぜ今になって話すことを決意したのか・・・。」
「それをお話する前に、まずは今回の騒動に至った一連の流れをお聞きください。」
「時系列が定かでないので、僕が覚えている範囲での話になってしまうことをご了承ください。」
「事の始まりは、株式会社ネオ・サクセス代表の清倫に、「儲け話」を持ちかけられたことからです。」
「僕はMLMがネズミ講やマルチ商法の類であることを理解していませんでした。
また清倫は、「取り扱っている商材は最高品質の物ばかりであり、過去の購入者は皆喜んで使っている」と言っていたので、それを真に受けた僕は、知人達にその商材を広めてしまったのです。」
「この点について、自分の認識不足による軽はずみな行動であったと、深く反省しております。」
「本当に申し訳ございませんでした。」
「次に、僕とモラル・サクセス・ホールディングスの関係について。これについては様々な噂が飛び交っていますが、そのほとんどはデマです。」
「モラル・サクセス・ホールディングス社長の堂徳は、同グループの会社を経営する清倫から紹介されただけの相手であって、ビジネスや動画活動などで直接関係を持ったことはありません。」
「あの会社がどのような事業をしていたのかも、清倫が持ちかけたビジネスの問題点などについても、最近になるまで全く知りませんでした。」
「堂徳や清倫の仕事が倫理に反する内容であったことを知っていれば、僕は絶対に関わらなかったと誓って言えます。」
「ただ、自分の知識不足や認識の甘さなどが招いた結果であると思いますし、「知らなかった」では済まされないことも重々承知しております。申し訳ございませんでした。」
「この事態に至るまで、皆さんに詳細をお話できなかった理由もあります。」
「実は、その清倫から、「法的な問題になるので、この件については誰にも話すな」と言われていたのです。いや、言われたというよりも、半ば脅されていました。」
「法的な問題と脅され、僕も怖くなってしまい、皆さんに何もお伝えすることができませんでした。」
「しかし、今まで応援してくれたファンの皆さんを偽り続けることに耐えられなくなり、今回この動画を公開することにしました。」
「この動画を公開したことによって、今後、モラル・サクセス・ホールディングスとどういった話になるか全く分かりません。」
「それでも、皆さんに真実をお話しないよりは、マシだと思ったのです。」
「僕の今後についてですが、無期限の活動休止とさせて頂きます。」
「重ね重ねになりますが、これまでファンの皆さんを不安にさせてしまったこと、また、不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。」
バリ・・・ボリ・・・
ポリ・・・ボリボリ・・・
飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ。
まさか、輝村がこんなことをやるとはね・・・。
ボリ・・・ボリ・・・ボリ・・・
僕も、堂徳も、完全に売られた形だ。
しかし、何だこの動画は。隙だらけのロジック。
冷静に考えれば、僕達のやってることを輝村が「知らなかった」なんてあり得ないと分かるだろ。
それでも、最後は感情に訴えかけ、ファンのために勇気を出したかのような言いぶりで丸め込もうとしている。
バリ・・・ボリ・・・
動画のコメント欄は荒れているが、輝村に同情するようなコメントも見られる。
本当に馬鹿な奴らだ。感情だけで生きているとしか思えない。
こいつのどこが反省している。どこが正直なことを言っている。
ポリ・・・ボリボリ・・・
輝村は活動休止を宣言したが、本当に一時的なものだろう。
ほとぼりが冷めたら、またシレっと活動を再開するに違いない。
バリ・・・ボリ・・・
「ズル賢い犬だ。」
ポリッ・・・
・・・犬か。
僕も犬なのかもしれない。
ボリ・・・ボリ・・・
この数週間、“コレ”を口に運ぶ手が止まらない。
別に、気が狂ったわけじゃない。
飯なんて、何でもいいんだから。
ポリ・・・ボリボリ・・・
寿司だろうが、ステーキだろうが、ドッグフードだろうが、何でもいい。
腹が満たせれば、何だっていいじゃないか。
ボリ・・・ボリ・・・
「はい・・・お母さん、美味しいです・・・」
ボリ・・・ボリ・・・
どう足掻こうが、モラル・サクセス・ホールディングスは終わりだろう。
じゃあ、今後のことを考えなくちゃいけない。
ポリ・・・ボリボリ・・・
そうだ。僕の信者を集めてみよう。まだ沢山いるかな?少しは減っちゃってるのかな?
ボリ・・・ボリ・・・
「美味しいです・・・はい・・・食べ終わったらすぐやります・・・」
そうだ。
きっと信者はまだ僕のことを羨望の目で見ているはずだよ。
こんなことで崩壊するわけないじゃないか。
バリ・・・ボリ・・・
「はい・・・お母さん・・・今日は徹夜でやります・・・大丈夫です・・・。」
ポリ・・・バリ・・・
うん。きっと大丈夫。またやり直せる。
そんな気がしてきたぞ。
「頑張ります・・・頑張ります・・・絶対に成功します・・・。」
ポリ・・・ボリボリ・・・
僕さえシッカリしていれば、いくらだってやり直せる。
僕はまだ全然大丈夫だ。正気だ。
ボリ・・・ボリ・・・
「お母さん、おかわりください。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます