小悪党を二人ほど殺します

「ア、愛敬さん、会社をやりましょうよ。」


「・・・え?」


「元AIjyoの社員も沢山います。皆で新しい会社作りましょうよ。」


「会社・・・。でも俺は競業避止で・・・」


「競業じゃなければいいじゃないですか!ア、新しいことやりましょうよ!」


「新しいこと・・・。どんな?」


「せ、正義のメディア。」


「ふっ・・・。」


「ナ、何で笑うんですか!?」


「いいね・・・。でも、社長は正田君がやってよ。」


「え!?」


「きっとその方が良いよ。あの怪物二人と一緒に働いた君にしか見えないものがあると思う。」








僕は、何のために働いているのでしょうか。








愛敬さんがAIjyoを辞めさせられてから、僕はそんなことを考えるようになりました。

そして、少なくとも、自分の未来を堂徳さんに重ねることができなくなりました。

“計画”を開始したのも、それからです。



AIjyoがモラル・サクセス・ホールディングスに買収されてから、付け入る隙はどんどん大きくなりました。


自分で会社を起こすような人間は、非常に強い欲求を持っています。

だからこそ、人の何倍も努力するのです。異常なほど。


そんな人間が金と権力を握った時・・・、有能な創業者が欲望にまみれた無能になっていくのです。

おかげで、僕の“計画”は着々と進みました。


堂徳さんと清倫さんの派閥争いに辟易している従業員を集め、一斉退職を画策。

様々な悪事の証拠を保存。

愛敬さんの人脈と実績をお借りして、ベンチャーキャピタルから資金調達。


そして、皆でネットメディア「株式会社 正直屋」を立ち上げました。


堂徳さん達の悪事のおかげで、事業のスタートダッシュは好調。

PV数は毎日跳ね上がっています。








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「アッ・・・。」






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「・・・。」






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「き、来ましたか・・・。」






plll







「・・・はい。もしもし。」




「・・・堂徳だ。」




「・・・お久しぶりです。」











「正田、お前か。」


「・・・。」


「よくもやってくれたなお前。」


「・・・。」


「今止めるなら許してやる。だがこれ以上は止めときな。ドラマじゃねーんだ。お前みたいなあまちゃんが正義感発揮して喧嘩売ってきたところで、ハッピーエンドにはならねぇよ。」


「さ、最初からハッピーエンドなんて考えてないですよ。」


「・・・あ?」


「企業と企業の争いにハッピーエンドなんて無いってことくらい理解していますから。」


「フェアとか、クリーンとか、そんなもの抜きで泥々にやり合う覚悟があります。」


「お前、分かったような口利いてんじゃねーぞ。俺を怒らせた奴らがどうなってきたか知ってんだろ?すぐにお前の会社調べ上げて、いつもの方法で炎上させてやってもいいんだぞ?」


「その炎上ノウハウについては、次にリリースする記事に掲載予定です。その上でやってみても良いですけど、致命傷にはならないと思います。」


「・・・。」


「そもそも、今堂徳さんが運営してるメディアにそんな力は無いですよ。関係のあるブロガーやSNSまで明らかになってますし、皆疑いの目で見ているんですから。偏向記事扱いされるのがオチです。」


「あっそ・・・。ところで、愛敬のボケはいんの?どうせ一緒にやってんだろ?」


「・・・。」


「愛敬には退職時に競業避止義務を負わせてる。これは完全に違反だよな?」


「どこが違反なんですか?」


「何・・・?」


「今僕達がやっている仕事は、まとめサイト運営でもマルチ商法でもありません。誰にだって堂々と言える仕事です。堂徳さん達の仕事と競業扱いされるのは心外です。」


「報道内容にしたって、全て必ず証拠を添えています。名誉毀損で訴訟されるならご自由に。それについても、徹底的に争いますよ。」


「お前、後で吐いたツバ飲むような真似すんなよ。」


「しません。」


「・・・。」


「・・・。」


「き、切りますから。」


「覚悟しとけ・・・。」





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「フ、フゥ~~~~。」


「ナイスファイト。」


「うわっ!あ、愛敬さん・・・。」


「何か、事前に用意してたって感じだったね。正田君っぽくなかったよ。」


「か、怪物を殺すためには、こちらも怪物にならないといけません。」


「確かにそうなのかもね。あの二人は怪物だ。」


「・・・イヤ、怪物は大げさに言い過ぎました。昔はそう見えもしましたが。」


「経済アウトローなんて、結局のところ、真っ当なやり方じゃ競争に勝てない人間の末路だと思うんです。実態を大きく見せることだけに長けた人達です。」


「ですから、今の僕にとって、彼らは小悪党です。」


「小悪党を二人ほど殺すために、僕も多少、小悪党にならなくてはいけません。」


「・・・やっぱり、正田君が社長で良かったよ。」










 ***











「・・・。」




人間、どう成長するかなんて分かったもんじゃねーな。

まさか、正田にやり込められるなんて、思いもしなかった。




「・・・打つ手無しか。」




・・・打つ手無し?マジかよ。





ってことは、破綻?破綻すんのか俺。





「ウッ・・・ウッ・・・オェ・・・」


待て待て。落ち着け。



落ち着け!



落ち着け!!




「ちゃんと考えろ。まず、今ホールディングス全体の収益は・・・」




飯が食えなくなる?




「違う!そんなこと考えてる場合じゃねぇ!ランニングコストの削減が急務だ!不採算部門の従業員はリストラ・・・」




また、飯が食えなくなる?




「おい!考えるなそんなこと!とりあえずAIjyoとネオ・サクセスを切り離して・・・」




腹が減る?




「オエ・・・・」









「ダメだ・・・頭回んね・・・。」






「飯・・・。そうだ。飯食ってねーからだ。」






大丈夫。






大丈夫だ。









大丈夫・・・。

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