火
炎上は止む気配が無い。
最近はテレビもネタ切れなんだろうか。清倫と輝村の件は、テレビを通じて爆発的に拡散しちまった。
・・・これで、清倫と輝村は終わったな。
自分達をどうやって金持ちに見せるか、そのブランディングの手口がマニュアルごと全国に公開されてしまった。
こうなると、被害者は清倫達だけじゃない。
セルフブランディングで実態があるかのように見せかけている業者なんて、この世に五万と存在する。
自称投資家、自称コンサルタント、自称アフィリエイター、自称経営者・・・。
そんな奴らのブログやSNSを、公開されたマニュアルに当てはめて見れば、何もかもが分かってしまう。
頻繁にアップされる画像に写っているその車、時計、靴、服、鞄。
それ、本当に所有物か?
銀行口座の残高、アフィリエイトの収益画像。
それ、加工されたものじゃないか?
誰か別の人間が用意したものじゃないか?
海外旅行や高級ディナーの画像は、構図を変えただけの使いまわしじゃないか?
それで、メルマガに登録?非公開セミナー?無料の情報商材?何の説得力がある?
活動の全てに疑いの目がかかれば、千人に一人は騙せていた方法が、万人に一人しか騙せない方法に成り下がる。商売あがったりだ。
何か別のブランディング方法が現れるまでは、馬鹿すら騙すことができなくなる。
今俺が考えているのは、どうやったら清倫を切れるかだ。
奴が弁舌とブランディングで築き上げた楼閣は、近いうちに消滅する。
もう価値は無い。
しかし清倫の言う通り、俺達はお互いの心臓を握り合っているようなもの。
このままじゃ道連れにされちまう。
落ちるのは奴だけでいい。巻き添えは勘弁だ。
何か、方法は無いか・・・。
***
堂徳は、隙あらば僕のことを切るつもりだ。
名指しで手口を公開された以上、僕に以前のような力は無い。
ネタばらしされたマジシャンのようなものだ。
今から新規の信者を獲得するのは困難だろうし、既存の信者が減るのも時間の問題だろう。
・・・・。
・・・・信者が・・・・減る・・・・?
・・・え?
信者が減る・・・?え・・・?
マズい・・・。
マズいマズいマズいマズいマズいマズい・・・。
金はいい。しかし信者が減るのだけはダメだ。
い、今、信者達は僕のことをどう見てるんだ・・・?
ちゃんと評価してるのか?
羨望の目で見ているか?
憧れているか?
ダメだダメだダメだダメだ!
立て直せ!立て直す方法を考えろ!
僕は出来損ないじゃない。
もう少しで自慢の息子になれたのに。
堂徳、僕のことを切るのは絶対に許さない。
ホールディングスの株も、AIjyoの社長の席も、明け渡したりはしないからな・・・。
***
いっそ、清倫ごとAIjyoを他社に売るか。
元々、勢いが落ちてたし。
・・・いや、清倫の件でミソついちまったからな。誰も買ってなんてくれないか?
清倫の反対もキツそうだ。
「・・・はぁ。」
しかし、自分の会社がここまでコントロール不能になるとは、思いもしなかった。
数年前は、自分の会社のことも、顧客のことも、全て把握していたはずなんだが・・・。
そう言えば、どっかの大企業の経営者が、偉そうにこんなことを言ってたな。
年商1億の事業をやる能力と、年商10億の事業をやる能力は違うと。
なるほど。それが本当だとしたら、俺の能力はいつの間にか会社の規模に見合わなくなっていたのかもしれない。
規模拡大を目指さず、小さな会社の小金持ち程度になっておくべきだったか?
そういう意味じゃ、俺も清倫に乗せられてたのかもしれねーな。
生まれて初めて、自分の器ってのを知った気がするよ。
「・・・ウ・・・オェ・・・」
大丈夫。
大丈夫大丈夫。
冷静になれ。
それならそれで、小さい器に合わせた事業をやればいいじゃないか。
金に困ったりなんてしない。大丈夫だ。
飯は食える。
今日も。
明日も。
明後日も。
大丈夫だ。
全部捨てて、本業に戻ろう。
それさえ大丈夫なら、大丈夫だ。
大丈夫。
「ん・・・?」
いきなり各サイトのPVが跳ね上がった・・・?
何だ?何かバズったか?
「・・・・。」
「・・・・。」
「おい、まさか・・・。」
火が回った。
清倫と輝村の件からの飛び火だ。
モラル・サクセス・ホールディングスの傘下、堂徳商事の事業内容が公にされている。
うちがどこのまとめサイトを運営しているかだけじゃない。
関連ブログやSNSの特定、過去のステマまで暴露されている。
「ヤベェ・・・ここの住所がバレる。」
「すぐに移転だ!」
ここに長居するのは危険すぎる。
「おい!お前ら!荷造り手伝え!!!!!」
***
どう考えても内部からのリーク。
恐らくは、退職していった人間の仕業。
だから、当然、“その可能性”を考えるべきだった。
なぜ俺は、“その可能性”を無視していたのか。
事務所の機材を仮拠点に移してから、血眼でリーク元を探すこと1週間。
俺はある新興ネットメディアに“臭い”を感じた。
サイトには、代表者名も会社住所も書かれていない。
しかし、俺には分かる。文章には人間の中身が出るからだ。
サイトには、従業員数もその経歴も書かれていない。
しかし、どんな奴らが運営しているのか俺には分かる。
サイトには、電話番号も書かれていない。
しかし俺は、恐らく代表者の電話番号を知っている。
pi
plll
plll
plll
plll
・・・・。
「・・・はい。もしもし。」
「・・・堂徳だ。」
「・・・お久しぶりです。」
「正田、お前か。」
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