ヒカリ輝く新事業①
始まりは清倫の提案からだった。
「新事業の立ち上げ・・・?」
「ええ。」
「だから、今はそれどころじゃないだろって。人手足りてねぇんだから。」
「人手はほとんど必要ありません。」
「・・・どういう内容だ?」
「今まで私達がやってたことを動画サイトでやるってことです。」
「私の子会員に見所のある男がいます。彼をプロデュースし、動画経由でカモを集めるんです。」
「なるほど、動画か。商材は?」
「投資関係の情報商材にしようと考えています。」
「投資ィ?何で?」
「人生に失敗している連中が希望を見出すものが二つあります。」
「ギャンブルと、投資です。実際、情報商材にはそういうものがかなり多いでしょう。」
「確かに。」
「ギャンブルや投資というのは、失敗者達の「一発逆転思考」を突いた商材なんです。高確率でハメられます。」
「まぁ分かる。ただ、投資つっても色々あんだろ?」
「正直何でもいいですね。株でも為替でも不動産でも。彼らの人生を変えられるような“匂い”を出せれば。」
「搾取の方法は大きく三つあります。一つ目は、投資情報を販売する。二つ目は、仕手を含めたゴミ株、ゴミ通貨、ゴミ物件を販売する。三つ目は、自分達の作った取引所を利用させる。」
「どれが一番儲かるんだよ。」
「そうですね。まず投資情報を売りつけ、自分達の作った取引所で取引手数料を取り、ゴミ投資案件を売買させればいいと思います。」
「いいじゃねぇか。商材は儲かりそうだ。それに、確かに動画サイトは伸びてるし、注目度も高い。」
「でしょう。」
「だが、軌道に乗るまで時間がかかるんじゃねぇの?」
「そこをどうにかするのが、私のノウハウですよ。多分、堂徳さんの得意分野も必要になります。」
「あっそ・・・。じゃあ、やってみるか。」
「実はもう、その子会員を待たせてます。紹介しても?」
「用意がいいな。はいどうぞ。」
「輝村!こっちに。」
「輝村です!よろしくお願いします!!!」
「ああ、よろしく。」
昔どっかの本屋に、「面接は入室後5秒で決まる」みたいな就活本が平積みにされていたのを思い出した。
なるほど。第一印象ってのは、確かに大事だ。
歳は20代中頃だろうか。
細身で、顔はそれなりに整っている。
そしてこいつの目。目を見れば、頭の回り方も大体分かる。
馬鹿の目はもっとおぼろげだ。
「・・・なるほどね。」
「結構良いでしょ?」
「まぁ、良いんじゃねーの?詐欺のことは詳しくねぇけど。」
「詐欺じゃありませんよ。」
まぁつまり、人間を騙すためにも能力は必要ってことだな。
清倫が有望視するだけはある。
「それで?輝村クンをどうプロデュースするわけ?」
「堂徳さん、私の方からご説明させて頂きます!」
「・・・あ、そう。じゃあ輝村クン、教えてくれるかな。」
「はい!」
「まず、私が効率的に情報商材を販売していくためには、多くの動画再生とフォロワーが必要になります。」
「まぁそうだろうな。」
「しかし、動画投稿を始めたからと言って、すぐに数字が急伸するものではありません。
ブログやウェブサイトと同様、長期間にわたってコンテンツを投稿し続ける必要があります。」
「なるほど。動画もそうなんだな。だが、俺はそんなに待てないぞ。」
「はい。そこで、堂徳さんと清倫さんにご協力頂き、“ブースト”をかけてスタートします。」
「“ブースト”?」
「つまり、フォロワーや再生数を購入し、人気があるように見せかけるという方法です。」
「ああ、そっちの世界にも、そういうのを販売している業者がいるのか。」
「はい。視聴者というのは不思議なもので、そのチャンネルのフォロワーが多いほどフォローしやすくなるようです。また、動画の再生数が多い方が、再生されやすくもなります。」
「もちろん、数字だけ購入したところで意味はありません。注目度の高いコンテンツを投稿する必要もあります。」
「具体的には?」
「二つ考えています。一つは大金をかけた企画。もう一つはプレゼント企画です。これらに必要な資金も投資して頂きたいです。」
「ちょっと説明が欲しい。プレゼント企画ってなんだ?」
「人気の動画投稿者がたまに行う企画です。視聴者にゲーム機などをプレゼントするんですよ。テレビがやっているのと同じイメージです。」
「へぇ。」
「これはインパクトが重要です。最低でも数百台はプレゼントすると言った方がいいと思います。」
「数百台?やりすぎだろ。いくらかける気だよ。」
「いえ。実際には数百台の用意があるという“絵”が撮れればいいので、ゲーム機の空箱を大量に集め、積み上げるだけです。」
「ただ、実際にゲーム機が配られていることを世間にアピールする必要はあります。」
「・・・ああ。なるほどな。じゃあ、こっちのライター使って、画像付きでSNSやブログあたりに投稿させりゃいいわけだな。「ゲーム機が届いた」って。」
「はい。仰る通りです。」
「こちらも話題性を意識した動画を投稿しますので、その度にまとめサイトなどで取り上げて頂けると助かります。」
「それならもう、動画投稿者専門のまとめサイトでも立ち上げちまうか。」
「素晴らしいと思います。それだけの準備があれば、後は勝手に広がるはずです。」
「しかし、茶番だな。」
「茶番も大規模にやれば、実態があるように演出できるってことです。」
こりゃ清倫二世だ。
よく仕込まれてる。
「情報商材の窓口サイトは清倫さんが既に。」
「清倫、見せてくれ。」
「こちらです。」
「・・・・・・。」
「・・・なぁ、情報商材サイトのデザインってのは、何でどれも似たような感じなんだ?もう少し変えればいいじゃねーかよ。」
「つまり、新規の馬鹿は毎年供給されるってことですよ。このデザインに既視感があったり、疑ったりするような人間は最初からターゲットじゃありません。」
「この手のサイトにはテンプレがあります。馬鹿馬鹿しく見えますが、使い古されるだけあって、文字色やサイズ、文章などは合理的な作りになってるんですよ。」
「テンプレなんてあるのか。」
「まとめサイトにもあるでしょ。記事タイトルの書き方とか、サイトの作り方とか。アレと一緒です。」
「なるほどね。」
ターゲット層が同じの商売は、本質も同じってことか。
輝村クンのお手並み拝見だな。
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