亀裂③
「おはよう。」
・・・。
・・・。
「・・・あぁ?」
「・・・何だ今日は。グループ集会か?こんな狭い事務所に社員が集まっても、全員は座れないぞ。」
「おい清倫、何でお前までこっち来てんだ。AIjyoはどうした?」
「ちょっと食にうるさいオジサンが飲食事業を始めると聞いて、皆不安らしいんですよ。脱サラ飲食店みたいな末路になるんじゃないかって。」
「何だよ。自分がカモにしてるからって脱サラ起業家を馬鹿にしてやんなよ?あいつらだってあいつらなりに一生懸命頑張ってんだから。」
「で、そんな嫌味を言いにこんな社員集めてきたのか?ご苦労さん。じゃ、業務に戻ってくれ。」
「命数が尽きたってことですよ。あなたに、モラル・サクセス・ホールディングスの社長辞任を要求します。」
「はいはい要求だけな。ホールディングス株の50%は俺が握ってんだぞ?そんなの通るかよ。」
「通らないなら、この場にいる社員達がストライキを起こすだけです。あ、もちろんAIjyoは平常運転ですけどね。」
「・・・なるほどね。こっちの社員を唆して、一生懸命駒を集めてたのか。」
「ええ。あなたが新事業の妄想垂れ流してる間にね。」
「はいはい。それで、俺に辞任を求める社員はどいつだ?ん?」
「はい・・・?」
「俺には見えねーな。どこのどいつが俺に辞任を求めてる?どいつがお前の支持者だ?」
「何を言ってるんですか。だから、ここにいる全員が・・・」
「ばーか。」
「・・・!?」
「知ってんだよ。お前の手口なんて。頑張って周囲を固めたつもりだろうが、俺が潜入させた社員達から情報はダダ漏れ。」
「今じゃお前を支持する奴なんて、ここにはほとんどいねーよ。」
「そ、そんな・・・。」
「今日、こいつらは俺を辞任させるために集まったんじゃない。お前に、AIjyoの社長を辞任させるために集まったんだ。」
「・・・。」
「じゃ、今からここにいる全員に聞くぞ?」
「清倫はAIjyoの社長を辞任した方がいいと思う人~?」
・・・。
・・・。
・・・。
「・・・あぁ?」
「おい。お前ら、何だ?どうした?」
・・・。
・・・。
「僕達は今日、お二人の争いに巻き込まれに来たんじゃありません。」
・・・。
・・・。
「正田・・・か?」
「もうこのグループに未来はありません。大人しく看板を下ろす日が来たんだと思います。」
「正田、お前何言ってる。」
「長年アルバイトとして働かせて頂きましたが、僕は本日から2週間後に退職します。ちゃんと引継ぎはしますから、安心してください。」
「お、俺達も退職します。」
「俺も。」
「私も。」
「おい!正田!お前ら!」
「皆さん、落ち着いてください。退職して、どうするっていうんですか?」
「何か労働条件に不満でも?相談に乗りますよ。あ、もちろん、AIjyoの方で。」
「おい、グループ社長は俺だぞ。勝手な真似すんな。」
・・・。
・・・。
「・・・なぁ、正田、考え直せよ。長い間一緒にやってきたじゃないか。」
「・・・堂徳さん、お世話になりました。」
***
あの日からキッチリ2週間後、正田は退職した。
正田だけじゃない。多くの従業員が一斉に。
奴ら、俺と清倫の策謀に乗ったフリをしてたってことか?
ってことは、誰かが裏で取りまとめをしていた?
一体誰が・・・。
今は新事業や派閥どころじゃない。
ほとんど全ての事業において、人手が足りなくなっている。
グループの事業縮小は避けられない。
それにしても、正田は何で辞めたんだ。
俺以外の人間に乗せられるような奴じゃないと思っていたが・・・。
「・・・あの、話聞いてます?」
「聞いてねぇよ。」
「はぁ・・・。状況分かってるんですか?全事業が滞ってるんですよ?」
「状況は分かってるよ。まぁ、しばらく規模を縮小させて、人員増やしていくしかねーだろ。」
「だから今その話してるんですが。」
「・・・はいはい。ちょっと、飯行くわ。」
「またですか・・・。あの、今本当にシビアな状況なんですけど。せっかく私が各メディアで上場を匂わせてたというのに、これじゃ面子が丸潰れですよ。」
「ストレスだよストレス。じゃ、行ってくる。」
***
「いらっしゃいませー!」
「牛丼特盛り、汁だく、キムチ、ネギ玉。急ぎでね。」
「はい!お待ちください!」
・・・ストレスには違いない。
会社の売上が落ちると、俺は異常な不安に襲われる。昔っからそうだ。
“また”、飯が食えなくなるんじゃないかと。
考えたくなくても考えてしまう。
一生この不安を抱えないために、会社を大きくしたかった。
何を食いまくっても尽きないくらいの金を得たかった。
財布の中身を考える日々から脱したかった。
安定したかった。
「ウッ・・・」
やべやべ・・・変なもんがこみ上げてきた。
「お待たせしましたー。牛丼特盛り、汁だくです。こちらキムチとネギ玉です。」
正田、なぜ退職した。
あんなに期待をかけていたのに、お前も結局馬鹿の一員か。
うちのグループに就職すれば、役職にだってつけてやるつもりだった。
金だってもっと・・・。
・・・金か?
金が不満だったのか?
もっと金をやれば良かったのか?
・・・。
今さら、考えても仕方ないことか。
落ち着け俺。
まぁ、会社の収益が完全に失われたわけでもない。
従業員を集めれば、また元通りだ。
・・・あ、そうだ、自宅の冷蔵庫がそろそろ空になるな。
また一杯にしねーと。
今日は買い溜めだ。
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