亀裂②

モラル・サクセス・ホールディングスは更に加速しました。

あさっての方向に。


まず、AIjyoの人手不足を補うために、新卒採用を増やすことになりました。

それは良いのかもしれませんが、うちのグループにまともな人事部は存在しません。

これまでは堂徳さんや清倫さんの感覚が全てでしたし、AIjyoの人事部は大半が出て行きましたから。


そんなわけで、何の経験も無い人間を集めた急造の人事部が採用を決めているわけです。

こういうのって、普通もう少し時間をかけて体制を整えてからすべきなんじゃ・・・。


僕も採用現場のお手伝いをすることがあります。

採用現場を見ていて思うのは、今までのAIjyo社員と気質の違う志望者が増えているということです。

メディア露出を増やしている清倫さんに憧れて来た学生が多いようで・・・。

まぁ悪いとは言いませんけど、仕事は仕事ナンデスケド。


しかし、そんなミーハー学生が採用現場で優遇されている節もあります。

清倫派閥の活動の一環でしょうか。

会社がどんどん内向きになっていくように思います。



次に、とうとう飲食事業の立ち上げが現実味を帯びてきました。

堂徳さんが無理やりねじ込んだようです。


いや、もちろんグループ内に飲食事業のノウハウを持つ人間なんていないと思います。

それこそ、経験のある人間を既卒で雇うべきなんじゃないでしょうか。

グループ全体の意思統一がなされておらず、矛盾だらけです。

これじゃ経営になりませんよ・・・。






飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していた企業が、ある時点から急に停滞し、衰退していくという話は、起業界において全く珍しくありません。

以前から、僕はその原因がどこにあるのか疑問でした。

もしかして僕は今、その原因の一つを体験しているのかもしれません。


しかし、堂徳さんも清倫さんも、絶対に引かない人達ですからねぇ・・・。

泥沼の内部抗争の結果は・・・


「正田さん!」


「ウッ・・・!ハ、ハイ!清倫社長、ナンデショウカ・・・。」


「あ、驚かせてしまって申し訳無い。いや、実は例の件についてお話したくて。」


「例の件・・・?」


「もう聞いてませんか?ほら例の・・・、飲食事業の立ち上げについてですよ。」


「ハ、ハイ・・・。えぇ・・・聞いてます。」


「正田さんはどう思います?」


「ウ、ウーン。分かりませんけど・・・。」


「私は無謀な挑戦だと思います。グループ事業と何のシナジーも無い飲食事業よりも、今はキュレーションメディアとネット通販事業に特化すべきです。」


「商品だって、いつまでも他社の物を仕入れていないで、プライベートブランドを開発すべきなんですよ。その方が粗利益も増えますし。」


「ハ、ハァ・・・。」


「でも、堂徳さんはもうそんなものに興味が無いようです。先日も、飲食コンサルを名乗る人間を経営会議に呼んで、勝手にプレゼンを始めましたよ。」


「エェ・・・。」


「あっ、言いたいことは分かりますよ。そうですよね?そんなもの上手くいくはずがないですよね?あの人の経営判断に任せていたら危険ですよ。」


「イ、イヤ・・・そこまでは言ってな・・・」


「大丈夫です。口外したりはしません。それに、正田さんは堂徳さんと付き合いが長いですもんね。言いたくても言いにくいことが沢山あるでしょう?」


「ウーン・・・。」


「・・・そこで、堂徳さんを更迭するために協力して頂きたい。」


「コ、更迭!?!?」


「静かに。今、グループ内に根回しをしている最中なんです。」


「ソ、そうなんですか・・・。」


「グループ内にスキル・ノウハウを持つ社員も増え、情報の蓄積も十分です。もう堂徳さんに頼らなくても経営できるんですよ。我々は!」


「ウーン・・・そうでしょうか・・・。」


「そうですよ!そもそも、堂徳さんは今飲食事業に入れあげてます。何の経験も無いのにですよ?大人しくまとめサイトでもやっていれば良いものを。」


「・・・。」


「もう計画は着々と進んでいます。正田さんも協力してください。グループ全体のために。」


「グループのためにですか・・・。ウーン・・・。」


「・・・実は、君にシステム開発部長の席を用意してもいいと考えてます。」


「えぇっ!?」


「でも、多分堂徳さんはそんな人事を許さないかもしれませんねぇ・・・。私は正田さんを評価してるんですけどね。」


堂徳に致命傷を喰らわせるキーマンは、こいつだ。

間抜け面だが、何だかんだグループ全体に顔が利く。

こいつさえ落とせば、他の奴らも計画に巻き込める・・・。


何で正社員を拒んでアルバイトに終始しているか分からないが、これだけの役職をチラつかせて断るはずが無い。

乗ってこい・・・!いや、乗らなければおかしい!


「・・・。」


「ソ、ソノ話本当ですか?」


「・・・もちろんですよ。嘘なんてつきません。」


乗ってきた。ちょろい奴だ。

口約束なんて後でいくらでもひっくり返せるってのに。

何を学んできたんだか。


「ソレジャ・・・協力します。もっと詳しく話を聞かせてください。」


「えぇ・・・。もちろん、協力者には情報を惜しみませんよ。」


「一緒に、もっと多くの人達の役に立つビジネスをやりましょうね・・・。」





馬鹿な奴。お前は一生利用される側だよ。

この内部抗争は、僕の勝ちだ。

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