buy hero④

馬鹿な企業の馬鹿な社員から株は買い取った。

愛敬の間抜け面がどう変わるか、どんな反応をするのか、楽しみで仕方ない。

まぁAIjyoからは追い出すとして、そのあと彼はどうするのだろうか。

もし彼が望むなら、ネオ・サクセスのトイレ掃除として雇ってやってもいい。



・・・あ、来た。










「愛敬さん。」


「えっ?あ、こんにちはー・・・。」


「やっと会えました。私、株式会社ネオ・サクセスの清倫と申します。」


「へ・・・?ネオ・サクセスですか・・・?」


「・・・株式会社モラル・サクセス・ホールディングスの清倫と言えば分かりますか?」


「いえ、すみません。知りません・・・。」


「・・・あなたと同じ大学の起業家ですよ。」


「あっ、そうなんですね!いやぁ同じ大学に起業家仲間がいるとは!これも何かの縁・・・」


「いきなり仲間扱いしないで頂けますか。ある用件があって、ここで待ってたんですよ。」


「用件ですか?」


「私は今、御社の株式を保有しています。」


「えっ?どういうことですか?」


「御社の社員から買い取ったのです。」


「え~!そうなんですね!いやぁ社外の人が株主になってくれるのは嬉しいですね!頑張って上場目指しますっ!」


「何も分かってないようですね。例えば、この株をバリバリの“ハンシャ”に売り払ってもいいんですよ?」


「ハンシャって・・・?」


「・・・反社会的勢力のことです。まぁ、ヤのつく人達とか、詐欺業者とか。」


「えー・・・それはちょっと、嫌ですね・・・。」


「はぁ・・・何も知らないみたいですね。あなた、AIjyoを上場させたいんでしょ?」


「ええ。まぁ・・・。」


「日本企業の上場審査では、反社会的勢力との関係をしっかりチェックされます。株主に“そっちの筋”の人間が混ざっているとバレたら、一発で終わりですよ。」


「え!?そ、そんな!!!」


「私がその気になれば、そういうことも可能だと言っているんです。先ほどから。」


「お、お願いします!それだけは止めてください!これまで皆で上場を目指して頑張ってきたんです!」


「馬鹿ですか。お断りします。」


「ど、どうしたら・・・。何でもしますから!」


「・・・この条件を飲んでくれるならば、あの会社の上場を邪魔しないと誓いましょう。」


「条件・・・?」


「あなたの保有株を、モラル・サクセス・ホールディングスに全て売りなさい。」


「そしてあなたは社長を辞任してAIjyoから消えてください。空いた社長の席には、モラル・サクセス・ホールディングスから新社長を派遣します。」


「そ、そんなこと・・・」


「拒否してもいいですよ。それは自由ですから。まぁ、そうしたら社員の努力が無駄になるでしょうが。」


「・・・。」


「ご安心ください。モラル・サクセス・ホールディングスの傘下企業が行ってる事業は、反社会的勢力に該当しません。安心して経営を任せられますよ。」


「・・・。」









愛敬はあっさりと落ちた。

僕なら対抗策の10や20は思いつくし、徹底抗戦の構えを見せるだろうが、彼にそんな力量は無かったらしい。

まぁ抗ったところで、彼を陥れる方法なんて他に100や200は思いつくけど。


「相手の嫌がることをやる」という、基本的な発想ができない人間に経営なんてできない。

その発想が無ければ、競合他社からの攻撃を予想することも、対策することもできないからだ。


本業馬鹿の末路だな。

僕がやらなくても、どうせこの先誰かに同じようなことをやられていたに違いない。











 ***











「愛敬には「競業避止義務」を負わせました。これで5年間は競合他社に移ったり、同事業を立ち上げることができません。」


「最後までしっかりだな。」


「基本でしょ。」


「これで、AIjyo株の半分以上をうちが占めることになる。事実上の奴隷だ。」


「せっかく急成長中のキュレーションメディアを手に入れたんです。うちの商材のステマ記事を載せまくりましょう。かなりのシナジーが期待できますよ。」


「いいなそれ。また儲かるな。」


「ところで、あいつんとこの企業理念、知ってるか?」


「「人を活かし、人の役に立ち、仲間を信頼する」でしょ。鳥肌が立ちますね。」


「お前みたいな詐欺師か本物の馬鹿が言いそうなことだ。」


「私は詐欺師じゃないですよ。」


「仕事が人の役に立つかどうかなんてクソどうでもいいよな。大事なのは、旨い飯を安定して一生好きなだけ食い続けられるかどうかだ。仕事はそのための手段で、客は奴隷。」


「はぁ?大事なのは多くの人間から羨望の眼差しを向けられることでしょ。仕事や金はそのための手段で、客は生贄です。」


「は?お前そんな下らないことのために働いてんのか?マルチなんてもんに手を出しておいて、羨望の眼差しが欲しい?矛盾してないか?」


「怪しげなビジネスからスタートして、後から真っ当なビジネスにシフトした大企業なんて珍しくないでしょ。今はとにかく金と信者を確保することが大事なんです。」


「それで?人からの評価なんて集めて、どうすんだ?」


「私を見限った奴らにお礼参りするんですよ。まずは両親、そして兄弟、親戚・・・。所得や名声で彼らを上回り、見下し続けるんです。」


「お前、自己顕示欲の化け物だな。」


「何とでも言ってください。あなたの評価は必要ありませんので。」


「まぁ、人の役に立つために働くよりはマシか。」


「そんな下らないことと比べないで頂けますか?」



確かに下らない。

しかし、「評価を得るために働く」ねぇ・・・。

段々と、清倫のことが見えてきた。

今回の件といい、こいつも意外と隙のある男だ。



「そういや、正田はAIjyoへの就職を志望してたんだったな。丁度良い。うちからAIjyoに何人か派遣するから、あいつも行かせよう。」


「馬鹿な社長が消えたAIjyoで働けるなんて、正田はラッキーな男だ。」


「彼、今日はまだ来てないですよ。」


「あ・・・?珍しいな。遅刻なんて。何かあったのか?」


「さぁ・・・。」








僕の観察によれば、堂徳と正田の関係は今後拗れていく。

堂徳は頭のキレる男だし、馬鹿の生態もよく理解しているが、それ以外の人間の機微にはやや疎い。

正田の変化にまだ気づいていないらしい。


そういうところがお前の弱点なんだ。

突かない理由が無い。

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