buy hero②
僕が働く理由。
そんなのは決まってる。
人から評価されるためだ。
それ以外、どうでもいい。
堂徳の奴、「飯食ってる時が一番幸せ」・・・?
はぁ。いいよな。楽なもんだ。生きていくだけで満たされるような奴は。
頭スッカラカンで。
「ん・・・?」
「次世代を担うベンチャー企業説明会・・・「株式会社AIjyo」代表取締役 愛敬誠」
・・・僕はこういう、“若いベンチャー起業家”が大っ嫌いだ。
なぜ嫌いか。
そんなの決まってる。
僕よりも輝こうとしているからだ。
この感情をもっと分かりやすく言えば、嫉妬。
自分が輝きたいと思っている人間ほど、他人の輝きが気に入らないものだ。
「・・・どんな顔した奴だ。見に行ってやる。」
***
「株式会社AIjyo代表取締役の愛敬誠」
こいつの顔が忘れられなくなりそうなほどムカつく説明会だった。
イノベーションだとかビジョンだとか、キラキラした顔で大ボラを吹いて、周囲から羨望の視線を集める。
気に食わないクソ野郎だ。
キュレーションメディアなんて、今時別に珍しくとも何ともないじゃないか。
何がAI開発だ。本当にやってるのか?流れに乗っかって注目を集めたいだけじゃないのか?
稼いでる金なら絶対僕の方が上なのに・・・。
説明会参加者は全員、奴のキラキラ話を聞き入ってしまっている。
間抜けどもめ。
違うだろ。羨望の目を向けるべき対象は僕のはずだ。
同じ大学内に、僕よりも成功した経営者なんていちゃいけないんだ。
愛敬誠・・・。
***
「中身があるんだか無いんだか、よく分かんねーなぁ・・・。」
綺麗に作られているが、経営において重要なことは何も書かれてないホームページ。
ベンチャー企業とやらのホームページは大体そうだ。
“グローバル”だとか“イノベーション”だとか、そんな単語を見てるとクラクラする。
経営の本質はそんなんじゃ・・・
「堂徳さん。」
「ん・・・?今調べごとで忙しいんだ。後にしてくれや。」
「こっちも急用です。AIjyoという会社を乗っとりましょう。最悪、潰すだけでもいいです。」
「・・・どこでその会社を?」
「うちの大学で企業説明会を開いてたんですよ。目障りです。キュレーションメディアを運営しているので、こちらの事業とも競合する可能性があります。」
「・・・あー、だから正田も。」
「正田?何のことですか?」
「うちを辞めて、その会社に就職したいんだとさ。」
「なっ!?」
「もちろんまだ引き止めてるけどな。何だ、珍しく感情的だなお前。」
「・・・。」
「何だ?AIjyoの何が気に入らない?ん?」
「別に。邪魔だから排除するってだけですよ。」
「ふーん・・・。今そこのホームページ見ててな。ちょうど内部の情報が欲しいと思ってたんだよ。特に株式回り、何とかならないか?」
「株式・・・なるほど。大学生が作った新興ベンチャーならその辺は隙がありそうですね。」
堂徳の狙いは大体分かる。
会社を潰すのではなく、乗っ取るために株式を買い占めたいわけだ。
「AIjyoはまだ未上場企業だから、株が市場に流通しているわけじゃない。」
「分かってます。要するに、社長の愛敬以外で、AIjyo株の保有者を探せばいいってことでしょ。」
「察しが良くて助かる。」
「愛敬が100%株主なら狙いは外れですけど。」
「まぁ、まずはそこを調べる必要があるってことだな。」
「あと、ストックオプションもでしょう?」
「そうそう。あーもう、分かってんならいいや。」
最近の流行りか、従業員にストックオプションを割り当てている可能性もある。
だとしたら、その条件次第でいくらでも切り崩せる。
愛敬誠を潰せる。
「この件は私が仕切ります。私が指示するまで堂徳さんは待機しててください。」
「お前は俺の上司かよ。」
「じゃあ、もう行きます。」
「話聞かねーなぁ。」
***
「ねぇ正田さん。」
「アッ、清倫さん。」
「聞きましたよ。就職活動してるんですって?」
「アッ、そうです。」
「へぇ~。どんな会社に?」
「エット、ベンチャーを中心に考えてて・・・。」
「そうなんですね。あ、そう言えばここ最近、AIjyoってベンチャー企業が大学で連日説明会やってますよね。」
「エッ!?アッ・・・そうですね。」
「あの会社ってどんな会社なんでしょうねー?気になるなぁ。」
「じ、実は、僕昨日AIjyoの1次面接を受けてきて・・・。」
「えっ?それは知らなかったなぁ。どうでしたか?」
「イチオウ、次の選考には進めるみたいで・・・。」
「おー、凄いですね。しかしベンチャーって、外からじゃ全然状況が見えないですよねー。良いことしか言わないし。」
「アッ、AIjyoはそんなことないですよ!」
「へぇ~・・・。でも、結局株は社長の愛敬さんが100%握ってたりするんじゃないんですか?一人勝ちは愛敬さんだけとか。」
「チ、違いますよ!愛敬社長は仲間を信頼して、全従業員にストックオプションを付与してるんです!」
「ストックオプションを?全従業員に?」
「ソ、そうです!一人だけ勝とうとか、そんなこと考えてませんよ!」
「そうなんですねぇ。でもまだ信じられないなぁ。そうだ、そこまで言うなら、従業員の方々と会わせてくださいよ。」
「エッ!?」
「やっぱり直接話を聞かないと分かりませんし。同じ起業家として、勉強させてくださいよ。」
「エッエッ・・・」
「いいからいいから。誰でもいいんで適当に会わせてくれたら、私の方で勝手に関係作っちゃいますから。」
「エッ~・・・」
数日後、正田の“友達”ということで、僕はAIjyo社員と接触することに成功した。
ベンチャー勤務者というのは何でこう腰が軽いのか。
人と会うことに対する警戒が無さすぎる。
人脈が広がるとでも?浅はかだ。
人脈にも良いものと悪いものがあるってことを理解していない。
いくら成長していようが、所詮、大学生が社長をやっているチャラついたベンチャーってことだ。
***
「はい。AIjyoについての調査結果がこれです。」
「はえーな。」
「資料を見れば分かると思いますが、脇の甘い本業馬鹿企業ですから。」
「・・・本当だな。これは酷い。」
「AIjyoは全従業員にストックオプションを付与しています。そして付与日の2年後から権利行使できるようになっているため、上場前に権利行使してAIjyo株を保有している従業員も珍しくありません。」
「しかも、その株には譲渡制限がつけられていないと。」
「はい。」
「馬鹿中の馬鹿だな。普通は上場まで権利行使できないとか、譲渡制限をつけるとかするもんだが。」
「恐らく金融に詳しい人間がいないんでしょう。コンサルも入れてないようですし。本業のことしか考えてないベンチャーにありがちです。」
「じゃ、もう今回の戦術は決まったな。」
「ええ。」
もしAIjyoを奪ったら、愛敬は更迭かな?それとも飼い殺しかな?
楽しい悩みが一つ増えた。
僕以外が輝くなんて、あってはならないんだ。
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