buy hero①
「お前、いつもその砂の塊みたいなブロックとゼリー食ってんな。」
「面倒臭いんですよ食事。これがあれば頭は回りますし。」
「信じられねぇ・・・。チャンスをみすみす逃してんのかよ。」
「は?チャンス?」
「飯食ってる時が一番幸せなんだから、空腹は幸せのチャンスだろ?」
「いや、意味不明なんで。食事が幸せ?馬鹿なんじゃないですか。」
「おいおい・・・正気かよ。じゃあお前、何のために仕事してんの?」
「・・・別に言う必要無いでしょ。そろそろ大学に行きます。今日はゼミなんで。」
「よく仕事しながら大学なんて通えるな。」
「あまり通ってないですよ。普段は子会員達に代返させて、テスト対策も準備させればいいんです。私は短時間で単位を取れます。」
「あんた、マルチなんてやってる場合か?今すぐ宗教法人立ち上げて信者達の前でイタコ芸でもやるべき人材なんじゃないのか?」
「・・・なるほど、それも良いアイディアですね。」
「冗談だよ。しかし、そこまでして大学を卒業したいかね。」
「中卒のあなたには分からないでしょうが、上流家系には色々あるんです。それに、私のビジネス上「大学生起業家」という肩書きも重要ですから。」
「はぁ。上流の方々は大変ですねぇ。」
「・・・もう行きます。」
「はい、いってら。」
大学ね・・・。
そう言えば、正田はそろそろ就職活動の時期か・・・。
あいつ、うちの会社に就職してくんねーかな。
***
ドリーム・チャレンジャーの一件から、うちの会社は更なる急成長を見せています。
大きくなっていく会社で働いていて感じるのは、喜びではありません。恐怖です。
マルチの販売現場を生で見て、僕はやっと自分がしていることを理解しました。
会社の規模が大きくなるにつれ、騙される人達も増えていきます・・・。
堂徳社長と清倫さんを見ていてよく分かりました。
僕はああいう風になれません。
お二人とも、普通の人間が持ち合わせているべき大事なものがポッカリありません。
だから、普通なら越えようとしない線を平気で越えてしまうんです。
確かに、利益以外捨てられるものを全て捨てているかのような仕事姿勢に憧れた時期もありました。
しかし、それはやはり人間の域ではありません。
お金のために始めたアルバイトでしたが、まだ人間に戻れるうちに、普通の道に進もうと思います。
幸い、十分なお金と、エンジニアとしてのスキルも得られましたし・・・。
うう・・・。しかし、就職活動というのは恐ろしいものです。
コミュニケーション能力だとか、身だしなみだとか、それ僕が最も苦手なやつじゃないですか。
キャリアセンターも混んでるし、行きにくいんですよね・・・。
「はぁ・・・就職コワイ。」
「・・・ん?」
「次世代を担うベンチャー企業説明会・・・「株式会社AIjyo」 代表取締役 愛敬誠」
「ベンチャー企業かぁ・・・。」
僕みたいなエンジニアは、やっぱりベンチャー企業に一種の憧れを持つのだと思います。
IT分野のけん引役は、間違いなく海外のベンチャー企業ですから。
「本日17時、9211教室・・・。」
***
「株式会社AIjyo代表取締役の愛敬誠」
この名前が忘れられなくなるような説明会でした。
なんと、愛敬さんはこの大学の学生だったのです。
経営されているAIjyoはキュレーションメディアで急成長しており、現在はAIの開発に取り組まれているとか。
事業内容もさることながら、企業理念の「人を活かし、人の役に立ち、仲間を信頼する」という言葉が響きました。
ああ・・・僕もこういう会社でエンジニアとしての腕を振るいたいものです。
僕も大学1年生の頃は、そういう志を持っていたんでした。
堂徳社長達に毒されて、志を忘れていました。
「よ、よーし・・・。覚悟を決めました・・・!」
***
「・・・何ィ?辞める?」
「ヒェッ・・・。」
な、何て恐ろしい顔をするんでしょうか。
大学生のアルバイトが辞めるなんて、当たり前のことじゃないですか・・・。
いや、堂徳社長にそんな常識は通用しないのかもしれません。
最悪、小指を切り落とす必要が・・・
「そうか。まぁ大学生だもんな。来るべき時が来たって感じだな。」
「へッ?」
「そうだ。これまで頑張ってくれたから、退職金つけるよ。」
「エエッ!?」
「で、うち辞めて、これから就職活動するのか?」
「ソ、ソウデスネ・・・。でも志望先は今のとこ1社だけで・・・。」
「ふーん。じゃあ、今すぐ忙しくなるってわけじゃないのか?」
「エ、エート・・・そうですね。」
「じゃあとりあえずその1社受けて来いよ。それまで在籍しててもいいし。わざわざ今辞める必要無いんじゃないか?」
「エッ!?アッ・・・ハイ。」
「よし話は終わりだな。じゃあまたしばらくよろしく。」
「アイ・・・。」
僕は「辞める」と言ったのに、なぜこうなってしまったのでしょう。
不思議です・・・。
「ちなみに、何て会社受けるんだ?」
「アッ、株式会社AIjyoってとこデス・・・。」
「ふーん。何してる会社?」
「今急成長中のキュレーションメディアを運営してて・・・AI開発とかもやってるそうデス・・・。」
「ちょっと待ってくれ・・・AIjyo、AIjyoっと・・・」
「おー、凄いな。サービス開始1年で国内利用者数200万人だって。」
「ハ、ハイ。」
「・・・欲しいな。」
「エッ!?」
「いや、なんでもない。」
それなりに付き合いも長いので僕には分かります。
堂徳社長のこの悪い顔は・・・
悪いことを考えてる顔です・・・。
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