夢を!諦めるな!②
「失礼しまーす・・・。定期清掃に参りましたぁ・・・。」
「誰もいませんよねー・・・。早朝ですもんねー・・・。」
数週間前、堂徳社長は僕に言いました。
「管理会社の清掃員としてあの会社に潜り込んで、顧客データをコピーし、時間差で1週間後に元データが削除されるようにしろ」と。
僕は珍しく反対しました。
「僕のリスクが高すぎます!」と。
そこまでは僕もまともでした。
堂徳社長はボソっと言いました。
「残念だ。50万円の特別手当が出る仕事だったんだが・・・」と。
ああ、自分の性格が恨めしい。
「えーっと、パソコンパソコン・・・。無いですね。デスクの中でしょうか。」
デスクトップは無いと聞いていますから、ノート型なんですかね。
ジャラジャラ・・・
なぜ僕がデスクの鍵を持ってるのか、僕もよく分かりません。
清倫さんに渡されました。一体何者なんでしょう。
このカギを用意したのは清倫さんの“知り合い”らしいです。一体何者なんでしょう。
考えれば考えるほどヤバイ臭いがするので、考えるのは止めましょう。
今はとにかく、パソコンを探すこと・・・。
・・・。
・・・。
「多分、ここが一番偉い人のデスクでしょうか・・・。まずはここからですね。」
ガチャ・・・
ガラガラ・・・
「えぇ~・・・。」
どういうセキュリティ感覚をしてるんでしょうか。
ノートパソコンがゴロっと入ってます。
いやでも、意外とこういうのあるらしいんですよね。零細企業とかだと。
「じゃあ・・・やりますかね・・・。」
***
「で、これが正田がコピーしてきたデータ。」
「大漁ですね。」
「ああ。」
「たとえ別会社を立ち上げたところで、この顧客データが無ければ、収益化までには長い時間がかかるでしょう。」
「元データは1週間後に削除されるようになっている。」
「仕掛けるなら今ですね。」
「じゃあ、そろそろドリーム・チャレンジャー潰しするか。」
「私は被害者達の洗脳を解いてきますよ。」
「俺はあの企業の悪評をネットに投下させまくる。」
「正田にはボーナスをくれてやらないとな!ハハハ!」
***
「はいみなさーん!ドリーーーーーム!」
「「「「ゲット!!!!」」」」
「はい!熱意のあるドリームゲットありがとうございます!」
「今日のセミナーで、また一歩夢に近づきましょう!!!」
マルチをやっている僕が言うのも何だが、よくこんなもので騙される人間がいるものだ。
常人ならば30分と聞いていられないようなセミナーだと思うが。
「今日のドリームプランは!この空気清浄機です!!!」
「ある優良メーカーが3年の歳月をかけて開発したスーパー多機能空気清浄機!」
「なんと!空気を綺麗にするだけでなく!マイナスイオンやナノイーを噴出します!」
「「「おぉ~~~~・・・。」」」
「さ・ら・に!水素水を作ることまで可能です!」
「この空気清浄機は通常1台30万円ですが・・・何と!今なら定価の5割引で販売権を獲得できます!」
「つまり!これを1台売るごとに!皆さんは15万円も儲かるのです!20台も売れば!すぐに加盟金もペイできます!!!」
「「「おお~~~~~!!!!」」」
「しかし残念ながら、この販売権を得られるのは先着10名様のみです・・・。」
「「「はい!はい!はい!はい!」」」
「積極的なご応募ありがとうございます!しかし困りましたね。応募者の定員を超えてしまいました。」
「ここは公平に、福引で抽選とさせて頂きます!外れても恨みっこ無しでお願いします!」
サクラを使って応募者を多く見せかけ、カモを釣る古典的な手法だ。
福引で抽選と言っておいて、実はカモ達しか当選しないような仕組みになっている。
カビの生えたやり方だが、定員以上の応募者がいる様子を見せることで安心感や同調を誘い、焦らせることで思考時間を奪う。
まぁ、使い古された手にはそれだけの理由があるものだ。
えーっと、本当に騙されているカモは・・・
彼と彼・・・、あと彼女・・・。
とりあえず、あの3名から再洗脳していくか。
***
「こんにちはー!」
「えっ!?」
「あ、すみません!さっきのセミナーに参加されてた方ですよね?僕も参加してたんですよ。」
「は、はい・・・。」
「セミナー参加者で集まって、カフェでもどうかって思って。あと二人にも声をかけてるんです。」
「そ、そうなんですか。」
「もし良ければ参加されませんか?無農薬野菜のサラダが美味しいお店なんですよ。それに、こういう仕事って人脈も大事じゃないですか。」
「はぁ・・・それじゃあ・・・。」
***
「いやぁ、さっきのセミナーは衝撃的でしたね!」
「そ、そうですね!」
「はい。私、これで心機一転頑張ろうと思ってて。」
「僕もあの空気清浄機はイケてると思います。」
「・・・馬鹿ですかお前ら。」
「「「!?」」」
「私が衝撃を受けたのは、皆さんの馬鹿さ加減にですよ。」
「な、何なんだあんたいきなり!」
「騙されてますよ。」
「えっ!?」
「さっきのセミナー、皆さんのことを騙してます。」
「馬鹿な・・・。」
「だって、あの人はいくつものグループ企業を統括している社長さんですよ?」
「そうそう。どっかの零細企業ならともかくねぇ?」
「グループの統括ね・・・。確かに違いありません。従業員1名の企業を数社取りまとめてるだけでも、グループの代表取締役ですからね。」
「ええええ!?」
「法人なんて、数十万払えば簡単に作れますよ。それを5~6社作ったところで、別に大した金額じゃありません。「グループの代表取締役」なんて、少しの金があれば誰でもなれるんです。」
「「「・・・・!?」」」
「そ、そんなことを言うあんたは何者なんだ!」
「申し遅れました。私はこういう者です。」
「NPO法人日本詐欺救済協会・・・?」
「はい。皆さんのように、詐欺や詐欺まがいのビジネスに騙されかけている方を救済するNPO法人です。」
僕のような人間は、いくつもの名刺を常に持ち歩いている。
こういった「NPO法人 日本○○協会」といった類の肩書きは、非常に使い勝手がいい。
「そうだったんですか・・・。と言うことは、やっぱりアレは詐欺・・・?」
「正確に言えば、詐欺ではなく、詐欺まがいのビジネスです。間違いなく皆さんは金を取られるだけで、儲かりませんよ。」
「しかし、あれだけの空気清浄機が定価の5割引!15万円で販売できるんだぞ!?」
「そうそう!こんな利益率の高いビジネスが他にあるか!?」
「今さらサラリーマンになんて・・・戻りたくありません・・・。」
「はぁ・・・。定価から5割引って仰いますけど、その定価は誰が、どうやって決めたんですか?」
「それはメーカーが、原価とか人件費とか色々計算して・・・。」
「あのメーカーの名前聞いたことあります?どんな会社か調べました?」
「いや・・・。」
「私、さっき企業名をネット検索してみたんですけどね、それらしい企業が無いんですよ。実在しないか、あるいはホームページすら作ってない企業か。」
「そ、そんな・・・。」
「そんな名前も知れぬ企業の作った製品の原価?人件費?何ですかそれ。信用に値しませんよ。」
「・・・。」
「皆さんはただ単純に、「定価の5割引だから」って理由でお得だと感じてるだけでしょ?」
「恐らくアレは、最初から値引きすることを前提に、ドリーム・チャレンジャーが吹っかけてるだけです。似たようなスペックの製品はもっと安く売られてます。」
「ど、どうしたらいいんですか?さっき契約書を書いてしまいました・・・。」
「大丈夫ですよ。私は皆さんが救われる方法を知ってます。いいですか?私の言うことを、よーく聞くんですよ・・・。」
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