道徳 in 倫理の巣③

「堂徳さん!今しかないんですよ!このビッグウェーブに乗るのは!!」



こいつらのセールストークはともかく、その粘り強さには感心する。

セミナー後、このカフェでかれこれ1時間は語られている。



「目の前のご飯が美味しいかどうかは、食べてみないと分からないじゃないか!!」



いーや?

見た目と匂いで分かることも多いと思うが。



「今日、君はとてつもない情報を知ったんだよ!やらないなんてもったいなさ過ぎる!」



とてつもない情報をわざわざ他人に無料で教えるかよ。



「君の友達が使ってる日用品を、最高のブランドに変えさせるだけさ。友達は喜ぶし、君も儲かる。WinWinなビジネスなんだよ?」



1本4,000円のシャンプーを使う友達はいねーんだよなぁ。



「不労所得が欲しくないのか?」



所得はもっと欲しいな。別に不労じゃなくてもいいが。



「まぁまぁ皆さん。断るなんて、僕は一言も言ってないじゃないですか。

ちょっと検討する時間が欲しいだけですよ。何でそんなに焦ってるんですか?」


「いや、焦ってなんてないよ?」


「うん。焦ってるわけじゃない。」


「そ、そうだよ。でもね?」




「「「今返事が欲しいんだ!」」」




それを焦ってるって言うんじゃないのか。

もうマルチ商法のやり口は大体理解したし、こいつらは用済みなんだけどな。




・・・しかし、サクラだよなぁ。マルチ商法に参入するなら、サクラができる人材が必要だ。

それに、こうやって熱心に勧誘する人材も必要だろうな。

・・・マルチ商法も意外と大変だぞ。

手っ取り早く参入する方法は無いもんか。



「堂徳クン、時間というのはね、お金なんだよ?」


「そうだよ。こうやって迷ってる間も、金を稼ぐ機会を失っているんだ。」



手っ取り早く・・・。



「堂徳さん、僕達も金に等しい時間を使って君と会ってるんだよ!?」



ん~・・・。良い方法は無いもんかね。




「堂徳さん!聞いてる!?」



ん・・・?



「堂徳クン、さっきから態度が失礼なんじゃないか!?上の空じゃないか!」



「あ・・・それでいいか。」



「「「・・・は?」」」



「いや、君らでいいじゃんって思って。」



「な、何が・・・?」



「株式会社ネオ・サクセスの代表と会えないかな?」



「は?会えるわけないだろ?」



「チーフの俺達だって、年に数度、全体ミーティングで顔を見るだけだぞ。」



「へぇ。そうなんだ。えーっと、ホームページ見たけど、「清倫」って人だよね。代表。」



「そうだけど・・・。」



「会いたいな。」



「会ってどうするの?今その話関係無いでしょ?」



「いい?このビジネスは今しか・・・」


「さっきさ、君ら俺にサプリメントの商品提案したでしょ。」






「え・・・?」






「あ、ああ・・・、「ネオサプリ トライX」のこと?」



「そうそれ。」



「説明聞く限り、凄い商品だよね。効果なんだっけ?」



「これを飲めばお肌すべっすべ!」



「あー、それじゃなくて、他にも何か言ってたでしょ。」



「ダイエットに超効く!」



「違う違う。もう一つの効果。」



「これを飲んだら病気も治る。」


「はいそれ、特商法&薬事法違反。」






「「「え・・・?」」」






「ロクな根拠も提示せず、そんな断定的な言い方したらダメだろ。」


「あんたらが売ってるサプリメントは健康食品であって、医薬品ではない。」


「健康食品を医薬品と勘違いさせるようなセールストークは特商法と薬事法に引っかかってるよな?」


「特商法・・・?薬事法・・・?」


「マジかよ。聞いたことない?自分が取り扱う商品に関する法律は押さえるもんだろ普通。

マニュアルとかあんだろ?ちゃんと勉強しろよ。だからお前らいつまで経っても成功しねーんだよ。」



「「「・・・。」」」



「おい小森、林。お前ら何がチーフだ?上司ぶりたいなら脇の甘さ無くせや。」



「「す、すみません・・・。」」



「厳密に言えば他にも色々犯しちまってるから、今からしかるべき場所に通報しようと思う。」


「あ、名刺ありがとな。後でどっかから連絡いくと思うから。」


「ちょ、ちょっと待って!」


「待たない。ここを出たらすぐにタレ込む。」


「お願いします・・・。」


「じゃあ代表だせよ。」


「は、はい?」


「お前のとこの代表。清倫。どうにかして死ぬ気で連絡取ってアポ取り付けろ。」



「「「・・・。」」」









***










コンコン


「お邪魔。」


「ノックは3回。「お邪魔」じゃなくて「失礼します」でしょ。」


「うわ、思ったより神経質な奴だな。お前が清倫?」


「初めまして。ネオ・サクセスの清倫です。」


「はいはい。俺、そちらの末端社員から詐欺を受けそうになった可哀想な男。堂徳です。」


「何を勘違いされてるか分かりませんが、彼らはうちで雇用している人間ではありませんよ。

あくまで個人事業みたいなものですから。彼らがしたことに責任なんて持てません。」


「苦しい言い訳だと思わねぇの?一切責任が無いとは言えないだろ。」


「まぁ時間をかけて責任を追及されてもいいでしょうが、あなたに何か利益あるんですか?」


「俺、これからマルチ事業を立ち上げるんだよ。商売敵が潰れてくれるなら楽なんだが。」




「・・・。」




「・・・。」




「それで、さっさと本題に入ってくれませんかね。」


「会社立ち上げようぜ。俺は今、馬鹿が群がるネットメディアを沢山持っている。各サイトのジャンルと月間PV数はこの資料の通り。」





「・・・。」




「提携や合併ではなく、新会社の立ち上げですか。今の会社を清算しろってことですか?」


「持ち株会社だよ。共同出資で新会社立ち上げて、今俺達がやってる会社を子会社にしちまえばいい。俺の堂徳商事と、お前のネオ・サクセスをな。」


「うちのメディアでマルチの広告出して集客するから、あんたのとこでクロージングしてくれ。あ、株比率は70%:30%で。」


「70%が私ですか。」


「俺だよ。」


「セミナールームの手配や人員も必要なんですよ。40%:60%。」


「俺が60%か。」


「私ですよ。」


「こっちだって無料でやってるわけじゃないんだが。まぁその辺はお互い負担するとして、大筋は良いか?50%:50%で。」


「・・・詳細は後で詰めましょう。」


「OK。」







「で、その末端がやったことですが・・・。」


「あいつらは教育だな。親会員にも言っとけよ「馬鹿には手綱つけとけ」って。」


「騒ぎにしないなら結構。教育は言われずともやります。」


「あっそ。じゃあまた後日・・・。」










「・・・あ、一言言っておきます。」


「ん?」


「うちはマルチじゃないですよ。」


「は?」


「MLMです。」


「しゃらくせー。」

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