道徳 in 倫理の巣②
“ホームパーティー”なんて、生まれて初めてだ。
俺はよく知らなかったのだが、どうやら“ホームパーティー”とは、
①すげぇハイテンションな奴らに囲まれ、意味も無くハイタッチをさせられる。
②出てくるお茶やクッキーに全て「オーガニック」や「健康」などという解説がつく。
③長ったらしい肩書きの偉そうな奴の講演DVDを1時間視聴する。
④みんなで感想を述べ合う。
⑤今後の夢について語り合う。
こういうものらしい。
なるほど。これが“ホームパーティー”か。心温まるな。
俺はこの“ホームパーティー“とやらを、「知恵遅れのティータイム」と脳内変換することにした。
辛いのは、俺もちゃんとソレっぽさを演じなければならないということ。
周りの奴らは異常な盛り上がりを見せている。
俺が心底白けるくらいに。
ピンポーン
「あ、来たかも。ちょっとみんな待ってて。」
まだ誰か来るのか。
「エリアマネージャー、どうぞ。」
「こんにちは!!!」
うっさ・・・。
「「「「こんにちはー!」」」」
うるせぇよ。
「みんな、サクセース?」
「「「「サクセース!!!!」」」」
うわキッツイなこれ。
「OK!みんなで夢を実現しましょう!」
「・・・あ、君が今回のゲストかな?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
お手並み拝見。
「君の夢は何ですか?」
「いやぁ、まだそういうのがよく分からなくて。」
「それはいけないねぇ。もっと夢を持たないと。」
「はぁ・・・。」
「もっと夢を持って、感動しないと。心が貧しくなる。感動は心の栄養だからね。」
言ってて体がムズムズしないのかこいつ。
「この縁を大事にしようね。」
「ええ。そうしたいです。」
勉強とは言え、付き合う方の身になって欲しいもんだ。
俺は健常者だぞ。
「さて、それでは「ドリーム・ゲット・オポチュニティ・ミーティング」を始めようか。」
「「「「はい!!!!」」」」
ドリームゲット・・・何?
「堂徳さん、DGOMルームに移動しますよ。」
「はいはい・・・。」
だから、DGOMって何だよ。
***
案内されたセミナールームには、30人くらいが座らされていた。
部屋を見回す。
・・・あいつ、サクラだな。
あいつも。
こいつもそうだ。
多分、そこの奴も。
自分はカモる側だと思っている目つきをしている。
そういう思考を回している人間の目だ。
カモられる奴ってのはもっと・・・そう。あそこに座ってる奴みたいな感じだ。
人間が人間を見た時に働く直感というのは、いつ身に付くものなんだろうか。
“やられる奴”は、大体見れば分かる。
具体的に言えば、服装や髪型、背筋、目つき、口元、挙動、臭いとか・・・。
まともな教育を受けていない人間に共通するポイントというのがあるもんだ。
そういう人間ばかり見てきた俺には、よく分かる。
「!?」
席に着いた瞬間、会場が暗くなった。
「皆さん、勝ち組になるにはどうしたらいいのでしょうか!」
さっきのエリアマネージャーの声だ。
「毎日、ちょっとの作業で!」
「爆発的に稼ぐ方法があるとしたら!?」
「一切リスクを負わずに!」
「安定的に毎月300万円を稼ぐ方法があるとしたら!?」
「そんな夢みたいな方法を!」
「今日は、皆さんだけにお教えします!」
「もし私の言う通りにすれば・・・」
「これだけの大金を稼ぎ出すことも可能です!!!」
暗闇の中、口を開けたジェラルミンケースにスポットライトが当たっている。
中にはギッシリと札束が詰まっている。
ベタなやり口だが、まぁ確かに、効果があるかもしれない。
「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」
サクラども、テンションたけーよ。
「サクセース?」
「「「「サクセース!!!!」」」」
その「サクセース」ってやつ、なんなんだよ。
・・・まぁ、これも勉強だ。
***
「ご静聴ありがとうございました!!」
パチパチパチパチパチ
エリアマネージャーのプレゼンはなかなかのものだった。
インパクト重視で誇張された結論、極端な例の提示、文脈を無視した偉人の言葉、
既存システムの批判、システムに弾かれた人間達の肯定・・・。
俺も本質的に似たような仕事をしているから分かる。
恐らく、ここに集まった奴らにとっては聞き心地の良いものだろう。
馬鹿向けにカスタマイズされたプレゼン。
聞いててむず痒くなるが、効果的なのは間違いない。
また、サクラ達の動きも見事だ。
リアクションのタイミング、テンション・・・こりゃ結構練習してるな。
全て計算して作られているセミナーだった。
これは参考になる。
・・・しかし、サクラかぁ。
ちゃんとトレーニングされたサクラを用意するのは、ちょっと大変だぞ。
どうしたもんかな。
「それでは、この新時代のビジネスに参加されたい方は、今お配りしている書類にサインをお願いします!!」
・・・これか。
年会費や仕事内容、そして細かい規約が数ページに渡り記載されている。
そうそうこれだよこれ。
この規約ってのが一つのノウハウなんだ。
ありがたく頂いていこう。
さ、帰宅だ。
「ちょ、ちょっと待ってよ堂徳さん!」
「ん?」
あ、最初に俺と正田を勧誘した奴だ。
めんどくせーな。
「何?帰っちゃうんですか?書類にサインしました?」
必死かお前。
「あー、かなり前向きに考えてますよ。ちょっと一旦検討しようと思ってるだけです。また来ますよ。」
「そ、そうですか?」
「・・・。」
「・・・。」
「それじゃ。」
もうビジネスのやり方は理解した。お前に用はねーよ。
「ちょっと待って!」
「はい?」
「ちょっとさ、その辺でコーヒーでもどう?」
「いやぁ、ちょっと今日はこれから用事があって。」
「そう言わずに行こうよ。」
「「そうだよ。縁を大事にしようよ!!!」」
何だっけこいつら。小森と林だっけ。
横から出てきやがった。
また1対3か。
まぁ、これも勉強ついでかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます