笑いながら、へんな歌って言った。
両目洞窟人間
笑いながら、へんな歌って言った。
外回り中に適当に入った喫茶店で、学生時代に聞いていたナンバーガールのイギーポップファンクラブが流れていたから、僕は必然的に名古屋さんのことを思い出す羽目になってしまった。
あの部屋で丸くなって本を読んでいた名古屋さんのこと。
名古屋さんのかっこいい横顔のこと。
ジャキジャキと鉄っぽく鳴るギターの音は、昼休憩に入る喫茶店としてはいささか大げさすぎるからか、かき入れ時にも関わらず客は少なかった。
でも、そのジャキジャキした暴力的なギターの方が僕にとっては自律神経がだいぶ整う。少なくとも、ピースフルな空気を振りまいているようなボサノヴァカバー的な良さげな雰囲気の音楽よりは。
そして、ジャキジャキしたギターの音に耳を傾けているうちに、学生時代に住んでいた大学から徒歩15分の家の匂いが立ちこめてきた。
初めて一人暮らしをしたあの家。
オートロックも無いマンションの二階の角部屋。
部屋にはいつも乱雑に洗濯物が干してあって、壁に適当に拾ってきた映画のチラシをはっつけていて、本があちこちに散乱していて、音楽が常に鳴っていたあの部屋。
有り余るほどの自由と窮屈なほどの僕の好きなもので埋め尽くされた部屋の匂い。
名古屋さんがうちに来るようになったのはいつぐらいだろうか。
騒げれば場所なんてどこでもいい大学生向けにチューンナップされた薄いお酒と油にまみれた棒きれのようなポテトフライが3000円でたらふく胃に詰め込むことができる居酒屋で行われた何度目かのサークルの飲み会。
隣の人の声すらも聞こないような騒がしい飲み会。
大勢のサークルのメンバーに紛れて僕と名古屋さんはいた。
名古屋さんは先輩だった。
名古屋さんとはそれまでも何度かはしゃべっていたが、大した話なんてしていなかった。
名古屋さんの口調や、名古屋さんの端々から出る趣味趣向がそんなに合わないなと思っていて、人付き合いが得意でない僕にとって名古屋さんは別の惑星から来た人のような印象を持っていた。
名古屋さん自身、場の中心にいるタイプではなく、こうした飲み会の場でも、薄い酎ハイを飲んでは目を鋭くし、ぼけーっとその場に居続けるような人だった。
名古屋さんはその日も目を鋭くさせて、白い肌を回ったアルコールでやや赤くさせてその場に座っていた。
福岡の天気予報はTMネットワークがなぜか流れているって話をしたときだった。
「まじで?あれ小室哲哉なの?」
名古屋さんは鋭い目から一転、大きく目を開いて食いついたのだった。
福岡出身なのに名古屋という変わった名字を持った名古屋さんは福岡から出る前によくその天気予報を見ていたのだった。
名古屋さんは突然席を立ち、僕に近寄る。
同級生や先輩が名古屋さんが僕の隣に座れるようにスペースを作る。どことなくにやにやしながら。
「あれ、TMネットワークなの?TK?」
「テツヤ・コムロっすよ。あれ。ファンタスティックビジョンって曲です」
「うへー気がつかなかったなー。なんで知ってるの?」
「天気予報をYoutubeで見るのが趣味で」
「え、まじで」
「はい」
「うわー、変な子だ。え、じゃあほかの地域の天気予報だとなんか音楽変わってたりするの?」
名古屋さんはもの凄く食いついてきた。
僕はいろいろと説明をした。それが特段面白い話だったようには思えないけども、名古屋さんはずっとうんうんとうなずいていた。
名古屋さんは名古屋さんでずっと僕のことを「変だ」とか「趣味悪い」と言いながら、楽しそうにしていて、それが僕もとても楽しかったことを覚えている。
それから僕と名古屋さんはよくしゃべるようになった。
店長の趣味なのか相変わらずジャキジャキとナンバーガールが流れる喫茶店で僕はハヤシライスを頼んだ。560円。
優しい価格のハヤシライスは優しい価格に似合った優しい味だった。
一時期、僕はハヤシライスを作るのに凝っていた。
といってもワインを入れるだの、そういうことじゃなくて、ハヤシライスには何を足せば美味しいかってことに凝っていた。
毎日ハヤシライスを作ってはいろんなものを足した。
味付けにケチャップを入れたり、ソースを入れたり、お酢を入れたり、ウェイパーを入れたり。
「意外とウェイパーが美味しいんですよ」
サークルの部室で僕は名古屋さんに言う。
空きコマに暇なのでサークルの部室に行くと、たいてい名古屋さんがいた。
当時卒論に追われていた名古屋さんはその現実逃避先にサークルの部室を選んでいた。
名古屋さんは僕の姿を見ると挨拶をして、それからいつもとりとめもない話をした。
凄く盛り上がるとかじゃない、とりとめもない話。
そのとりとめもない話の一つとして、僕はハヤシライスに何かを足す話をした。
「あのさ、味覚死んでるの?」
きょとんとした顔で冷静に言葉のパンチを放つ名古屋さん。
僕は全盛期の赤井英和のフットワークで言葉のパンチを交わしながら「死んでないですって」とカウンターパンチ。
「なんか辛いの?ストレスある?そんで味覚死んだ?」
「だから死んでないですって。ウェイパー入れてみてくださいよ」
「死んでもやだね」
名古屋さんは笑う。名古屋さんは笑うとき歯が見える。
歯を見せて笑うんだなってそのとき思った。
いつなのかすら思い出せないくらいずっとだらだら続いていた日々の記憶の一つ。
その後もハヤシライスちょい足し研究は続く。
ハヤシライスに何が合うか。その究極の研究に僕は若い時間を使っていた。
焼いたウィンナーを乗せたり、フレッシュなトマトを乗せたり、551のシュウマイに、王将の餃子、そしてアップルパイを乗せた。
「え、アップルパイ?」
いつも通りの午後の日、サークルの部室でレジュメを読んでいた名古屋さんは僕の発言に思わずを顔をあげた。
「はい。意外と合うんですよ」
「あー森山くんが狂ってるのって味覚じゃ無くて、頭だったんだね」
名古屋さんは妙に納得したように言った。
「いやいやいや、名古屋さん食べたことないからそんなこと言うんですって」
「いや、無理。食べたくない」
名古屋さんは本気でひいている顔をする。
ただ僕にはこの感動を共有する必要があった。
「一回食べたら感想変わりますよ」
「いや、まじ無理絶対、死んでも嫌」
その日、初めて名古屋さんが家に来た。
後から思い返せば、女の子を家に呼んだのなんて初めてのことだった。
ハヤシライスを食べながら、立てかけてある小さなメニューにあれが書いてあるのに気がついた。僕は手をあげる。ウェイターが気がつく。
「すいません。アップルパイも追加で」
アップルパイは400円。
あの頃買っていたアップルパイはスーパーで売っている120円で6つくらい入っている奴だった。
それとハヤシライスがとても合ったのだ。
「やっぱり、合わないよこれは」
僕の部屋でハヤシライスをかけたアップルパイを食べた名古屋さんは心底嫌そうな顔をして僕に言った。
「えー。そうですか」
「うん、なんなら気持ち悪い」
「えー」
「ってかハヤシライスなんだからライスで満足しときなよ」
「それを超えていきたいじゃないですか」
「超えなくていいんだって。ライスがゴールなのに、ゴールテープ切ってから走ってんじゃないって」
僕は渾身の研究発表がぼこぼこに否定されたのを聞いて、そこそこにショックを受けた。こんなにも美味しいのになって思いながらハヤシライスをかけたアップルパイを食べる。
「あーなんかそれ見てるだけで、もはやグロい」
名古屋さんは嫌悪感で作られた顔を僕に見せる。
「全然乗ってくれないじゃないですか」
「全然に決まってるって。バイオテロだよ」
「テロって」
「原理主義者だよ」
「ハヤシアップルパイの」
「うん、これに関しては多分森山君が初めての教祖でしょ」
「うわー権力ですね」
「誰も入信しないよそんな宗教」
アップルパイが運ばれてくる。
僕は残っていたハヤシライスの一部をかけてアップルパイを食べ始める。
カウンターに入ったウェイターと目が合った。
ぎょっとした顔で僕を見ていた。
そうだ、そんな顔を名古屋さんもしていた。
「森山君は普段部屋で何してるの?」
「えー、音楽聴いたり、本読んだり、映画見たり」
「面白みないなあ。へいへいぼんぼん」
「ひどい」
「ハヤシライスをアップルパイにかけて食べるような人だからもっと狂ってるようなことしてるかと思った。死体で家具作るとか」
「違いますよ。しないですよ、そんなこと」
「じゃあ、何聞いてるの?音楽は。この間のカラオケでも歌わなかったから何聞いてるのかなって」
「えーと、ちょっと前のバンドなんですけども」
僕はつけっぱなしのパソコンに保存してあるその曲を探す。クリック。
「これです」
安くて小さなスピーカーから流れ始める。
ナンバーガールのイギーポップファンクラブ。
ジャキジャキしたギターの音。安いスピーカーをびりびり震わすベース。喉がつぶれるように叫ぶボーカル。気が狂ったようにたたくドラム。
「正直、同世代では聞いている人が少ないからすぐマイナーって言われるんですけども、全然そんなことなくて、めちゃくちゃ後年に影響を与えてるというか、伝説的なバンドで」
僕は早口でまくしたてる。
名古屋さんは僕の演説には耳を傾けず、涼しい顔で音楽に耳を傾けていた。
それで曲が終わるとこう言った。「これ変な歌だね」名古屋さんは少しだけ笑っていた。
そのときも名古屋さんの歯が見えた。
一度、名古屋さんの手帳を見た。サークルの部屋に名古屋さんだけがいて名古屋さんは手帳に書き物をしている途中で突っ伏して寝ていた。
手帳には「シャンプー切らしたから買うこと」「定期券の更新」みたいなメモと猫の落書きが書いてあった。下の方に眼帯をした二足歩行気味な猫が書かれていてその隣に吹き出し。その中に僕が教えたそのバンド名が書いてあった。
その下には「アップルパイは二度と食べれない」とも。
本当に悪いことをしたと思った。
「あ、平山夢明」
本棚にしまった本をじーっと眺めていた名古屋さんが突然ぽつり。
「え、名古屋さん知ってるんですか?」
「読んだこと無い」
「あ、そうなんですか」
「でも、HUNTER×HUNTERの富樫が、この人の短編はすげえって言ってたから」
「へー」
「そういえば、HUNTER×HUNTERってどこまで読んだ?」
「読んだこと無いです」
「え、森山ってHUNTER×HUNTER読んだこと無いの?」
「あ、はい」
「うそ、まじで、そんな人類にいるの?」
「いますって」
「まじかよ」
「でも、名古屋さんも平山夢明読んだことないじゃないですか」
「それとHUNTER×HUNTERは違うよ」
「違わないですって」
いつも通りの喧嘩じみた会話をした後に、名古屋さんはまた突然ぽつりと。
「じゃあ、読んでみよっかな」
名古屋さんはまるでベッドの上で土下座をしているような体勢で本を読んでいた。
「うわー。なにこれ。本当最悪なんだけど。よく読めるなこんな本。うわー最悪」
平山夢明の容赦の無い短編を読みながら名古屋さんはずっと悲鳴をあげていた。
でも、ページをめくる手のスピードは緩まなかった。
「名古屋さん、その体勢しんどくないですか?」
「うん?あ、これ?私、本を読むときはいつもこれなんだよね」
「へー」
「読みやすいよ。うわー。ってかまた人死んでるし」
その最中無音になるのが嫌で、ずっとあのバンドの音楽を流していた。
丸まって本を読む名古屋さんの横顔になんとなく見とれた。
名古屋さんは、かっこいい横顔をしていた。
「・・・森山くん、なんで黙ってるの」
「名古屋さんって横顔かっこいいですね」
「なにそれ、えー、森山くん、そんな気、私にはないからね」
「あ、大丈夫です。僕も」
名古屋さんはあきれるような顔をした。
それからまた本を読み始めた。
数ページめくったら「森山くん」と呼ばれた。
「森山くんって、なんかくらげっぽいね」って本を読みながらぽつりと。
「くらげ?」
「うん。くらげみたい。」
僕は音楽を聞いたり、本を読んだり、洗い物をしたりして、ふと名古屋さんに目を向けると名古屋さんはそのままの体勢で眠ってしまっていた。とても穏やかな顔で眠っていた。
起こすのも悪いなとおもったので名古屋さんに毛布をかけて、部屋の明かりを暗くして、僕は椅子に座り、机に突っ伏して眠った。
僕は今、喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいる。
「アイスコーヒーは溶ければ溶けるほどかさが増すのだよ」って名古屋さんは二度目に家に来たときに言っていた。
店内BGMは同じバンドの別のアルバムに変わった。
「このバンドってライブの方がかっこいいね。相変わらず変な歌だけど」って名古屋さんは7度目に家に来たときに言っていた。
机の上には食べ終わったアップルパイの皿。
「アップルパイは絶対に他の人に勧めたらだめな。特に女子には。一発で嫌われるから」って名古屋さんは9度目かの家に来たときに言っていた。
何度目かに名古屋さんが家に来て本をいつもの体勢で、いつものかっこいい横顔で読んでいた。
「あーわかった!」と突然名古屋さんは叫んだ。
「どうしたんですか?」
「・・・森山くんって、なんか特別感ないよね」
名古屋さんはぽつりとつぶやいた。
「・・・特別感ないですか?」
僕は面食らってしまって、ふと言葉が出なかった。
「うん。なんかいつもフラット。平面って感じ」
「・・・」
「うん。特別感がない。うん。ないよ。うん。ない」
なんて答えたらいいかわかんなくて、僕もぼんやりしてしまった。 部屋で流れていた音楽はそのバンドのラストライブの音源だった。 「そこが森山君らしいっていえば、らしいんだけどね」
「・・・」
「まあ、森山君、幸せになりなよ」
と言って名古屋さんは読書に戻った。
そうこうしているうちに、名古屋さんはまた眠ってしまった。
僕は名古屋さんにまた毛布をかけて、部屋の明かりを落として、椅子に座った。
ラストライブは最後の曲になっていた。
最後の曲はそのバンドのデビュー曲だった。
名古屋さんはその日を境に家に来なくなった。
2週間後、名古屋さんは大学を卒業した。
喫茶店から出て、イヤホンをつける。ナンバーガールの音楽がまだ聞きたくて、音量大きめで聞き始める。OMOIDE IN MY HEADが流れる。「福岡県博多区からやってきましたナンバーガールです。ドラムスアヒトイアナザワ」それから乱打されるドラム。
そしてギターがかき鳴らされる。
自分たちの卒業式のサークルの飲み会で「なあ。森山って名古屋さんとつきあってたの?」って同級生が聞く。
周りが「おっしゃ、よく聞いた!」とはしゃしたてる。
「つきあってないよ」
「じゃあ、なんかしたの?」
「なんも」
「まじで?名古屋先輩ってめっちゃ部屋に行ってたんでしょ?」
「うん」
「でも、なんもしてないの?」
「うん」
みんなはあきれた顔をしていた。
「なんか言ってたの名古屋さん」
「あー、なんだろ。クラゲみたいとか・・・特別感がないとか。・・・そんなこと言われた」
みんなは納得した顔をして席に戻っていく。
隣にいた同級生が「ちょっとお前、がまんせえ」と言って僕の肩を強めにたたいた。とても痛かった。
「幸せになりなよ」って言われたことだけは言わなかった。
まだ、かみ砕けてなかった。名古屋さんの言葉が。
そして、自分の気持ちも。
「ウォイ!!!!」とイヤホンの中の客が叫ぶ。
イヤホンの中のナンバーガールは演奏の熱をあげていく。
ナンバーガールが解散したのは15年前。
名古屋さんに最後に会ったのは5年前。
名古屋さんが結婚して山梨さんに名字が変わったのは2年前。
2年前、名古屋さんから久しぶりに電話がかかってきた。
そしてその時に僕と名古屋さんは久しぶりに喋った。
「久しぶり、森山君」
「久しぶりです。あ、山梨さんになるんですね」
「うん。また都道府県名だよー」
「なんかそういう磁力の人なんですね」
「なにそれー磁力とかわかんないし」
「すんません」
「ははは。変わってないな、森山君は」
「名古屋さん、あ、山梨さん」
「名古屋でいいよ」
「名古屋さんも変わってないですね」
「うん。そんなに人は5年じゃ変わんないってことだよ!」
「ははは、そんなもんですか」
「うん、そんなもんだよ。ってか森山君ってまださ、アップルパイにハヤシライスをかけて食べてるの?」
「あ、はい。まだやってます」
「ははは。あのさ、今日ね、旦那にやってあげたの。それ」
「え、まじっすか」
「そしたら、すげえうめえ!って言ってて。ははは、うちの旦那と森山君って話合うかも」
「合いますね、まぶだちになれますよ」
「まぶだね。ははは。今度さ、ぜひうちに遊びに来てよ。」
「はい。ぜひぜひ」
少しだけ間が空く。なんとなく空気が変わった気がした。
「・・・なんか変だね。わたしばっかり森山君の家に行ってたからさ」
「そういえばそうですね」
「なんであの頃あんなに森山君の家に行ってたんだろうね」
「なんででしょうね」
「わかんない。私ら別に話合うわけでもなかったのに」
「結局一番盛り上がったのってTMネットワークの時でしたし」
「天気予報の。ははは、懐かしい。本当だね」
「でも楽しかったですよ」
「うん。今でもよく話してるよ。森山君のこと」
「え、本当ですか」
「うん本当」
「あー嬉しい」
「ははは。いいな、森山君」
また間があいた。
それから名古屋さんが一呼吸する音。
「・・・森山君はずっと変わらずにいてね」
「えーなんですかそれ。変わんないですし、名古屋さんも、変わんないでくださいよ」
「・・・私は無理だよ」
「そうですか?」
「・・・うん、私は・・・うん。」
「・・・」
間が空く。間が。数秒の。会ってなかった数年の。最後に僕の家に来た日からの。
「あ!HUNTER×HUNTER読んだ?」
名古屋さんは何にも言わなかったように話を変えた。
「あ!まだです」
「おい森山いい加減読めってー。何年経ってると思ってるんだよー」
「すいません」
「次、会うときまでには読んでおけよ。ってか読まなかったらうちの敷居またぐんじゃないぞ」
「名古屋さん厳しいっす」
「ははは。じゃあ、突然ごめんね」
「いえいえ。あ、名古屋さん」
「うん、何?」
「本当、結婚おめでとうございます」
「・・・うん。あ、森山くん」
「はい?」
「変わんないでいてね」
15年前の演奏は音源になって再生ボタンを押せば何度もよみがえる。
そこに変化はない。
あの頃の僕の思い出も思い出すたびなんの変化もなく思い出せる。 そこに変化はない。
絶えず、これからの未来だけが変わっていく。
あれから2年経ったけども、一度も名古屋さんにはあってない。 旦那さんにもあってない。
名古屋さんがどうしてるかなんて全く知らない。
名古屋さんは変わってしまったんだろうか。それとも変わっていく自分が怖くなったんだろうか。
もう名古屋さんは僕の知っている名古屋さんじゃないのだろうか。 イヤホンの中のナンバーガールはOMOIDE IN MY HEADの演奏を終えて、続けてラストライブの最後の曲を演奏する。
イギーポップ・ファンクラブ。
「変な曲だね」と名古屋さんが言った曲。
あの部屋で流れていた曲。
僕が大好きな曲。
それでも名古屋さんは多分、どこかの街の、どこかの家で丸まって本を読んでいるんだろうなって思う。
あのかっこいい横顔で本を読んでいるはずだ。
それだけは変わっていないはず。
だから僕は名古屋さんの本を読む横顔を思い出してみる。
あのかっこいい横顔を輪郭を。
ちょっとだけ思い出してみる。
ちょっとだけ。
思い出す。
笑いながら、へんな歌って言った。 両目洞窟人間 @gachahori
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