第2話 世界情勢を知りました

「この世界の話をしよう」


カリヴァー・オルレインは元最強の勇者だ。

ここにすんでいる人の中では一番現在の世界情勢に詳しい人物で、レクスは女神にこの世界のことを簡単にしか説明されていない。そのためこの人の話を聞くことにしたのだった。


「現在3つの種族が存在している。一つは人間。人間界ができて数万年たったある時期に猿から進化した種族だ。魔力をもっているが魔族に比べると圧倒的に少ないため魔族からは身を守れない」


初め人間はどこから現れたのかという疑問があった。それが、ある考古学者によって猿から進化した種族であることがわかった。それが世間に認められたことでこの説が有効なのである。


「二つ目は魔族。人間同様人間界ができて数十万年たったある時期から突然現れた種族で、魔力を持ち人間に比べて身体能力は数段上だ。魔界に住んでいるが人間界にいるほとんどの魔族が魔王派に属している」


人間界でも異能力、魔族、精霊、魔獣が一般的に知られていて普通の人間が魔族や魔獣、精霊に勝つことができないことも知られていいる。こっちの世界では一般常識でもレクスが元いた世界では空想上の存在だ。そのため


「それってこっちの世界では常識ですか?」


そう聞いてしまった。すると


「やはり最初にこの世界について話しておいて正解だったな。こちらの世界では常識じゃよ」


と言って笑う。


「そして、三つ目の種族が神族だ。神族は人間界ができたときからある種族だ。神界に住んでいるから人間界には出てこない。 魔族同様魔力を多く持ち、身体能力も人間より高い」


人間の他に魔族や神族がいるのはわかったが質問が何個か頭の中に浮かんでいた。その中の一つを質問してみる。


「あの、質問があるけどいいかな。魔族や神族がいるのはわかったけどそれだと人間はもう滅んでいてもおかしくないか。戦おうにもそれじゃあ絶対に勝てないと思うし」


この質問はもっともだ。魔族や神族のほうが力が上ならすでに滅んでいてもおかしくない」


「いや別におかしなことはないぞ」


と即座に否定するカリヴァー。


「勇者っていうのは知ってるか」


聞いたこともない。首を横に振る。


「確かに本来なら滅んでいる。魔族とかのほうが力が上だからな。だけど人間には神族に力を授かった人間たちがいる。それが勇者だ。勇者に認められるには生まれたときの魔力量が関係している。基本的に最大魔力量は生まれたときから変わらない。だから魔力量が多ければそれだけ勇者の素質があるということだ」


それを聞いて、レクスが反応する。


「それなら僕は勇者の素質があるかもしれません」


レクスは転生してくる前に女神からチート能力を授かっていた。しかしそのことをカリヴァーは知るよしもない。


「はっはっは、勇者になるのはそんなに簡単ではないぞ。なにせ魔族と同レベルの魔力量だからな。魔族の中で少ない方でも普通の人間の5倍ほどはあるからな」


その言葉を聞けば普通なら諦めるだろう。しかしレクスの特殊能力は無尽蔵の魔力。そのことを知っているレクスはとうとう口を滑らせてしまった。


「魔力量だけなら誰にも負けません。だって・・・」


一つ間を開けて軽く息を吐く。


「無限の魔力だから」


その言葉を聞いたカリヴァーは黙る。レクスも黙ってカリヴァーをみている。


「は?」


間の抜けた声を出して沈黙を破ったのはカリヴァーだった。


「どうしたの」


なぜカリヴァーがあんなこえを出したのかわからないレクス。


「無限の魔力って魔力量が底無しだってことだよな」


事実を確認するかのように聞くカリヴァー。


「うん、そうだよ」

「嘘だろ。さすがにこんな嘘はよくないぞ」


ありえないとばかりに否定する。


「魔王ですらも魔力に限りがあるのに魔力に限りがないっていうのはな」

「嘘じゃないよ。だったら調べてみれば」


自信満々に言うレクス。他人からみたら変でも事実は事実だ。


「わかった。調べてみるからな」


カリヴァーがふところからベルを出した。


「アーティファクトリング、虚偽の鈴。目の前の人間、レクスの魔力量は底無し」


そう呟く。しかしベルは鳴らない。


「そんなまさか」


またもや呆然と呟く。


「ほらね、本当だったでしょう」


カリヴァーはありえないと思った。しかし虚偽の鈴は鳴らなかった。それはレクスが本当に魔力が底無しだと証明されたことになる。


「今のはなに」


そういってベルを指差す。


「今のは虚偽の鈴といって使用者の言葉が嘘かどうかを判断する魔導具だ」


虚偽の鈴は間違えることはない。


「あのベルのおかげでレクスの魔力が底無しだと証明されたし勇者や魔族などの異能力者について詳しく教えることにしよう」


カリヴァーとレクスは腰を下ろす。


「まずは人間側の組織について教えておこう」


前置きをしてから語り始める。


「人間側は大きく分けて二つの組織がある。一つは、勇者が所属する勇者連合だ。勇者は対魔族のエキスパートで、神族に与えられた力で魔族と戦うことを義務付けられている。異種族から人間を守るための組織、人種が勇者、勇者ギルドだ」


本来人間は魔力量が少ない。その代わりに神族から、肉体を他の人間よりも強固なものにされることで初めて魔族と戦えるようになるのだ。


「もう一つは、冒険者組合だ。冒険者は魔獣のエキスパートで魔法の代わりに呪術をつかう。肉体も他の人間と強度は同じ。だが勇者と同様人間を魔獣から守るのが義務付けられている。魔獣から人間を守るための組織、職業が冒険者、冒険者組合だ」


魔族は勇者、魔獣は冒険者がそれぞれ警戒し、互いに協力関係にある。


「魔族には二つの勢力が存在する。一つは魔王派で人間界を掌握するのを目的とした派閥だ。人間界の北側にすんでいて、魔王がいる。二つ目の勢力は穏健派だ。魔界で静かに暮らすことを決めた派閥で現在は人間、神族と同盟を結んでいる。魔界に住んでいて魔王がいる」


魔王派は大きな勢力で勇者と穏健派の合計数とほぼ同じ数を擁している。


「勇者の話に戻るがここは勇者連合から認められた勇者育成施設だ。ここにいる子供は全員が勇者の素質を持っている。レクスも勇者の素質がある。だから俺がつれてきたのだ。というわけだからここで15歳を迎えるまで魔法や戦闘タイプについて学び15歳になってから神族から加護が与えられる」


「加護が与えられた勇者はその日の内にどこかの勇者ギルドに入らなければならない」


「勇者ギルドは例えばなにがありますか」


ギルドは複数あるということがわかったが、そのギルドの名前を自分は知らないためカリヴァーに聞いてみたところ普通に教えてくれた。


「勇者連合のトップは一人。その下に四神の加護を受けた四つのギルドがあり、さらにその下に中小ギルドがある。ギルド登録はその四つのギルドのどこかに所属するというものだ。その四つのギルドの名前は栄光の疾風団ゲイルオブグローリー千本桜サウザンドロデオ消えない炎鳥イレイザーフェニックス漆黒騎士団ブラックナイツという」


カリヴァーの説明を聞いて大体の状況は把握できた。


「ということは15歳になったら勇者は強制的に四つのギルドのどれかに入らなければいけないということですね」


「理解が速いな。10歳とは思えない頭の回転の速さだ。さすが転生者」


「さっきから転生者とかいってるけど外に誰かいたら聞こえるんじゃないですか」


自分が転生者であるというのはここにいる二人の秘密だ。それを外にいる者に聞かれた場合、まずいことになるのは目に見えている。外に音が漏れるか心配しているが


「大丈夫じゃ。音を遮断する結界がこの部屋には張られているからよほどのことがない限り外には漏れない」


それを知っているからカリヴァーは部屋のなかで普通に転生者とか言っているのだと気づいた。


「今日はここまでにしておこう。この家のルールは単純。基本的に敷地内は自由で、寝る時間は10歳以下は9時、10歳以上は11時には消灯だ。朝は全員7時起きで、一週間に3回、勇者になるための勉強をする。これらを守ること。それだけだ。戦闘訓練は12歳になってからだからそこを注意するんじゃよ」


カリヴァーと共に部屋から出た。そして孤児院の子供たちのなかに入っていった。




孤児院に入ってから2年が経ちレクスは12歳になった。入ってきたばかりのときは孤児院の雰囲気に馴染めていなかったが1年経ってからは雰囲気にも慣れ、前世では考えられなかった友達もできた。


途中からは人間や魔族、神族の歴史も学び、勇者として最低限の教養もできた。


新年入ってからはついに戦闘についての授業が始まった。


「この世界には人間、魔族、神族の三つの種族があり種族ごとに得意な武器、魔法が違う。我々人間は魔導具と聖属性武器が使える」


人間は魔導具と聖属性武器、魔族は魔属性武器、神族は聖属性武器が使える。聖属性武器は神族が作り出した武器で、魔導具は人間が、魔属性武器は魔族が作り出した。人間は神族の力を借りているため聖属性の武器を使用できる。


「そして魔法は、人間が暗黒魔法、聖属性以外のすべての属性を使え、魔族は聖属性以外の魔法、神族は暗黒魔法以外が使える。そして全種族共通で精霊魔法を使用できる」


ここまで説明してからレクスが質問する。


「何で人間には魔属性武器と闇属性、聖属性、暗黒魔法が使えないんですか」


「魔属性武器には大量の魔素が含まれていて魔族以外が使えば魔素に体が犯されて発狂する。暗黒魔法は魔族のみの魔法で聖属性魔法は神族のみのものだからだ。その代わり人間は、魔導具があるから多少劣る程度の力を持ち使い方次第で魔族、神族と渡り合える」


もうひとつ


「精霊についてだが、精霊はどこの世界にもいて人間界、神界にいるものは聖属性、魔界にいるものは魔属性を持つ」


ここまで武器と魔法について説明し、レクスはなんとなくではあるが言っていることが理

解できていた。顔を見ればそれがわかる。それに気づいたカリヴァーは話を続ける。


「魔法には炎、水、氷、土、岩、風、光、闇、雷、影、毒、暗黒、聖、の13種類あり、精霊魔法には炎、水、氷、土、岩、風、光、影、雷、の9種類ある。そして魔法の発動には、魔力の練り上げと魔法陣が必須で、詠唱はあってもなくてもどっちでもいい。精霊魔法は魔力を使わず、精神力と体力を多く消耗する」


魔法の発動はそんなに難しくないためそこは普通に安心した。しかし一番重要な話はこれではない。話が終わる雰囲気ではなかったため続きを促す無言を放つと再び口を開く。


「次は戦闘タイプについてだ」


レクスにとって一番大事な話がついに始まった。



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元ぼっちはチート能力をもって勇者に転生しました 黒夜叉 @reinorud

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