元ぼっちはチート能力をもって勇者に転生しました

黒夜叉

第1話 ぼっちは異世界に転生しました。

僕、龍崎瑛人はただいま絶賛ぼっち中だ。誰からも話かけられず、否存在を知覚されることなく1年を過ごした。そうなったのにはふかいわけがあった。


始業式の日に季節外れのインフルエンザで学校を欠席してしまい、病気明けに学校に来た頃にはグループが作られており、それに入れなかったからだ。

グループに入れなかった僕は、一人で本を読んで過ごすことにした。そういった生活が続いてから一年後の冬休み明け。今回は休むことなく学校に来ることができた。だからといって友達ができるわけもなく新年始まって初めての学校もぼっちで過ごした。


学校の帰り道、ぼんやりと歩いていると子供が横断歩道を渡っていた。それを見ていると車が横断歩道に入ってきた。子供の方も運転手の方も気づいていない。そう思ったとたんに体が動く。直前で運転手が気づくもブレーキは間に合わない。子供を弾きだして歩道に出す。その瞬間横に衝撃が来て吹っ飛ぶ。3メートル程飛び、頭から落ちた。だんだんと意識が遠退いていく中考える。生まれ変わるなら魔法とかのある世界にいきたいな。そう考えながら意識が暗闇に呑まれていった。




目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。道は一本道で、そこを進むとやがて周りが開けて来た。広くなったところの奥には誰かがいた。近くまで行くと声をかけられた。


「貴方が異世界転生を望む死人ですね」


どうしてそのことを、と思った。


「自分で言ったではないですか。生まれ変わったら魔法とかのある世界にいきたい、と」


どうやら思考を読まれているようだ。


「ここはどこですか」


自分がどうなったのかはわかっているが、場所はわからない。


「ここは現実世界と異世界の狭間、いわば無の空間です。転生を望まないのなら自我は失われ消えていきます」


転生を望みますか、と女神が立ち上がる。それを目で追う。相手の顔の高さまで視線を上げると女神の顔が見えた。その顔は子供っぽさはあるものの整っている。あまりにも子供っぽい顔つきのため惚れることはないがまあ、かわいいとは思う。


「か、可愛い・・・」


顔が真っ赤だ。やはり思考が読まれている。そう確信した。


「自分が転生する世界ってどこですか」


転生したいと心の中で思っていた瑛人は思考を読まれるならとためらいなく口に出す。

魔法があるところがいいという指名を受けた女神が


「あなたが転生するところは人間、魔族、神族が存在する世界になります」


願いを叶えてくれるみたいだ。



「今からあなたが向かう世界は異能力が存在します。なので一つだけチート能力を授けることにします。この中から選んでください」


そういって分厚い本を取り出す。ページをパラパラとめくっていくと、一つのページに目が止まる。そのページを見ていくと、無尽蔵の魔力と書いてあった。まえから魔法を使えるようになりたかったため、すぐにこれにすることを決めた。


「選んだようですね。それでは名前を決めてください」


転生にしては珍しく名前を自分で決めれるようだ。


「神の名前から取ろうか、オリジナルか」


ここで決めた名前は死ぬまで使うことになるため真剣に考える。


「決めました。レクス・オルレインにします」


「決まったようなので、世界の説明を軽く行います。あなたは人間側で勇者の素質をもって生まれてきます。訳あって孤児になってしまいますが初めてあった人についていくといいでしょう」


そこまで説明すると瑛人、もといレクスの足元に魔方陣が現れる。


「この魔方陣は対象の肉体を変質させる魔法です。これで子供の格好に変えます。私からのプレゼントで記憶はこのままにしておくので、困ることはあまりないでしょう」


魔方陣が消えるとすぐに新たな魔方陣が作られる。前の魔方陣より複雑に書かれていて難易度の高い魔法でとわかる。


「それではいってらっしゃい、魔王を倒してきてくださいね」


魔方陣が消えると同時に意識が飛ぶ。

心が安らぐ不思議な感覚。それがなくなったとき目の前が明るくなる。意識が戻ったとき最初に目にしたものは・・・知らない男のむさい顔だった。


「目が覚めたようだな」


男に声をかけられた。レクスは誰か知らない男を無視して黙っている。


「このガキ、無視すんじゃねーよ」


レクスの態度に腹をたてた男が殴ろうと腕を振りかぶる。殴ろうとした瞬間馬車が大きく揺れる。馬車の揺れで手元が狂いパンチはずれる。


「おい、どうした!なにがあった!」


男が叫ぶ。


「大変です。年老いた男に襲撃されました!現在盗賊たちが応戦しておりますがおそらく全滅でしょう。今のうちに逃げましょう」


若い男が男の腕をとり、逃げ出した。


「お前も一緒に来い!」


レクスは無理矢理連れてかれてしまった。





その頃、この団体を襲った一人の老人は50人程いた盗賊を討伐していた。


「さて追うとしようかの」


杖を突きながら男たちが逃げた方へと向かっていった。





男たちは結界に阻まれ逃げられないでいた。


「くそ、なんだこの結界は。なんで壊れねえ」


男たちが二人がかりで攻撃していても全く壊れそうな気配がない。それもそのはず、この結界はあの老人がもっていた結界具から作られており、結界具を壊さない限り、破壊できない結界だ。


「やっと、追い付いたわい」


老人が杖をつきながら歩いてくる。足取りはゆっくりだがその足取りには微塵の隙もない。それに気づいた男は


「貴様、何者だ」


「名乗る程でもないわい」


名乗らない刺客は大抵強いのが相場だが男はそれに気づかない。


「魔王様に子供を捧げてその子供たちで勇者を滅ぼすんだよ!邪魔すんじゃねえ」


「魔王さまねえ、さすれば」


そういった途端老人の体が掻き消える。男が気づいたときには隣の護衛らしき人物の首を斬り落とされていた。


「このくそジジイが!」


ようやく状況を理解した男が斬りかかってきた。その男の耳は長くなっていた。魔族だったのだ。老人に斬りかかる。刃と刃がぶつかり合い老人は大きく後ろに下がる。魔族の男は腕に痛みがあったため右腕を見る。その右腕は肘から先がなくなっていた。


「うがぁぁぁあぁぁ!俺の腕が!よくも俺のう、で・・を・・・」


痛みでのたうち回っていた男は老人に斬り捨てられた。


一部始終を目の当たりにして動けないレクスに老人は


「大丈夫だったか」


言葉はわかるようだった。首を縦に振る。


「君の名前を教えてくれないか」


名前を聞いてきた老人に対し、レクスは信用していいのか考える。


「レクスです」


答えることにした。完全には信用していないが、悪者の空気は感じられない。


「わしと一緒に来るかい」


そういってレクスに手を差し出した。





「ここが、これからの君の家だ」


そういった老人の視線の先には、大きくてきれいな家が建っていた。


老人に続き家の中へと入る。そこにはたくさんの子供たちが住んでいた。おおよそ30人、年齢は5歳くらいの子から15歳くらいの子がいた。


「今日からここで暮らすことになったレクスだ。なかよくするように」


「よろしくお願いします」


挨拶すると子供がたくさんよってきた。前世ではあまり経験できなかったことなのでレクス自身なにをどうすればいいかわからず困ってしまう。


「こっちきて」


声をかけられてそちらを見た瞬間大勢の中から連れ出された。人混みから抜け出したレクスとその人は立ち止まる。


「大丈夫だった?」


「うん、大丈夫」


自分の体を見てどこにも怪我がないのを見てから答えた。そして自分を連れ出した子を見る。


青い眼、いわゆる碧眼で髪は金髪だった。顔は子供らしいもののどこか大人びて見える。


「私はリーリス。あなたの名前は」


「僕はレクス。よろしく」


改めて見てみる。見てみるとある点が気になった。それは前世の自分と同じようにずっと視線を合わせずずっときょろきょろしていた。それを見て思わず聞いてしまった。


「もしかして人見知り?」


言った。言ってしまった。人見知りの子に対してその言葉はあまりよろしくない。


「確かに人見知りだけど。それのどこが悪い?」


人見知りの人に人見知りを指摘すると無遠慮な言葉に反応して、さらに人見知りをこじらせてしまう人がいるのだ。かくいう自分も人見知りなのだが。


「別に悪くないよ。人見知りなところもリーリスのかわいいところだと思うよ」


「ふーん」


それだけいうとリーリスがそっぽを向いてしまう。嫌われたかなと思ってちらっと見てみると、わずかに耳が赤かった。嫌われてはなかったらしい。


そうして二人して黙っていると


「レクスこっちにいたのか。ちょっと話がある」


そういって部屋から出ていった。


「呼ばれたからもう行くね」


リーリスに一言かけて老人のあとを追いかけていった。






老人の入っていった部屋の前に来た。意を決して中に入る。


「来てくれたね。こっちに来て座りなさい」


扉の方を見ることなくレクスだと当てた老人をすごいと思った。


「どうだった、これから15歳まではここで生活するけど大丈夫かい」


「はい、大丈夫です」


「それはよかった。わし、いいや俺の名前はカリヴァー・オルレインだ」


俺を助けてくれた老人はカリヴァー・オルレインという名前らしい。


「まずはどうして魔族に捕まっていたのか教えてくれるか」


「いえ、わかりません。気づいたらそこにいて」


本当のことをいった。ただし、転生者であることは隠して。


「隠してることがあるだろ」


表情は変えないようにしながらも心の中で驚く。


「いいえ」


とりあえず否定しておく。冗談なら話はここで終わる。


「嘘だな。気づいたらそこにいたというのは本当のことだろう。だが本当はこの世界の人間ではないのだろう」


ことばにつまった。その反応を見てカリヴァーは確信する。


「誰につれてこられた?答えてくれ」


「な、名前はわかりませんが、女神が僕を転生させました」


いままでのように柔らかい話し方ではなく少し強めの話し方になっていた。それを感じたレクスは声がわずかに震えた。


「あっすまん。少し言葉が強く出てしまったな」


カリヴァーは一言謝って、話し方を柔らかいものに戻す。


「転生魔法か。この世界にはない魔法だからこの世界の神々ではないな。まあ、警戒する必要はないだろう」


一人で納得していると中で待っている人がいるのを思い出した。


「すまん、考え事していた。で、なんの話をしてたんだっけ。そうだ、転生の話だったな」


話に夢中になって話を忘れることがあるんだなと思い直したレクス。そこからいつのまにかしゃべり方が子供らしいタメ口になっていた。

「異世界転生っていってバカじゃないのとか思わないの」


「別に思わないさ。この世界には死体を蘇らせる魔法もあるしわしにだって知らない魔法はある。転生魔法があったっておかしくはないだろう」


確かに。死体を蘇らせるのは簡単にできることではない。それでもできる人がいるなら転生だってできる人がいるだろうという理屈なんなのだろう。


「さっき魔法の話も出たことだし、この世界の話をしよう」


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