いじめカウンターの最大手さん
ちびまるフォイ
あなたにとって一番つらい人ほどすぐそばにいるの
学校ではどうしてもいじめがなくならない。
かといって、監視カメラを用意するのもよくない。
「ということで、いじめカウンターを皆さんに配布します」
先生はクラスの全員にカウンターを配布した。
「先生、これはどうやって使うんですか?」
「あ、いじめられたなと思ったらスイッチを入れてください。
いじめられたと感じた理由が自動判定されて送られます」
先生は自分のカウンターのスイッチを押した。
"デモ用のメッセージです"
いじめ+1
生徒は「おお」と感心というか驚きというかそんな声を出した。
「いじめられた報告をした人はカウントが増えます。
カウントが高くなった人は。いじめられっ子として……」
「いじめられっ子として?」
「ハワイ旅行がプレゼントされます」
「なんで!?」
よくわからないけれど、今まで損するしかなかったいじめが
ハワイ旅行へのマイレージのような受け止められ方になった。
これまでクラスでいじめられていた人もむしろ積極的に
「ねぇ、今日はいじめないの? ねぇねぇ?」
「お、おう……」
「気持ち悪いんだよ、向こう行けって」
「あ! 今いじめられた!! よっし! カウントアップ!!」
いじめを求めるようになって、いじめは撲滅された。
弱い羊だからこそいじめるのであって、相手が向かって来たら話は別なのだから。
平和な学校生活が長く続くかに思えたが、
いじめは風呂場のカビよりも深く根を張っていた。
「先生! うちの子のカウントがものすごく減っているんです!」
「おや、お母さん」
「うちの子に限っていじめられるなんてありえません!
家は金持ちで、それを包み隠さずひけらかしているうえ、
自分より年下や格下の人間を踏みにじるのが好きなだけのまっとうな子供です!!」
「ママ、先生の前でそんなに褒めないでよ」
「とにかく先生、いじめられてカウントが増えるならまだしも
カウントが減っているってどういうことですか?」
「カウントが減るのは、誰かから密告された場合にカウントが減るんです」
「まぁ!! それじゃ先生はうちの子がいじめをしたとおっしゃるんですか!?」
「本人がどう思っていたとしても、相手がそう感じてスイッチを押せば
それはいじめとして処理されるんです」
「なーーんーーでーーすーーとーー!!」
母親の体は怒りでみるみる大きくなり、服がビリビリと破けていく。
そして、本来のモンスターの姿へと変わったペアレントは暴れ始めた。
「くっ……!! これがモンスターペアレント!!」
「ママ! 今ならまだ間に合うよ! 早く戻ってきて!!」
「ゴアアア!! ワタシノコハ、イイコヨォォォ!!!!」
職員室を火の海にしているとき、クラスメートの女子が入ってきた。
「私です」
「な、なにが……?」
「私が、襟戸くんをいじめとして密告しました」
この状況で一番まずいカミングアウトをしてしまった。
暴れていたモンスターは四つん這いになり、
女子を丸のみしようと大きな口を開けて襲い掛かる。
「お母さん待って!! 話を聞きましょう!!」
「ウチノコヲォォォ!!!」
先生は必死に母親を抑えた。
そうしたのも、担任の下に通報内容が届いていたからだった。
「どうして僕を……いじめとしてスイッチを押したの?
僕は君とろくに話したこともないのに、どうしていじめなんて……」
「それが、いじめなの」
「だからどうして!?」
「私の気持ちに気付かないことが、私にとってなにより辛いいじめなの!」
「えっ……!」
広がる甘酸っぱい空間に、モンスターはついに人間の体へと戻っていく。
「アアアア……ソンナバカナァ……はっ、私はなにを……」
「ふぅ、息子の成長を見て人間の理性を取り戻したみたいだ」
血なまぐさい怪獣大戦争の横では少年少女の恋愛模様が行われていた。
「もういじめないでくれますか? ///」
「それは約束できない」
「えっ」
「好きな子は……いじめたくなるだろっ」
襟戸くんは少年らしいはにかんだ表情をして照れていた。
そのまま2人は手をつないで去っていった。
かくして、今度こそ教室からいじめは完膚なきまでになくなった。
その後、夏休み前の成績発表。
「えーーみなさん。1学期お疲れさまでした。
それでは、いじめカウンターの集計を行いたいと思います」
先生がカウンターに記録された数値を画面に出した。
結果はぶっちぎりの1位。
"生徒からナメられて、ため口聞かれる"
いじめ+1
"親から理不尽な苦情を言われる"
いじめ+1
"学年主任から身勝手な文句を言われる"
いじめ+1
"家に帰ると妻に邪魔者扱いされる"
いじめ+1
ハワイ旅行には担任の先生が行くことになった。
いじめカウンターの最大手さん ちびまるフォイ @firestorage
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