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廊下の先に階段がある。反対側にはりガラスにあわい光が刺すのを窓が四角く縁取ふちどられた一見すると簡素な扉がある。

その突き当りにある扉には鍵穴があって、手元の鍵を合わせると鍵はクルリと回った。

 遠くのどこかにある同じ木を見た気がする。

四方が取り除けられた後の展望、

見晴らしの良い場所にある木の一点から景色を眺める。

それを思うままに感じてから目の前の風景を取り戻そうとする。

後から思い出そうとすれば、向こうに感覚を預けた記憶は

あたかも透明な箱を通して見るようにして現れたと感じる。

どうしてそんなふうに感じられるのだろう。

四方が壁に囲まれている庭の景色を遠くから見ると大きな鉢植えのように見える。

その事を庭師の男に話すと、少し驚いたという風な顔つきをした。

「全部別に見えるがね」そう言って男は余所よその方へ向かっていった。

菜子の頭のなかでは、矛盾の無い事を言ったつもりが、庭師にああ言われたあとでは、


その子供みた発想に、あとで思いついたのを赤面し、庭師から目を離せないでいると、

庭師は葉っぱの一枚に顔を近づけたと思うと、舌を使ってざらついた表面を舐めはじめたので、

昇った血が再び引いていくのを感じた。

「ここが鉢植えの上だとしたら、」(その少女に似つかわしくない後半部分とは、

葉っぱのように自分が扱われるのに危険を感じたのでこの場から逃げようとすることだった。

最前の庭師の態度を見るに危険はなさそうだが、しかし……。

ここでは、彼女は自前の論理を活用することに満足感を覚えたと思ってもらいたい。)

菜子は再び施設の内部に、土の跡を残しながら足を踏み入れた。

廊下を歩いていると、天井から音が聞こえてくるのに気がついた。

正面にある、階段を登ると音はしだいに近づいた。

二階の床は取り壊されていて、絨毯じゅうたんは剥がされ、床は灰色の硬い石のようなもので平らにされてあった。

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