episode9.歯車のエストレ
1.弾丸と爆弾
撃ちだされた弾丸は、複雑な軌道を描いてロボットの死角を撃ちぬいた。制御を失って暴走するロボットが、爆弾をキャタピラで踏み抜いて爆発し、残骸を四方へ飛ばす。
五十センチメートルの幅を持つキャタピラは、廊下を滑らかに動くためか滑り止めの溝が最小限しかついていない。その上に細い鉄骨が組まれて、武骨なデザインの可動式アタッチメントの上に円柱状のスチームガンが搭載されている。
円柱はキャタピラに比べると細く作られているが、それでも口径は十センチを超えている。圧縮された
「やるさね、カラス」
「お前もな、運び屋」
二人がロボットを破壊して黒く焦げた道を作った後を、イオリが付かず離れずの距離で追いかける。シズマはそれに気を配ることはなく、代わりのようにフリージアが何度か後ろを振り返っていた。
「坊ちゃん、平気?」
「体育祭に比べたら、どうってことないね。協調性ってものが求められないんだから」
「第一研究室まではもう少しだ。入室許可証は持ってる?」
「僕を誰だと思ってるのさ。ネットワークの上なら、僕に入り込めない場所なんてないよ」
「あはっ、それは結構!」
フリージアは右手を振りかぶって、遥か前方に爆弾を投げた。待機していたロボット達がまとめて弾き跳ぶ。砕けた筐体の一部がイオリ目掛けて飛んで来たが、フリージアが横から手を伸ばして叩き落した。
「あー、痛い痛い。涙が出ちゃうさね」
「勝手に泣いてろ。爆炎で乾くからハンカチ要らずだ」
シズマは冷たく言い切ると、フリージアに対して前方への注意を促した。爆弾による緑がかった煙の向こうに、ロボットのいない区画が見えた。その右側には鉄製の大きな扉がある。反対側にはエレベータがあった。
「第一研究室だ」
煙を吸わないように袖で口を覆いながら、イオリが興奮気味に言った。
「そのようさね。でも油断しないほうがいい。パニックゾンビ映画みたいに、どこからレーヴァンが出てくるかわからない」
「今ストレスチェックしたら、俺はレッドアラートを出す自信があるぜ。メンタルドラッグ打ってもらうために病院へハイキングだ」
歯車を調整して射程距離を短くすると、シズマはまだ残っていたロボットのキャタピラに弾を撃ち込んだ。動きを止められた腹いせのようにロボットは砲身を向けたが、すかさずそこにも射撃する。
目視範囲内の敵が一掃出来たのを確認し、シズマは一度銃を引いた。
「フリージア。爆弾はどのぐらい残ってる」
「もう殆どないよ。花火大会かカーニバルみたいにバンバン投げすぎたさね」
「じゃあエストレのところには俺だけ行く。お前はイオリと一緒に行動しろ」
フリージアは細くもなければ鍛え上げられているわけでもない肩を竦め、揶揄うような眼でシズマを見た。
「狐ちゃんのことは、契約に含まれてないさね」
「じゃあ今から帰ってもいいぞ。シンジュクのバーで今日のことを話してみろ。たちまち人気者だ」
「ブーイングと嘲笑にまみれて酒を飲むなんて最高さね。でも生憎、用事が出来たからやめておく」
そう言うと、運び屋は右手を伸ばして自分のすぐ傍にいたイオリを抱え込んだ。
「ちょっと足止めしててよ。出来るさね?」
「誰に言ってやがる」
シズマは歯車を回して散弾銃へとモードを切り替えた。レーザーと違って貫通性はないが、より多くの標的を狙うことが出来る。
二人の耳には、今まで破壊しながら通ってきた道を進むキャタピラの
音が届いていた。
「第二波さね。でも音が随分崩れている。大方、メンテナンス中の警備ロボットちゃんを出してきたってところ?」
「おいおい、とんだブラック企業だな。療養中の社員を叩き起こして仕事をさせるなんて」
悲しむように眉を下げ、シズマは後ろを振り返る。瓦礫の向こうにロボットの砲身が見えた。
「安心しろよ、勤勉なる企業戦士ども。労基の代わりに俺が眠らせてやるさ」
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