4.武器屋探し
「仕方ないな。武器の調達に行くか」
「既にいくつかピックアップはしておいたけど、見る?」
エストレがノート型端末を少し傾け、モニタを見せる。そこには複数の情報ブラウザが展開しており、それぞれに地図と店の名前が記載されていた。
シズマも決して、この近辺の武器屋に疎いわけではない。シンジュクを拠点にする以上、イケブクロやシブヤの裏ルートは避けて通れないからである。だがエストレが見せた情報は半分以上が未知の店舗だった。
「これもACUAの成せる技ってことか」
「シンジュク二番街の煩雑さに比べたら、イケブクロはまだ「清涼」ね。恐らくシンジュクほど伝統がなく、シブヤより流行に疎いためだわ」
エストレは宙に軽く右手を掲げ、中指と親指を弾く仕草をした。
「水は濁るものよ、シズマ。シンジュクの水は濁っていて、その原因すらわからない。イケブクロの水は綺麗ではないけど、原因の除去は容易い。せいぜいが、チャイナタウン絡みだから」
弾いた指を、そのままキーボードへ落とす。表示されていた情報のいくつかがグレーアウトして画面の奥へ追いやられた。
「その息がかかっているところは避けた方が良いわ」
「それが賢明だな。あいつら、シロカネのマダム達より情報伝達が速いと来てる。この「オギノ玩具店」はどうだ?」
画面を見ていたシズマは、一つの文字列を指さした。エストレがキーボードを操作し、その詳細画面を表示する。イケブクロのサウスゲートにあるその店は、外見は昔ながらの玩具屋であり、今時誰も買わないようなビニール製のボールやハンマーが飾ってある写真が添えられていた。
「ヒットしたから置いておいたけど、これが武器屋なんて信じられないわ」
「俺も使ったことはないが、裏社会では有名だ。店主は口が堅くて信頼が置ける人物らしい。何しろ、その口の堅さを買って、警察の物品購入先リストに入ってるって話だからな」
「素敵なストーリィだわ。映画化したらいいんじゃないかしら。絵本でも良いわよ。タイトルは『オギノ玩具店の素敵なおくりもの』」
エストレは今度は低い位置で指を弾く。それに明確な意味はなく、ただ彼女の思考を整理するためのスイッチのように使われていた。
「ACUAへのアクセスレベルを変更したわ。今日は営業をしているみたい。しかも数分前に火薬を五キロ売ったばかりよ」
「そんなことまでわかるのか」
「誰かが知っている情報は、全部ACUAに入る。私は金魚すくいのように、それを運よく拾い上げているだけ。此処に入らない情報なんて、死後の世界の
「金魚すくいマスターの道も近いな。……おい」
武器の構造を眺めるのに夢中になっているマサフミを、シズマはテーブルを三回ノックすることで現実に引き戻すことに成功した。小さな目を瞬かせながら顔を上げたマサフミは、料理人ではなく技術屋の表情をしていた。
「明日の同じ時間、此処に来る。それまでになんとしても間に合わせてくれ」
「わかった。せいぜい頑張って生き延びてくれ。この銃をコレクションするために、あんたの死を祈るのは割りに合わないからね」
「言ってろ。行くぞ、エストレ」
端末を閉じたエストレが椅子から立ち上がる。それをマサフミが呼び止めて、小さな何かを手渡した。透明なセロファンで包まれた赤い飴が、エストレの手の上に転がる。球体の周りについたザラメが、砕けた硝子によく似ていた。
「客には甘いキャンディーのサービスをしてるんだ。ご武運を」
「ありがとう」
子供に渡すような大きな飴玉に、エストレは複雑な表情をしながらも素直に礼を述べた。既に出入り口のドアを開けていたシズマは、それを見て早くするように促す。
「早くしろ。此処でゲームオーバーにはなりたくないだろ」
「せっかちね」
エストレは肩を竦める。
「女性の身支度を急かす男はモテないのよ」
「身支度! 今度は身支度と来たもんだ。次はなんだ、コルセットを締めるから五分待てとか言うんじゃないだろうな? 君が優雅に振る舞うのは結構だが、俺はそれに付き合うほど酔狂じゃない。わかったら、さっさとついてこい」
「怒ったの?」
どこか愉快そうに言うエストレに、シズマは指で銃の形を作って発射する仕草を返す。見えない弾丸で額を撃ち抜かれたエストレは、一層笑みを深くした。
episode4 End and Next...
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