2.ACUA
「それに何の意味がある?」
「企業であれば、自社の製品を宣伝するのに使えるでしょうね。宗教法人も一緒」
アンドロイドと違って、人間は誰かから聞いたものを正確に別の誰かに伝えることが出来ない。
本人に嘘をつくつもりがなくても、誤った情報が混じって伝わってしまうことは、よくある。しかし、アセストン・ネットワークでは、それすらも計算して噂を流すことが可能だとされている。
「だから、大企業がこぞって研究しているの。正式名称はもっと長くてややこしいから、最近では頭文字を取って「
「君はなぜそれに触れた?」
「本当は
真偽のわからない、玉石混合のデータの海。普通の者にはただのメタデータにしか見えないが、その一つ一つが明確な意味を有している。
「私はアンドロイドと人間、どちらの頭脳も持っている。だから、そこに漂う噂話の真偽を見極めることが出来た」
エストレは自嘲めいた口調で言った。
人間であろうとする彼女が、そのために頼ったのはアンドロイドの部分だった。
「恐らく、直感的に
「なるほど」
銃の手入れを終えたシズマは、それを手で握って感触を確かめる。
愛銃はいつものように大人しく、彼の手の中に収まっていた。
「でもなぜそんなことを聞くの?」
「それを使って殺し屋を探し当てられたのなら、俺が欲しい情報も手に入るんじゃないかと思ったんだ」
「何が欲しいの?」
シズマは愛銃を構えて、エストレの方に向けた。
彼女の大きな黒い瞳に、黒い銃が溶け込んでいた。
「この銃を調整できる技術者だ。長いこと、ある技術者に頼んでいたんだが、連絡が取れなくなった。特殊な銃だから、調整出来る人間は限られている」
「その人を探せばいいの?」
「出来るか?」
「ネットワーク接続出来る端末はある? スペックは低くて構わない」
シズマは、自分が使っているノート型端末を彼女に手渡した。数年前にアキハバラで買ったものだが、特に酷使することもないためか今でも充分に動く。
銀色の筐体は細かな傷で覆われ、他に飾り気もない。
エストレはそれを開くなり「あら」と声を出した。
「貴方、胸の大きい女性が好きなのね」
「悪いか?」
「いいえ」
モニタ背景を揶揄されても、シズマは特に堪えなかった。
公式に配布されている壁紙を使っているだけで、悪いことなどしていない。これが幼女の隠し撮り画像なら話は別だが、シズマにそのような趣味はなかった。
「暫く借りるわ」
そう言うと、エストレは髪を拭いていたタオルをベッドに放り出し、食い入るように画面を見つめる。他の情報など不要とでもいうように、その目は画面に吸い寄せられたまま動かなかった。
シズマは小さく溜息をついて立ち上がり、投げ出されたタオルを回収する。
「なぁ、そこは君のベッドじゃないんだけど」
念のため言ってみたが、エストレの耳には一切届いていなかった。
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