魔法少女リリィⅢ

「貴方はだぁれ?」

「誰だと思う?」

貴方は、誰なのだろう。彼女の書いた返事が気になって、ずっと答えを探して頭の中をぐるぐるかき混ぜて、授業もろくに聞かずにもう放課後になってしまった。

「凜々ちゃん、どうしたの?」

心配そうに顔を覗き込んでくる、髪の長い眼鏡の女の子はクラスメイトで友達の優香ユカだ。あのね、そう言いかけて口を噤む。なんと説明すればいいのか、それとも何も言わない方がいいのだろうか。

「凜々ちゃん......わかるよ。苦しいんだよね。」

また先程までと同じように考え込んでいると、神妙な面立ちで頷く優香。不思議に思い目をぱちくり瞬きして首を傾げる。

凜々ちゃん、また私の名前を呼んで、一拍おき、私の顔の近くまで詰め寄って、興奮を抑えるようにして言った。

「凜々ちゃん、好きな男の子が出来たんでしょ! 」

驚いて目を見開くと、

「やっぱり! ね、そうなんでしょ! 誰なの、教えて!」

顔が近い。圧迫感に顔を背けるも、優香は気にした素振りもなく、前の席の川辺くんがどうのそれとも後ろの席の岩垣くんがどうの、と思い当たるクラスの男子の名前を次々にあげていく。

「分かった、もしかして、進学科のあの美少年くん? えぇと、夢野ユメノ......。」

雅久ガク。夢野雅久くんでしょ。」

間髪入れず私は答えていた。じゃあ、とキラキラ輝く瞳で見詰めてくる。

「違うの、そんなんじゃない。委員会が同じだから、知ってるだけ。好きな人なんて、今は、まだ、分からない。」

途切れ途切れな否定の言葉、その上尻窄みになってしまった。確かに、夢野雅久くんは誰がどう見ても美少年だ。さらさらの黒髪に意思が強そうだけどどこか優しい雰囲気の目元、整った顔立ちをしている上に、進学科なのだから頭もいい。この間、廊下でたまたますれ違った時、たまたま目が合って、微笑まれた時は少しだけ胸がドキンと高鳴った。

「違う、もん。」

思い出したら頬が熱を帯びだしたように感じられ、それをかき消すように小さく否定する。

優香がニヤニヤした目でこちらを見ているのが目を逸らしていてもわかった。なんだか居たたまれないような気分になり、勢いよく椅子から立ち上がる。優香の「もう、照れちゃってぇ。」とからかう声を無視して、鞄に机の中のものを無理やり押し込み、挨拶もそこそこに教室を飛び出す。どうか雅久くんにだけは会いませんように。今会ったらどんな顔で挨拶すればいいのかわからなかったからだ。

うちの高校は、進学科のクラスも普通科のクラスも同じ校舎のそれぞれの学年で同じ階層にある。帰り途中に鉢合わす可能性は十分にあった。なるべく周りを見ないようにして、たまたま彼が居ても気付かないように、用事があって急いでいるふりをして足早に階段を駆け下りる。生徒用の玄関まで辿り着き、一先ず安心していると、

「どうしたの、須野さん。」

不意に声を掛けられる。

「今帰り?僕もなんだ。」

靴箱から靴を取り出しながらそう微笑む。少女漫画や童話の王子様みたいだ、とぼんやり思う。

「じゃ、また明日。」

軽く手を挙げて挨拶し、爽やかな笑顔と共に去っていく。

「う、うんっ。また、ね。」

慌てて手を振ると、気付いた雅久くんが手を振り返してくれた。

変じゃなかったかな、私。少しだけ火照った顔を手で覆って、優香のバカ、といきなり変な事を言い出した優香を少しだけ恨んだ。

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魔法少女の作り方 亜保呂都留 @naitouhiu

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