魔法少女リリィII

すーっと意識が生暖かい沼のような眠りから浮かび上がった。プールで泳いだ体育の授業後みたいに、ぽやぽやしてもやがかかった頭が考える。一昨日見た夢の女の子はまた来てくれたのだろうか。手探りで枕元のノートを探す。指の先が固く滑らかな面に触れた。......あった。ベッドとノートの間に親指を差し込み引き寄せる。おなかにノートを押し当てて、片手で上半身を持ち上げる。ふあぁあと大きなあくびを一つ。未だ覚醒しきらない頭をどうにか覚醒させようと振る。目を擦って、ノートをまじまじと眺める。

「お返事、きたかな」

覚束無い手つきで鍵を開く。あなたは誰? 私が昨日書いた言葉だ。その下に、

「誰だと、思う?」

声に出して読み上げてみる。答えになっていないことよりも、応えが返ってきたことがただ嬉しかった。何度も同じ言葉を読んでふふふと小さく笑みがこぼれる。夢じゃなかったんだ。あの女の子は本当にいたんだ。

不意に、耳元であの子が小さく笑ったような気がした。


昨夜の話。薄いカーテン越しに射し込む月明かりで目を覚ました。私の体はベッドに横たえられていた。起き上がり、顔の前で手を動かしながら、あの人影、もう1人の私の体に入り込んだことを悟った。昨日と同じ夜は続いていた。ふと枕元にノートが置かれていることに気付いた。鍵付きのノートだ。鍵の場所はすぐにわかった。パジャマの小さなポケットの中に手を突っ込んで硬く冷たい感触のそれを引き抜き、ノートを開く。あなたは誰?如何にも女の子が書いたような丸まった字でそう綴られていた。あなたは誰?私は誰なのか。知るためにここに来て、もう1人の私と出会った。私はあなただ。でも、同時に別の頭を持った人間、動物......なのだろうか。動物は霧のように消えたりなんかしない、はず。それならやはり私は何者なのだろうか。持っているのに空っぽな無い頭を振り絞っても答えは出てこない。仕方ないので聞いてみることにした。誰だと思う? もう1人の私は答えてくれるだろうか。空はもう白み始めて来ていた。私に体を返さなくては。鍵を元に戻しながら、私自身のことや、もう1人の私のこと、何故もう1人の私なのかまたその人だとわかったのか、疑問は次々に脳裏に浮かんでは積もっていく。なるようになるのだ、私の意識はまた深い眠りについた。

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