今日もとってもありがとう

草詩

カクヨムライフを楽しもう

 小鳥のさえずり導かれ。


 ラララ、ラララ。とってもとっても楽しそう。


 緑と青の大きなおうち。


 あちらのとんがり何帽子?


 こちらの煙突蜜の味。


 ラララ、ラララ。とってもとっても素敵なおうち。


~~~~~


「チーカ、チーカ、とっても素敵なフロイライン。とってもとっても楽しい歌だねぇ」


 歌っている私を呼ぶ声がする。どうしてかしら。一体全体何の用?

 私は足を止めてリズムの世界からこちらの世界へ。とんがり帽子は何帽子?


「そうかしらそうかしら。あなたはとっても不気味なティーオ? それとも紳士なオンケルさん?」


 スペイン語なのかしら。ドイツ語なのかしら。ふわふわ揺れてどっちつかずなおじ様は、とんがり帽子を持って路の端に立って居た。

 緑と青の大きなおうちが立ち並ぶ街並みで。蜜の香りで包み込んでくるパン屋の横で。


「おやこれは手厳しい。聡明なお嬢さん、ご機嫌歌ってさえずって何処へ行こうというんだい?」


「素敵な処よ。とってもとっても素敵な箱の中。色んな世界に旅立つの」


「おやおやそれはいけないよ、お姫様。まだ本日のお仕事が終わってらっしゃらない」


「まぁ、なんて無粋なのかしら。そのとんがり帽子をお下げになって? 私は行かなければならないの」


「いけません姫様」


 有無を言わさぬ声がする。爺やのその一言で、私は空想の世界から現実の世界へ。とんがり帽子が目の前に。



「なりません姫様。お戯れもそこまでです。今もあなた様のお力を待っている何百もの家臣たちが居るのです」

「……わかってるわ。でもね爺や。私がヨムで異世界に羽ばたいているところに、土足で入って来るのはやめてね?」


 私は言われて魔法の箱から爺やへと向き直っていた。

 ここは私の部屋で、国の王たるお父様の権限で不可侵の領域のはずなのに。爺やは平気で入って来るのだ。


「その自由はお仕事を成されてからでも遅くはないでしょう?」

「もう、爺やは小言ばっかり。それじゃぁ、いつものように」


 憂鬱だ。政務はお兄様が引き継ぐことになっているのに、私は王家として引き継いだ力があるせいで、毎日お仕事が待っている。

 とは言え、そのお仕事のおかげで様々な自由がついてくるのだから文句も言えない。言うけれど。


 爺やが差し出したとんがり帽子、もとい下に向けた望遠鏡のような円錐状の魔導具を手に取り、上から覗き込む。

 私の眼が開く。視界は青白く、遠見の魔法と授かった異能が開いていく。


 見開いた先は遠き戦場の空の上。私が受け継いだのは戦神のまなこ

 多くの人が死地へと向かう。どうしてこんなことをしているのか。嫌になるけれど、これが私のお仕事だ。


 私の言葉は司令に届く。半端なことは許されない。

 川を前に対峙する両軍。こちらの右に大きな橋があり、どちらもそちらに主力を置いていた。


「右翼一歩前へ。引き付けたのち耐え、左翼前進で打開しろ。敵はこちらの主力とかち合う気だ好きにさせよ」

『左翼ですか? しかし左に橋はありませんが……』


「敵の左は弱い。こちらの主力を抑える気で精鋭を右に割り振ったのだろう。川がどうした。渡河せよ」

『敵前での渡河は危険です姫様』


「向こうが何ヶ月もかけて築き、死ぬ気で守ろうとしているところを兵の出血なしで食い破れるわけがなかろう。その意味でも右は手厚いが左は弱い。よく波を見よ、左は右の増築で流れ出た土砂で浅く足場が出来ている」


『確認させます』

「ならん。敵に気付かれては一手遅れるぞ司令官。それとも、我の言うことを信じられぬのか?」

『そ、そのようなことは』


 戦場が、動く。私の言う通りに。それが最善手だとしても、多くの兵が矢に晒され、槍で突かれ、火や溶けた鉛をかけられていく。

 一人二人。十人二十人。数えられない。数えてはいられない。


 目を背けたくなっても。背ける方が危険だ。何事もなく終わって欲しい。

 危機があった時のための眼なのだとしても。危険がなければないほど、後方から偉そうに指示だけ出す放蕩娘と罵られるのだとしても。


 私が有難く思われない世の方が素敵だ。


「終わりましたかな姫様」

「うん……。もういいよ爺や」


 数刻戦場を見つめた私の眼は閉じた。爺やは私の血の涙を拭いて、うやうやしく礼をすると出て行った。


 さて、これでお仕事もおしまいだ。

 私は部屋に備え付けられた魔導具の箱へと向かい合う。


 お仕事を終えたあとの、私の心のリフレッシュ。

 これも様々な自由のうちの一つ。


 箱の中の世界。魔法の世界。そこでは様々な物語が息づき、様々な人々が集う不思議な処。

 今日もまた、箱の中。カクヨムを行って、仕事の疲れを癒すのだ。多くの人がそうであるように。


~~~~~


 カクヨム小鳥のさえずりで。


 ラララ、ラララ。とっても楽しい読書の時間。


 青に四角の大きなおうち。


 あちらのお星も楽しそう?


 こちらのハートは蜜の味。


 ラララ、ラララ。とってもとっても素敵な居場所。


 カクヨムさん、今日もとってもありがとう。

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