15-ARMED
「どこからこんなもん調達したんだよ」
「海外に拠点を置く民間の軍事企業、装甲が薄い代わりにバギーにもバイクにもなるスグレモノでね、それに走行音もすっごく静か」
俺たちが乗っているバイク型の乗り物……いや、今はバギー型の乗り物だ、水上がタブレット端末で操作しているコレは音も無く街を駆け抜けていた。
これが軍事開発されたものだとしたら少し恐ろしさすら感じる、そう感じていた矢先のことだった。
「
LOSTが出現したらしい、こっちに居る間は例の夢を見ないせいかさっきの植物型もかなり遠い位置に出現して駆けつけるのに時間がかかってしまった。
バギーを急停止させた水上が慌てて端末を確認した。
「近い、でも全然保存してないエリア……網島くん、行き先変更!」
急発進し、予定していたエリアとは違う方角へと向かう。
「……待って!」
数十メートル進んだ時点で雪原が後ろから手を出し水上の端末を操作する、バギーはその場で旋回して別の路地に入った。
「雪原ちゃん! 何を──」
背後から熱風と爆発音が響く、振り向くと先ほど進んでいた道が燃え上がっているのが視界に入った。
「そんな、こっちの世界に干渉するなんて」
「一瞬、ガードミラーの温度が上がるのが見えたんです」
雪原はブラックボックスの影響で「温度」を視覚的に捉えることができると聞いた。
「このままこっちに被害が広がるとまずい、俺らを向こうに送って水上はすぐ逃げろ」
バギーを停め、俺たちを下ろした後で展開していた機体を畳みバイク型に戻すと水上は真剣な顔でこちらを見た。
「アラートの位置から遠く離れた場所、しかも私のブラックボックスの位相にまで影響を及ぼすLOSTってかなり異例な相手になるかもしれないよ、気を付けて」
「言われずとも」
「それと、そろそろあの子が合流するはずだから、私の
例の感覚と共に元の世界に戻る、真っ先に目に入ったのは遠く上空に浮かぶ真っ黒な物体だった。
俺が取り出した単眼鏡に天宮が触れ、拡大率を拡張する。
覗き込んだ単眼鏡に映り込んだのは、真っ黒な縁で飾られた鏡がゆっくりと回転する様子だった。
「鏡……?」
鏡からチカチカと光が反射する、咄嗟に「逃げろ!」と叫ぶが既に遅く、すぐ近くの家屋を貫いた光線が地面を抉り、爆風が辺りを蹂躙した。
「
煙幕の中から富薬の声がする、無事だったようだ。
「炎症弾」
紫色の閃光がまっすぐに鏡へと飛んでいく、再び鏡からチカチカと光が反射され、閃光は途中で蒸発するように消えてしまった。
「全員無事か!?」
「雪原チーム、無事です」
「俺は無事だ、嶺崎は戻るなりすぐにどっか行ったから多分大丈夫だろ」
残った土煙の中からそれぞれの声がする、俺は先ほどの単眼鏡を長距離用のシューターに取り付け、フロートシューズの出力を最大にして地面を蹴った。
「目標、
手頃な民家の屋根に着地し、様子を確認する。
流石に遠過ぎる、シューターも天宮に拡張してもらっておくべきだった。
再び何度かの反射光が見える、一瞬の解析結果を見て素早く指示を出した。
「天宮! 雪原を連れて最大出力でジャンプ、雪原は目標から北西500m、高度30mの位置に氷結弾を設置! 富薬! まだ弾が残ってたら挑発程度でいいから撃て!」
指示した位置に巨大な氷の結晶が出現し、一瞬で砕け散る。
同時に数発の閃光が地面から上空に向けて走り、途切れて消えていった。
「エリック、奴を墜とす、奴の直下まで走れるか?」
「気安い御用ってやつだネ」
それを言うならお安いでしょと半壊した家屋の屋根から雪原の声が響く、エリックは既に走りだしていて聴いていない様子だった。
「妙だな、不自然なまでに人が居ない」
隣に着地した嶺崎が呟く、俺もその違和感には気付いていた。
いや、人が居ないんじゃなくて、この騒ぎに反応する人があまりにも居なさすぎる、人の気配はある、しかし逃げるわけでもなくどこかにじっとしているようだ。
「雪原、俺の足元から後ろに2m、小さめの氷結弾」
銃声と共に氷の結晶が出現し、そのまま地面に落ちていく。
雪原のブラックボックスからは銃声など聞こえるはずもない、つまり今のは実際に銃撃されたということだ。
「嶺崎、眠らせるなら銃弾の信管だけだ、狙えるか?」
「あいつだけ……いや、あれだけ対応しても意味ないでしょ」
気付いてたのかと目を瞑り深く息を吸い込んだ。
「総員、戦闘態勢! 武装した市民に囲まれている!」
ピンッと音がして手榴弾が俺の足元に転がる、パチンと嶺崎の指が鳴って銃の空撃ちの音が続いた、手榴弾と銃弾の信管だけが眠らされたようだ。
「嶺崎はエリックの援護」
「オッケー」
遥か遠くの影で光が数回点滅し、危険地帯を示す赤い膜が視界に数カ所現れる。
全員に分かる合図を出し走り始める、予想通り辺りの武装兵も走り始め、危険地帯から出たことを確認した。
爆音と熱風の中、一筋の光が視界の外から迫る。
「刀か……どこの武器商人を味方にしやがったんだ」
咄嗟に避けて着地した塀の上から襲撃者の得物を見て舌打ちをする、襲撃者は虚ろな目でこちらを見た。
「
襲撃者が振った刀が一瞬で赤熱し、解けて原型を失う、天宮と雪原が合流したようだ。
「まだ来るぞ! なんだアレ、マシンガンか!?」
アニメで見るような筋骨隆々の男が大きな火器を抱えてこちらに走って来るのが見える、刀を溶かされた男はフラリと姿を消していた。
「氷結弾!」
十数メートル離れた位置で男がマシンガンを構える、その手元が一瞬で凍るが、一瞬で氷は砕け散った。
「バケモノ……」
ガシャンと音がして一瞬の静けさが訪れる、視界が「危険地帯」の膜でいっぱいになる、辺りを見回すが水上が干渉できそうな鏡も見当たらない。
ダメだ、避けきれない──
「アラクネ、音声操作開始」
雪原と天宮の目の前に細身の盾を持った何者かが降り立つ、一瞬の出来事だった。
「
腰に取り付けられた機械から4本のアームが展開し、その先端を地面に深々と突き刺した。
「早く!」
声を掛けられハッとしてその何者かが持っていた盾の影に転がり込んだ。
盾は先ほどのアームの展開に合わせて横幅が広がっていて、4人が隠れるには充分なサイズになっていた。
銃撃音と共に盾から金属音が響く、辺りのブロック塀や地面が砕けて散っていく、この国に住んでいてあんな重火器にお目にかかれるとは思ってもいなかった。
「銃撃が止んだ、チャンス」
盾をもっていたそいつが盾の裏側の溝にカートリッジのようなものを差し込み、盾の先端部分を相手に向けた。
「ブッ飛べ!!!!」
盾の一部がガシャンと音を立ててマシンガン男の方へと飛ぶ。
男の目の前の地面にそれが着弾した瞬間、バチバチと音を立てて稲妻のような閃光が走った。
「弱めのEMPだから死にはしないわ、早いとこ隠れましょう」
「……四谷、また装備が増えたな」
「ふふ、そうでしょ? ア・マ・ミ・ヤ・クン♡」
バイザーとマスクで顔が隠れて見えないが、声で既に誰か分かっていた。
「おい、早いとこ隠れようって言ったのお前だろ、急げよ」
「せーっかく助けたのに、冷たいなぁ」
遠過ぎて黒い点にしか見えない鏡型のLOSTを見上げ、四谷がふぅんとなんともいえない感想のような声を漏らした。
「面白い相手ね、さらに武装集団のオマケ付きときた」
カシャンと音を立ててバイザーを上げて口を覆っていた防塵マスクを顎まで下げてニヤリと笑いサムズアップをしてみせる。
「
LOST ナトリカシオ @sugar_and_salt
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