14-STRATEGY
鼻歌を歌いながら男性が歩いている、真夜中の街ではよくある光景だ。
その男性に1人の少年がぶつかった。
「おい、クソガキぃ……どこに目ぇつけて歩いてんだぁ?」
「見て分かりませんか」
「あんだとぉ?」
少年が男性の首筋に手を当てる、男性は急に黙り込み、力なく両手をダランと下げた。
「僕の敵はお前の敵だ、先にいつのもの場所に戻って待機していろ」
「……はい」
男性はフラフラとどこかへ歩いていく、少年は舌打ちをしてそのまま歩いてどこかへ消えていった。
* * * * *
3、2、1……心の中でカウントを取り飛び出す、植物型のLOSTの蔦が空を切りこちらに迫る。
「エリックはまだか!?」
攻撃を躱しながら叫ぶ、由田の捜索中にLOSTが発生したのはまだ良いが、本部の四谷は最初から勝手にどこかに行っているし、合流した隊員の1人は迷子になっている。
「メールは送りましたよっと!」
何かを撃つ動作をすると、狙った位置に温度の弾を設置する事ができるブラックボックスを使うことができる。
LOSTの蔦がその弾に直撃し、爆炎に包まれる。
「ありゃ弾というより爆弾だな」
天宮の感想も納得できる、弾とは名ばかりで刺激が加わるとその周囲を指定した温度に変化させるというものだから、最大温度に設定しておけば触れるだけで対象を焼き尽くす凶暴な威力を発揮すると聞いていた。
実際に見てみるととんでもない威力だ。
周囲の地面からいくつもの蔦が飛び出て来る、富薬がいくつかの攻撃を受け、それをすぐにブラックボックスの弾として撃ち出す。
「ダメだ、壊しても壊しても回復しやがる」
「せっかく
「破壊力が強くなりすぎてて扱いにくいんだよ、少しでも弾が逸れたらまだ使われてる家屋がドカンだぞ」
富薬が破壊し損ねた蔦が爆発炎上する、雪原がそのままLOSTの本体の方へと走って行った。
「……なるほど、天宮! 雪原の援護!」
言われなくともと叫び天宮が還元弾を撃ちまくり雪原の前方にスペースを空ける。
雪原が弾の装填されていないシューターを数発空撃ちする、直後にLOSTの本体の一部が一瞬で凍結された。
『Accept,BLACK-BOX......Start-up』
機械音声と共に木刀を持った金髪の青年が雪原の背後に着地する。
雪原が再びカチカチと空撃ちをしたのを確認した青年が腰の辺りで木刀を構えた。
「ジゴク魔なのはHEROのサガだからネ」
木刀の柄にぶら下がった鈴がチリンと鳴り、青年が木刀を振り抜くと同時に目の前のLOSTが両断されて炎上する。
LOSTはそのまま軋むような断末魔と共に消滅していった。
「はぁ……それを言うなら遅刻魔でしょうが、どこ行ってたのエリック」
「興味深いartのお店を見つけてネ、バトル大好きな君たちみたいなコワイ人たちには到底理解できないとは思いマスが」
嫌味ったらしく言う青年……エリック・アンダーソンを雪原がペシンと叩いた。
「で、由田についての情報は未だ見つからない……と」
LOSTのコアになっていた植木鉢を拾い上げる、持ち歩くには少し大きいなと顔をしかめていると、遠くから嶺崎が歩いて来るのが見えた。
「いやぁ人払いも大変だね」
「お疲れ様です、嶺崎さん」
「お、エリック君見つかったんだ、よかったねぇ未來ちゃん」
嶺崎はそう言いながら顔色一つ変えずに指を鳴らす、嶺崎の周囲に現れた眼球が一斉に彼の背後の方を向いた。
ドサリと音がし、ブロック塀の陰から1人の女性が倒れてきた。
「いつの間に……!」
雪原が息を飲む、エリックはすぐに警戒態勢を取るが、嶺崎がそれを制止した。
「1人だけだ、アレコレ僕らに言ってる割に意外と鈍いんだね」
嶺崎が笑って女性の方へと向かう、手に握られていたスイッチを手に取り、再び指を鳴らす。
「自爆特攻か、関心しないね」
「だ……大丈夫なんですか?」
「起爆装置を丸ごと眠らせた、人間と違って起きることは無いからこの爆弾は二度と使えないよ」
女性が提げていたカバンから仰々しい配線が付いた箱を抜き取り俺に投げて渡した。
「おい!」
「あぁゴメン、流石に衝撃与えたらまずいか……さて」
嶺崎が女性の肩を叩き目を覚まさせる。
気が付いた女性は辺りを見渡し怯えた様子で距離を取った。
「よかった、気が付いたみたいで」
状況が理解できていない様子だ、本当に先ほどまで自爆しようとしていた人間なのだろうかという疑問が浮かんできた。
「君はテロに巻き込まれたんだよ、何か覚えていることはあるかい?」
「えっと……何も」
「そういう事みたいだ、あとは修繕班に保護してもらおう……ここでじっとしててくれるかな、もうすぐ救援が来るから」
女性を置き去りにして歩いていく嶺崎の代わりに女性に一礼して雪原が着いていく、こう騒ぎになったら一旦撤退しないと由田の手先がさらに来てしまう可能性が高くなる、余計な被害を出さないためにもと俺も後に続いた。
交差点のカーブミラーを見上げて合図を送る、船酔いのような感覚と共に辺りの景色が反転して向こうの世界に到着すると、目の前に水上が立っていた。
「またド派手にやったねぇ」
「早いとこ直してあいつ保護してやれ」
はいはいと言って水上が『保存』していた街並みを反映し始める。
「捜索の成果は無しです、誰かさんが迷子になったんで」
雪原がそう報告しエリックを睨んだ。
まぁまぁ仕方ないじゃんと言って水上が別の建物の反映に向かう。
「LOSTの出現場所で、俺たちに近付こうとしていた奴が爆弾を持ってた」
「見てた見てた、由田少年に操られてたんだろうねぇ」
反転した街を歩きながら水上と話す、なんだか懐かしい感覚だ。
「ところで例の四谷って奴はまだ合流できないのか?」
「あちこちの探偵さんに協力の交渉しに行ってるってさ、資金無しで行ってあくまでも依頼ではなく協力って形で持って帰って来るからあの子のブラックボックスは凄いよね」
チカチカと手元の鏡を反射させて無事な部分を読み取り破壊された
「俺はその四谷のブラックボックスに関して何も知らされてないぞ」
「あんたは見れば分かるんだからいいじゃん……ほい、修復完了、細かい部分は修繕班に任せるわ」
「お前ほんと反則臭いブラックボックスだよな」
「攻撃が当たらない位置が分かる人に言われたくないわー」
次の捜索エリアが端末に送られて来る、向こうで休憩していた嶺崎たちにも同じ情報が送られてきたらしく、彼らが向こうで手を振っている。
「ついでにこのエリアまで連れて行ってくれ」
「やーだよ、せっかくの合同チームなんだしゆっくり行きなよ」
「遊びじゃないんだぞ」
「出たよ真面目くん」
嫌そうな顔をした水上がリモコンを操作する、静かなモーター音を響かせながら流線型のフォルムの二輪車が彼女の隣に停車した。
「まぁいいか、とりあえず行こうか」
ガシャンと音を立てて二輪車の後部に荷台のようなスペースが広がる。
「なんだこれ」
「ほら、四谷ちゃんの協力者の提供で、ね?」
こいつと居ると何回ため息をついても足りない、前からそうだったと思い出した瞬間だった。
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