ベリー来航


 外が見たいと苺が言うから、散歩に連れ出した。

 今日はいちご記念日。なんてな、有名な作品を持ち出してしまった。


 潮風がここちよい。今日は三寒四温の温の日で、海もおだやかだ。

 海岸線に太陽がきらきら。冬から春のまぶしい明るさに若干のめまい。


 詩人きどりでいたら、遠くの方から波間を縫って、ぷかぷかと何かが流れて来たよ。おや、海苔巻いたみたいな軍艦だ。といっても、両手に乗るくらいのちっこいサイズだけどね。


 いちごたちがざわめく。キター。

 え? はい?


 着岸した船からスルスルと下りてくる縄はしご。

 船の上に、ナポレオンみたいな帽子をかぶって、クラシックな望遠鏡を片目につけてるえらそうな御仁が見える。


「あ、あれは?」

 ざわざわざわざわ。

「クランベリー提督よ。横にいるのは麗しのラズベリー閣下だわ」

 キャーという悲鳴。女子いちごたちに人気らしい。

 高貴な好奇な、外来種の赤い実たち。つまり、ベリー来航!


「即刻、鎖国をやめよ!」


「ねぇねぇ、『さこく』って何?」

 顔を見合わせるいちごたち。 

「何だと、最近のいちごは、そんなことも知らぬのか。そこから説明してると日が暮れるので、割愛!」

 ねえ、提督さん。もう鎖国はとっくにやめてるから。



「モヒトツー、オネガイガ、アルノデスー」

 まだ一つ目だけど。

 急に提督が外国人風発音にモドッテ、そんなことを言う。さっきまでニホンゴちゃんと喋ってたじゃないか。


「フジヤマに、ノボッテ、ゴライコー、ミタイデース」

 念のため通訳すると、富士山に登ってご来光が見たいと。来航してきた奴らが、ご来光(日の出のことね)だと! ぷっ。

 メガホン持ってそんなこと言ってるけど、いちごたちも「いいね!」って親指立てて、ぼくを見てる。


 さて、いちごやら、ベリーやらがどうやって登るんだよ。

 あ、そっか。ぼくの背中、ね。

 はいはい。家からおっきめのリュックを探してきて、全員(全苺)に入ってもらうことにした。まだ季節も寒いから、寝袋と毛布持って行こうか。なんか家出みたいだな。


 そこに、いちゴーカートがキュキュキュっとやってきて(苺の形のゴーカートな)

「ツイヅイしますので、よろしくお願いします」だって。

 いちごマントはためかせて、アイマスクして、アルファベットはK。その名はいちご仮面。はいはい。


 ゴーカートにくっついてるサイドカーには、ラズベリー閣下がワイングラスを片手に乗っていて、周りはいちご女子で囲まれている。わぁ、ハーレムか? パーリーピーポーか?

 あわてて、胸ポケット確かめたら、ちゃんといちご姫はぼくのそばにいた。

 うん。君は、ぼくの姫だからね。



 さあ、大変だ。責任重大だぞ、頂上まで行けるかな、と思っていたら

「一合目(いちご目)まででケッコウです」って。

 それってあんまり地上と変わらないぜ。いちごたちのこだわりかよ。


 歩きながら、ロープで繋いだ、いちゴーカートをテケテケと引っぱって行く。こどものおもちゃみたいだな。石に乗り上げるたびに、ラズベリー閣下の「オーノー!」という声と、閣下にしがみつく女子いちごたちのきゃっきゃと楽しそうな声。


「一合目で一合のいちご酒を酌み交わすのがよいのだ」

 到着すると、早速提督の合図でピクニックシートを広げる。いちご酒で酔っ払った苺&ベリー軍団がよちよち歩いてて、壮観。

 クラッカー持ってきたから、みんなそれをカジカジしている。まちがって乗ったまま寝てると、たべちゃうよ。レッツ・リッツパーティ。(あ、商品名が)


 あったかく毛布にくるまるいちごたちの小さな寝息がくすぐったい。みんなぼくがうっかりくしゃみすると飛んで行ってるな。

 

 早朝、朝日を見ながら、ベリー軍団が持ってきた舶来品のコンデンスミルクで、朝風呂タイム。バスタブ(ミニチュアサイズ)にダバダバと入れて、ミルク風呂。

 いちごフォンデュ状態。それってもう、全員おいしそう過ぎて、もはや罪です。イチゴミルクの香りにそそられちゃう。


 この後、ベリーたち御一行様は、ツアコンのいちご仮面に連れられて、いちご湯沢にスキー&温泉ツアーへと出かけましたとさ。





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