グレイブリーデイズ

@snogger

第1話

真っ黒な世界 ただ暗闇と墓だけが存在する世界。

いつものように独りの男はぼろぼろのコートを着込んで見回りへと向かう。ランタンに明かりをつけ、あばら屋を出るとすぐに巨大な墓場へと到着する。規則的に 等間隔に並んだ墓標たち。

悪霊が出ることも、ゾンビになって墓から復活することもない。いつもと変わらない墓標、いつもと変わらない枯れた木々。これまでただの一つもその墓場には変化が訪れたことはない。そのようにこの墓標の群れを管理することが残された彼の唯一の仕事だ。広大な墓地をぐるっと回っていく。そうして数時間回って元の場所に戻ると


「あぁ。今日も問題なし。」


と思い出したかのように唐突に声に出す。誰も話す相手なぞいないというのだが。彼にとってもはやこの発言すらもルーティンの一つになってしまっていた。これまで過ごしてきたあまりに長い年月は、代わり映えのしない毎日を送り続けることへの疑問などとうに消し去り、同じ作業を繰り返すことしかできなくなり果てていた。

 ルーティンの見回りを終えた男はとぼとぼと出てきたあばら家に戻っていく。男は家の中に入ると台所に立ち、鍋に水をいれ、温め始めた。鍋に火をかけると男は奥の階段から地下へと降りていった。地下へ入っていくとそこには真っ白な空間があった。男はその空間に入るとその中心に鎮座しているマシンへと近寄っていく。部屋の真ん中には全自動で栽培がおこなわれる「畑」が存在し男はその「畑」から今日食べる分のみを収穫した。部屋全体の光量をライトで調節し、人工的な土壌を維持することで普通よりも早く何も手をかけずに植物が育つようになっているのだ。男は野菜類をもち、またコツコツっと音を立てて上へと上がっていった。火にかけていた鍋の水は既に沸騰し、ざく切りにした根菜を鍋へと流しこんでいく。そうしてひたひたと野菜が柔らかくなるまで男は煮込んでいった。

 スープが完成すると男は 皿に盛り、一日に一回の食事を取った。食事ののち、男はすぐにベッドに向かう。今日一日を振りかえることもなく彼は眠りにつく。こうして男のいつもの一日は終わった。


翌日


この世界では彼が起きるタイミングが朝になる。ここに太陽が昇ることがないから。

 男が起きると、部屋の灯りを点け、まどろみからの覚醒を迎える。外は暗く寝付いたときの様子とほとんど変わらない。ただ今日はバケツをひっくり返したかのような豪雨が降っている。

 男はおもむろにやかんに水を入れ、お湯を沸かす。沸かしている間、ドリッパーに引いた豆をいれ男はコーヒーを淹れる準備をする。これが男の一日で最も大事で幸せな時間だ。お湯が沸くと男はやかんからドリッパーに少しずつお湯を注ぎ、コーヒーを淹れていく。豆がお湯を注がれて膨らみ、コーヒーの香りがゆっくりと家の中に充満していく。コーヒーができると男はそれをゆっくりと飲み、朝の時間を味わった。

 コーヒータイムが終わると男はまた大きなコートを着て外へと出ていく。今日の見回りをするためだ。男はコートを着て扉を開き、豪雨の中に向かっていく。強い風、激しい雨の中、墓地の中、ひたすらに進んでいく。何キロという長大な墓地をゆっくりゆっくり歩き、男は墓標たちの様子を見ていく。男がゆっくりといつもの道程の半分を過ぎたところにいきなり雷が落ちた。男がたまらず空を眺めると、後ろからのそのそと人影が近づいてくる。

 「やっぱり嵐の日はグールがよく出るね。」男が気づいて振り返り、一人ごちる。そこにはやせ細り歩くのもままならないような人のようなものがいた。知性などはなくただこちらへと向かってくる。男は体を預けていた杖を持ち直し、よろよろと近づいてくるグールに一太刀を浴びせる。グールはそのまま倒れ、立ち上ろうともがき続けていた。そこに男は杖を突きつけ「パージ」と小さく呟くと、グールは火に包まれ消えていった。そして男は何事もなかったかのようにまたゆっくりと見回りに戻っていく。

 グールを清め、あばら小屋に男が戻ってくると、小屋の扉が開いている。男が訝しみながら入ると、そこには一人の少女がちょこんと座っていた……。




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