一の火は後輩に優しかった。

フリドルフ山、山頂。あちらこちらへ散らばっていたチームの機材はウノとサンクの手によって片付けられていき、まとめられていた。ウノはテキパキと動くが、サンクは時折、ヨンとセブンが飛んでいった方を見やる。その様子を、ウノはしっかり見ていた。


「サンク、セブンのハサミがどれだけ強いか知らないのか?人間くらい一瞬で真っ二つだって。いや、人間じゃないヤツ……なんてったっけ。真っ白けで、舌をだらーんとして、あーそうそう。人間を嬉々として拷問してたな!そいつもハサミでこう、一発だったぜ。その時のそいつの仲間の様子ったら傑作だったぜ!映像記録とか見なかった?たぶん養成所とかに置いてあったはずだけど」


「………これ、どこに入れとけばいいですか」


「あぁ、これね。こっち寄越して」


「どうぞ」


「で、アレだ。ヨンもすごいからな!ウチの蔵書庫に置いてあった魔導書をこんな小さい頃から読めてさ。めちゃくちゃ頭良かったんだよ。いや、今も頭いいんだけどさ。そういえば、どうやって人間の言語を習得したんだろうな?まぁそれは今度聞いてみるとして。あー、そうか。前回の作戦に参加してるからヨンのすごさはハッキリ分かってんのか」


二人は絶対に帰ってくる、と言わんばかりにウノは語る。


「リーダー、別に気にしなくていいですよ」


「そうか。ウザがったか。……すまん」


「……謝らないでください。ボクが、その、敵にビビってるだけですから」


「心配しなくていい。俺に新兵器があるからな」


そう言ったウノの右ハサミに見覚えのない、黒くて丸い器具がある。新兵器、と呼ばれるほど大層な物には決して見えない。


「……何ができるんですか、それ」


「それは使う時が来てからのお楽しみってことで!ほれ、とっとと片すぞ」


が、ウノは自信ありげに掲げて見せた。


「はい……!」


サンクは、どうやら死ぬことなく帰れそうだ、と思った。ヨンとセブンが帰って来ることよりも、自分が無事で帰れるかどうかについて考えた。ウノの新兵器でなんとかなるのだろうと安心した。


自分の身だけを案じていた。


「避けろッ!!」


右に躱す、衝撃。サンクは自分の羽が落ちるのを見た。体感時間が遅くなる。ゆっくり、ゆっくりと地面に向かって自分の羽が落ちていく。痛みを感じる前に、サンクの中でなにかが切れた。頭が真っ白になって、何も考えられない。目の前の出来事を受け入れまいとした。


サンクは振り返る事もせずに、そのまま空へと飛び上がった。片羽で、どうして上手く飛べるだろうか。


宇宙服の人型は、足をもヒトのそれから獣のものへと変え、跳躍する為に力を込めた。この距離なら跳んで仕留められると踏んでいた。


「させるかよ!!」


ウノが新兵器で攻撃する。稲妻めいた光が人型へと奔る。人型はすんでのところで躱す。人型の視線が、サンクからウノへと移る。それを確認し、ウノは次の射撃に備えた。


サンクは、何かをぶつぶつと呟きながら山頂を離れていく。こんなはずじゃ、こうなるはずじゃなかったと、言葉を発することも叶わない。ただ、一心不乱に自分の星を目指す。帰巣本能の赴くままに飛んでいく。


「俺たちの仇だ。死ねよ人間」


ウノは新兵器を構え、人型の動きに備えた。

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