七の火は力強かった。
セブンとヨンが飛んでくるのを認識すると、人型、宇宙服と呼ばれる装甲を纏った存在は、どうにか人間らしい形を保っている、ポリゴンを雑に集めて作られたような腕を震わせる。すると結合が解け、獣を思わせる形へと腕が変化する。
その様子を見、セブンとヨンが言葉を交わす。もちろん、人型には聞こえない。もし聞こえたとしても、意味を結ぶことは不可能。だが、今度は二体でかかってくるらしい、という事は理解できた。
人型は構える。それはヒトの武術にも見えなくない構えであった。拳を開き、指の第一関節に相当する部位を曲げ、漢字の「入」のように構えている。
構えなどには意を介さず、セブンは右ハサミを広げて襲いかかる。それに合わせて人型は右腕を振るう。
広げたハサミと手の平が交錯すると思われた瞬間、ハサミが閉じられ、手首のあたりを切り裂く。人型に明らかな動揺があった。セブンはその動揺で痛覚の存在を確信した。確信できなければ、そのまま撤退していた事だろう。
それを見てセブンはヨンへと合図を送る。ヨンは空中に留まりながら、この世ならざる言の葉を紡ぎ始める。ヨンの記憶にある中で、最も苦しく、対象を死に至らしめるのに、最も適した魔術を。
セブンの左ハサミが人型へと疾る。人型は再び迎撃を試みるが、その腕はストンと落ちる。獣のような変化も解除され、ヒトのそれに似たものへ戻る。膝も落ちる。宇宙服の中で、苦悶が反響する。挟み切ってしまおうかという勢いで、セブンのハサミが人型を掴み上げる。
ヨンの選択した魔術は、対象に心臓麻痺を与える魔術。唱える文言が長引けば長引くと程、苦しみも増していく。死に至るまで、苦しみが終わる事はない、そんな魔術。
内部からはヨンの魔術で、外からはセブンのハサミで。今にも潰れてしまいそうな人型に、
「「なんだ。コンビでやれば大したことないじゃないか」」
というような感想を、二体は抱いた。
その感想は、人型とまともに戦えたチルを引き合いに出せば間違って居ないのだが、現状、チルの噴霧器が与えたダメージも手伝って、人型を締め上げるに至っているので、あまり正しくはない。それに、
『手負いの獣ほど恐ろしい』
なんて格言は、彼らの脳内にも心内にも無い。セブンのハサミとヨンの魔術が決まった時点で、人型を殺しきるのは時間の問題でしかなかった。やられちまったドライとチルは油断していただけだと、そう思っていた。
戻ったら訓練でも付けてやらねばな、とセブンは息を吐いた。
ヨンは存分に魔術が使える状況を持ってきてくれた事を、感謝すらしていた。
それは油断と言えない程の小さな隙であった。しかし、人型はその隙をこじ開ける程の力を持っていた。盤面は一瞬にして、反転する。
セブンの首から頭が消滅する。
呪文を唱えながらも、人型から視線を外した覚えのないヨンですら、知覚できないほどの一瞬。一瞬でセブンが死んだ。
宇宙服のヘルメットが開いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます