二部一章十三話

「あの惑星に『門』が出現してからの時間を考えると、そろそろ怪奇現象が起こり、こちらでいうところの『見習い魔術師』が大量に誕生する頃合いだろう。そうなると、少なからず民衆は混乱する。当然だ。ある日突然自分が怪物になってしまうのだから。しかし、そこが『敵』に付け入るスキにもなる」

「どういうことよ」

香弥がきくと、紘知はニヤリと笑った。

「『敵』がどこにいるのかと、ホワイトの『針』の持ち主を、僕たちで突き止めるのさ。そして、『敵』に近しい人のフリをして接近する。ほんの数日で十分だ。その間だけ、欺ければそれでいい。その間に、『針』の持ち主が危険な目に遭わないように注意しながら『針』だけ持ち去る。二人いれば事足りる仕事で、ちょうどいいことに僕と香弥は

今回の場合には、問題が二つ。紘知が指を二本、香弥とホワイトの前に出して見せる。

「一つ目。青銅の鍵の持ち主――『敵』が、どれほど青銅の鍵を使いこなせるか。また、青銅の鍵はあとどれほど使うことができるのか。ホワイトの経験から判断すると、高い確率で鍵の錆び付きは致命的なことになっている。あちらで僕たちの魔術が問題なく使える保証はないから、こちらから鍵を三つ持っていく必要がある」

今度はホワイトが、紘知に質問した。

「なぜ、三つなんだ?」

「一つは変装用。これは絶対に必要だ。僕たち青銅の鍵で魔術を使えば、だれにも気づかれないままに術を使うことができるからね。二つ目は、『針』を持ち出す用。ホワイトの眷属がネルには今もいるのだから、『針』の持ち主もまた眷属なのかもしれない。そうなると、鍵によって『奇跡』を起こしてしまうのが手っ取り早いだろう。使い捨てになるだろうが、協会ここなら量産も難しくない。やむを得ない出費だろう。そして最後のひとつが、帰還や『敵』の持つ青銅の鍵とのすり替えを目的にした、予備の鍵だ。僕たちがネルを通して別の惑星に介入した際に、何が起こるかは誰にも分からない。だから、影響を可能な限り小さくするために――言うなれば緩衝材としての――鍵を一つ用意しておきたい。必要ないとは思うのだけれど、そうならない未来も見えるんだ」

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(D)evil 遠くの空を舞う花は 留部このつき @luben0813

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