エピローグ

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『樋川莉菜様

初めてあなたに手紙を書きます。

あなたは覚えていないかも知れない。

随分、昔の事ですから。

あれから十年も経っているんですね。

少し驚きです。

時が過ぎるのは、早いものですね。


さて、この手紙は今の私達のことを書きたいと思います。

だって、あなたが知りたいでしょ?

だから、書くことにしたの。


そうですね、まずは私から。

私はというと、随分大人になりました。

当然ですが……

大学も出て、一応、OLなんかもしました。

でも今は専業主婦です。

私、結婚したんです。

お相手?

それは、あなたも知っている人ですよ。

そう、京さんです。

そんな京さんと間に、『莉愛りあ』という娘も授かることが出来て、とても穏やかな日々を過ごしています。

今日も、親子三人で、お花見をしています。

この手紙は、そこで書いているの。

桜がね、満開なんだ。とっても綺麗よ。

あなたにも見せてあげたいぐらいに。


次に、京さん。

京さんは、あの日、すぐに私に会いに来てくれました。

京さんは何も言わず、ただ私を抱きしめてくれました。

それと、あなたから、母と妹の茉菜に宛てた手紙を二人に渡していました。

手紙を読んだ二人は、あなたを想い、涙を流していたの。それを見た私は何故か自分の事のように思えたのを覚えています。

それからは、結構な頻度で京さんが家に遊びに来てくれました。

そして、京さんも大学生になって、今では弁護士になりました。

そうそう、京さんがあなたの事を話していました。

あなたを見送った時のことを。

お葬式の時に、あなたの顔を見て、なんて穏やかで綺麗な顔なんだと思ったみたいです。

そして、あなたを見送った後は、本気で泣いたそうです。人生で一番泣いたと言っていました。

未だに、その本気の涙を私は見ていません。

少し、嫉妬してしまいます(泣)


次に妹の茉菜です。

茉菜は今、日本には居ません。

仕事で海外を転々としているみたいです。

たまに帰ってきては色んな国のお土産をもらいますが……はっきり言って、よく分からないのが殆どです(笑)

あ、茉菜の仕事ですが、考古学で世界中の遺跡巡って、学会とか発表する。

そんなお仕事だそうです。

そう、茉菜は学者さんになったのです。

私のちょっとした自慢です。


次は母ですが、

今は孫の莉愛の相手が忙しいみたいで、私のちょっとしたお願いは聞いてもらえません。

もうありえなぐらい、莉愛を可愛がってくれてます。


あと、あなたの大切な茉菜ですが、あの後、一度だけ会いに来てくれました。

私たちの結婚式にです。

あの子はどうして分かったのだろう?

とても不思議です。

母は、怒って追い返そうとしたけど、私と妹の茉菜と京さんで母をなだめました。

大変だったんだから。


それから、花楓と孝太郎さんですが、顔を合わせるたびに、何故か喧嘩ばかりしていました。

でも、そんな二人も今では、夫婦になって、仲良くしています。


あの日に終わるはずだった私の未来が続いたのはあなたのお陰です。感謝してもしきれないぐらいに感謝しています。


あなたには会ったことがないけど、あなたは私の心の中でずっと生き続けていると信じています。


まだまだ、いっぱい書きたいことがあるんだけど、それはまた、今度にするね。


最後に、一言だけ。


ありがとう。本当にありがとう。

私、幸せになれたよ。


親愛なるもう一人の私、樋川莉菜様

藤田莉菜より』


 私は届くことのない手紙を手に持って、空を見上げた。あの子が笑っている気がした。

彼がそっと私の肩に手を回す。

そんな私たちを莉愛が見上げて、笑顔を見せる。

私たちはゆっくりと歩きだした。


そして周囲を見渡す。

この世界は、こんなにも綺麗に色付いていたの事に気付いた。

この世界は、とても美しくきらきらと輝いて、ゆっくりと私たちを包み込む。


そんな世界を私に与えてくれた全てに感謝を込めて、ありがとう。

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