第38話 ありえないっ!
勝負は四魔!東風戦!
だが、今回はジゼ達にあまりに有利な対局となっている。
対して、白皇后側の雀士――ハクに課せられた勝利条件は厳しいものだった。
一つ。対局中、千歳瑠璃側雀士に一度でも振り込めば負け。
二つ。対局中、必ず二連続和了を達成すること。
三つ。上記の勝利条件を達成した状態で、終局時点に千歳瑠璃側雀士の誰よりも持ち点が多くなければならない。
東 テティス 25000点 親
西 ナキ 25000点
南 ジゼ 25000点
北 ハク 25000点
☆
自身の親番から始まったテティスは、山から牌をツモりながら自らの勝利を確信した。
(これは、いくらなんでも容易過ぎますね)
つい先程、ジゼを相手に自らの慢心を悔いた彼女だったが、この対局については慢心せずにはいられない。
いや、彼女にとってこの感情は慢心ですらなかった。
テティスは王牌の『二萬』を見て、現在のドラが『三萬』であることを確認すると、対戦相手であるハクと、共闘しているナキとジゼの手牌へと意識を集中する!
そして!
(配牌時点でお兄さんのドラは0。お姉さんにはドラが一枚……たぶん、赤ドラ? でしょうか。そして……あのいけ好かないお人形娘、あの子はドラが二枚。いえ――)
「
(これで、5枚です!)
彼女はハク達の配牌、ドラの数を察した上でたった今ツモった『發』で暗槓をして見せた!
しかも、彼女の異能はこのドラでハクの手牌にドラが3枚増えたことを告げる!
(現時点でドラ5枚……これで、あたしから逃げられる訳がありません。しかも、今回はお兄さんとお姉さんが敵ではない。加えて、あのお人形娘には厳しい条件が付いている)
テティスは自らの――いや、千歳瑠璃側の有利に口元を歪め。
(これで負けるようなら、雀士は廃業すべきです!)
リンシャン牌をツモって『三索』を河へと捨てた。
◇
(テティスってば、いきなりの暗槓? やるじゃない)
続くナキはテティスの手の速さに感心しながら自らの手牌と王牌のドラ表示牌を確認する。
(今、私の手牌には赤ドラである『五萬』が一枚きり。けど、さっきの暗槓でドラは『三萬』に加え、『六索』が四枚増えている。なら、ジゼかあの白って子にドラが偏っていると考えるべきね)
現在、ドラは赤ドラを含め合計12枚。
テティスの能力を信じるならば、ジゼかハクにドラが偏っている筈だとナキは考える。
そして――。
(――ジゼにドラが偏るようならテティスは援護に回るはず……けど)
彼女はテティスの攻撃的な瞳を見て、それはないと結論付けた。
(あのハクって子。さっそくドラを抱えさせられてるのかしら? だとしたら、私とジゼはこの局、素直に援護に回った方が良いかもね)
ナキは『三筒』を捨て、手を進めながらもテティスに任せるつもりだ。
□
次に手番が回ったジゼは、
(ドラが0枚でウーシャンテン。無論、あがりを諦めるつもりはないが……)
彼は調子の良さそうなテティスの様子を察した上で、現状何ができるかと考えた。
(この対局、俺達はハクという少女の連続和了を防ぐか、安手でも彼女に振り込ませれば勝ちになる。なら、何が何でも早あがりを重視。手が重くなるようなら、援護に回るのが第一か? ならば……)
ジゼは自らの勘に頼り切った上で、ナキが鳴けて、テティスのカン材になりそうなところを捨てる!
(これなら、どうだ?)
彼が捨てたのは『四萬』! 赤ドラである『五萬』に隣接し、ナキが捨てた筒子ではない牌!
直後!
「
テティスが、ジゼの捨てた『四萬』を鳴いた!
☆
(いいですよ、お兄さん!)
テティスがジゼの捨て牌を鳴いたことで、ハクの手番は飛ばされる。
テティスはハクの手が進むのを遅らせた上で、『四萬』をツモれば明槓ができる現状を『良し』と頷いた。
そして、彼女にとって――いや、千歳瑠璃側にとっての幸運はまだ続く!
『四萬』を鳴いたテティスが『八索』を捨てた瞬間!
「
今度は、ナキがそれを鳴いた!
◇
(よし、鳴けた!)
『八索』を鳴き、援護に回るつもりでいたナキは自らの手牌に一つの可能性を見出す。
(下手すれば七対子になってあがれずに単騎待ちになるかもと思ってたけど……私が、鳴けないなんてないわよね?)
ナキの手牌にあるのは『八萬』と『八筒』が二枚ずつ。
テティスとの対局であがれなかった三暗刻を彼女は狙えるとにらんだ。
(それに、今私の手牌には『中』も二枚ある。これを鳴ければ安手になっても役が付くわ。この対局はテティスとやった時のような点数制限もないし、一度でもあの子に振り込ませれば終わる! なら、手を進められるだけ、鳴いて鳴いて鳴きまくってやる!)
そして、彼女が捨てた『二索』を――!
「
再び、テティスが鳴いて繋げた!
☆
それは、偶然にしては出来過ぎな程の連携、速攻!
そして――!
(張った!)
この明槓でリンシャン牌から『東』をツモった、テティスは『發』のみの安手を『六萬』『九萬』の両面8枚待ちで
しかも、彼女にとっての幸運はこれだけではない。
『二索』の明槓によって開かれた牌は『東』!
新たに増えたドラである『北』が二枚、ハクの手牌にあったのだ!
(これで、あのお人形少女の手牌にはドラが8枚……完全に、あたしの射程圏内です!)
絶対的な勝利を確信し、テティスは不要となった牌――『白』を河へと捨てた。
だが――。
「……
「――えっ?」
彼女が不要と捨てた牌は、それを必要とする者の手で鳴かれてしまう。
鳴いたのは――。
(人形、娘っ――)
ハク。
白皇后が用意した雀士だ!
ここにきて、ようやくハクの河に牌が出る。
既にドラを8枚抱えているハク。もはや、いつテティスに振り込んでもおかしくはない。
だが!
(……『一筒』?)
ハクは、振り込まない!
(ドラを8枚も抱えていながら、とても小癪です)
しかし、いづれ彼女が振り込むと確信した上で、テティスは牌をつもる。
それは、遠くない未来だと。
だが――。
「――っ!?」
自らがツモった牌を見て、テティスは言葉を失った。
「そ、んな……」
勝利を間近に感じていた表情が、急に蒼白に染まる。
彼女がツモったのは――『北』。
(こんなの、ありえないっ!)
声にならない言葉はテティスの胸の内で爆ぜ、彼女はつい震えた指先から『北』を落としてしまう。
直後、コトリと牌が地を鳴らした瞬間。
「
テティスは……ハクに振り込んだ。
彼女がツモる筈のない、ドラである『北』で。
テティスは、振り込んでしまった。
「自風牌、白のドラ9は――24000です」
オレ、元勇者なんだけどつまらないおっさんと麻雀ばっかりやってる生活から抜け出させてくれ 奈名瀬 @nanase-tomoya
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