第37話 承諾!
「あの……かっこうよろしく仰っておられますけど……その三人の雀士の中に、あたしっていれられていますか?」
ルリ姐さんが吹っ掛けた賭けを白皇后が了承した直後、テティスは『信じられない』と呆れた声を出した。
すると、ルリ姐さんはテティスに優しく微笑みかけ――。
「ええ、もちろん。はいっていますよ」
と、すがすがしく断言した。
当然、テティスが苦虫をかみつぶしたような顔になったのは言うまでもない。
「あたしが、あんた達の目的を知った上で協力すると思いますか? そこのヘビみたいなクソアマ皇后と違って、あたしは魔王討伐に加担するなんてまっぴらです」
あからさまに嫌そうな声を出し、テティスはルリ姐さんが自分を嫌うように仕向けているかのようだった。
だが、彼女の悪態などなんのその。
ルリ姐さんは涼し顔で聞き流す。
「ねぇ、可愛らしい雀士さん? あなたも、ここがどういう部屋なのかお忘れなのね?」
「はい?」
「ここは私に絶対優位の部屋なのよ?」
「……だから、何ですか? 魔王討伐なんて――……ああ、なるほど?」
突如、泥と毒を吐き出すようにしゃべっていたテティスが頷き始める。
「わかりました。あの白皇后とかいう雀士の人形のお相手、ご一緒します」
彼女はころっと態度を変え、くるりと俺達に向き直った。
「何をしてるんですか? 早く決闘空間を開きましょう? 共闘ですよ、お兄さん、お姉さん?」
「……おま、それでいいのか? さっきまであんなに嫌がってたのに。これが、絶対優位の桃の間の力?」
あまりのテティスの変わりように開いた口がふさがらない。
しかし、テティスはそんな俺を鼻で笑った。
「なにを言ってるんですか。絶対優位の結界ってのはそこまで万能じゃないです。あくまであたしに利があり、千歳瑠璃様にとっても優位に働くという一種の誘導術……その気にさせやすい空間とでも言えばいいんですかね?」
その後、テティスは自ら決闘空間を開き断りもなく場決めを始めた。
「お兄さんはおまぬけさんなようなので先に言っておきますが、あたしが協力するのはこの対局のみ。魔王の討伐には決して加わらない。わかりますか?」
直後、俺は彼女とルリ姐さんの合意がどこにあったのかに気付いた。
「つまり、手切れ金代わりってことか」
今、ルリ姐さんにとっての不利というのは白皇后が連れて来た少女の介入だ。
そして、彼女はそれを阻止するために『テティスの協力』が必要になると踏んだ。
この場で協力を得るために、ルリ姐さんはテティスの魔王討伐への不参加を許容した。
また、テティス自身も一度の東風戦に参加することで手を引けるならと、その気にさせられたのだ。
「全く……苦労して交渉権を得たっていうのにな」
「エエ、エエ。できることなら、お兄さんともう少し一緒にいたかったデスヨ?」
「また、別の人を探し直しなのね」
「あたしもとても残念ですよお姉さん」
心にもなさそうな言葉を返しながら、テティスは俺とナキを決闘空間へと誘い込む。
そして――。
「さあ、後はあなただけなんですけど? お人形さん?」
テティスは白皇后が連れて来た少女を挑発して誘った。
「…………」
しかし、少女の反応は薄い。
彼女はちらりと白皇后を見上げるだけで、うんともすんとも言わなかった。
「……敵にしても、あの子感じ悪くないですか?」
「ははは……挑発しといて言っていいセリフじゃねぇな」
むっとテティスの視線が俺に刺さる。
そんな最中、白皇后が少女に口を開いた。
「さあ、行ってきなさい。
白と呼ばれた少女はこくりと頷くと、俺達に向かって歩き出し。
「…………では、ハクとたたかってください」
そんな一言を静かに放って、決闘空間へと入り込んだ。
次の瞬間! 決闘空間が成立した直後、ルリ姐さんが宣言する!
「それではこれより、桃の間にて魔雀の東風戦を行います! ですが、白皇后側にはいくつかの勝利条件を付けていただきます」
「えっ?」
「ルリ姐?」
「……」
「いいわ、何かしら?」
「一つ。対局中、白皇后側雀士は千歳瑠璃側雀士に一度でも振り込めば負け。
二つ。白皇后側雀士は必ず対局中に二連続和了を達成すること」
三つ。白皇后側雀士は勝利条件一と二を達成した状態で、終局時点に千歳瑠璃側雀士の誰よりも持ち点が多くなければならない」
「それは――」
いくら何でも、こっちがハンデをもらいすぎだ。
と、思った矢先。
「いいわよ」
白皇后は抗議するどころか、条件を全て快諾した!
「できるわね、ハク?」
そして、彼女が連れた少女は頷き。
「ハクに、それをのぞまれるのでしたら」
ただ、淡々と白皇后に応え、少女自身もルリ姐さんの出した勝利条件を承諾した。
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