27.道連れ





 僕は今、死のうとしている。


 だけど、ただ死ぬだけじゃ足りない。

 人を巻き込んで、派手に死んでやりたい。



 誰を巻き込んでやろうか。

 それが問題だ。






 さて、誰にしようか。

 今日も候補を探しに、僕は外へ出ていた。


 老人、女、男、子供、顔の綺麗な奴、スタイルの良い奴、太っている奴。

 どんな奴が良いか。

 未だにこれ、と思える人に出会えていない。



 しかし、その日は違った。


「みつ、けた」


 僕はついに理想を見つけたのだ。



 目の前を歩く2人組。

 1人は中肉中背の平凡な男。

 そしてもう1人。背の高い悪人面の男。


 そいつを見た時、僕の中で何かがはじけた。


 あれだ。あの人だ。

 僕と一緒に死ぬべきな人。



 高揚する気持ちを隠し切れず、彼らに少し近づいた。話している内容で、情報を少しでも得たかった。



「……ですよ。だから紅茶は一杯で我慢してください」


「嫌だ」


「村上さん? 我慢という言葉を覚えて下さい」


「雇い主は、俺だ」



 恐らく2人は上司、部下みたいな関係。

 名前も分かるとは、良い収穫だ。


 心の中のメモ帳に書きながら、僕は気が付かれないようについていく。



「で、今日の依頼は?」


「えーっと。近くの池に浮かぶ白い影。夜に肝試しをしていた学生が、その姿を見てから夢にまで出てくるようになったとか」


「ふーん」



 何だか聞きなじみの無い言葉に、僕は内心で首を傾げる。

 仕事の話をしているのだろうけど、内容の意味が分からない。


 更に耳を澄ませて話を聞く。



「本物ですか?」


「ああそうだな。本物だとは思うけど力は無い。たぶん夢に見るのは、そいつ等の精神の弱さのせいだ」


「そうですか。じゃあ、そこまで時間はかからないですかね。それなら帰り道に、お店行きましょうか」


「おう」



 話を聞けば聞くほど、意味が分からなくなってしまった。もう分かろうとするのは止めよう。

 それが懸命な判断だろうと、僕は諦めた。


 しかし追跡は続ける。

 そうしていると話していた池なのだろうか。普通のどこにでもある所だ。


 ここで何を始めるつもりか。

 僕は少しワクワクしながら、その姿を見つめた。



 2人は観察するように、池の周りを一周する。

 距離を置いてついていけば、元の場所に戻った。



 本当に何をするのだろうか。

 期待ばかりが膨らんで、2人の一挙一動に集中する。


 それを見ていると、急に村上さんと呼ばれていた方が池に近づいた。

 柵が無い場所だから、本当にギリギリの所まで。



 むしろ水面に手のひらをつけた。



 急に不審な行動をし始めて、誰かが警察に通報するんじゃないかと心配になったが、幸いな事に僕以外には人がいない。

 先程まではチラホラといたから、本当に良かった。



 村上さんは水面に手を置いたまま、全く動かない。

 その隣で、部下の人は池の真ん中の方を見ていた。

 その状態で数分が経った。



 何なのだろうか。

 ずっと見ている状況が面白くなくて、僕は帰ろうとする。

 村上さんとやらには、きっとまた会えるから良いだろう。



 そう思っていたら突然だった。





 ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!





 腹に響くような大きな音と、立っていられないほどの地の揺れ。

 僕は驚きで声も出せず、その場に座り込んだ。



 何が起こったのかなんて、確認しなくてもすぐに分かった。

 池の真ん中の方で大きな水柱が立ったのを、この目でしっかりと見たのだから。



 パラパラとかかる水の飛沫を感じながら、僕はただ呆然としていた。

 普通なら何か爆発したとか、そういうイベントでもあったのかと思う。しかし僕は村上さんが水面に手を置いていたのを知っているので、原因は絶対に彼だと確信している。



 人間じゃありえない。

 彼は、彼は人間の振りをしているが神様なんだ。

 そんな方と一緒に死ぬなんて、とんでもない。


 それよりも、もっと他にやるべき事があるはずだ。



 僕の頭の中には、もう死ぬなんて考えは無くなっていた。




 彼を崇拝し、そして守らなくては。

 高いカリスマ性に魅入られた僕は、彼の為に人生を使おうと決心した。


 そして静かに邪魔をしないように、その場から離れる。

 これからやるのは彼の情報収集と、他の信者探しだ。



 今までの人生の中で、一番輝いている。

 そんな気がした。





「どこか行ったみたいですね」


 後から感じていた視線が無くなったのを確認すると、僕は村上さんに話しかけた。


「ああ。変な奴だったな」


 今日依頼された場所である池に、来る途中から誰かにつけられているのはとっくに気がついていた。

 怨恨や復讐かとも思ったが、そういう感じを見つけられないので放置したのだが。


「何かキラキラ顔していましたけど、その内また来るんじゃないですか?」


「そん時はそん時だ」


 今までも、村上さんに憧れる人は沢山いた。

 さっきまでいた彼も、そういうタイプだろう。


 その内、宗教とかも出来てしまいそうだ。



 ありえないわけでもない未来に、僕は笑えなかった。



 それに心配なのは。


「池にいた奴、可哀想に。さっきの人に見せる為に、わざと派手にやったんでしょう?」


「さあな?」


 村上さんが満更でも無い所だ。

 そのうち教祖とかを、喜んでやりそうで僕は笑えなかった。



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