16.日常




 働いている祓い屋が休みの日。

 大体は、家の掃除や買い物などに費やすが、たまに僕はとある場所に行く。





「こんにちは」


 それは神社だった。

 どうしてかと言われたら困るが、昔から行くと何だか落ち着く。


 だから今日も、休みを利用して実家近くの神社へと来ていた。


「お久しぶりです。前来た時から、1ヶ月もあいちゃってすみません」


 周りに人がいないのを良い事に、僕は本堂に向けて話しかける。

 返事があるわけではないが、気づけば声をかけてしまう。

 僕は持ってきていた掃除道具を取り出し、簡単ではあるが掃除を始める。


 元々は神主などがいたのだが、高齢になった為に今は誰も手入れをしていない。

 だから落ち葉やゴミが多少落ちている。

 それを時間をかけて、僕は掃除をした。


 大体、満足のいった所で手を止める。

 辺りを見回せば、落ちているものはない。これでしばらくは綺麗なままだろう。

 僕は頷き、ゴミをまとめると拝んでから神社を後にした。





 何であの神社に、僕は休みの時間を割いてまで行くのか。

 時々、不思議になる。

 しかし掃除をするのが嫌なわけではないので、特に止めようとは思わない。


 それでも理由が知りたかった。

 だからある日、事務所の所長である村上さんに相談をした。

 彼はぼんやりと僕の話を聞いて、そして考え込む。


 特に他愛の無い話のつもりだったので、この反応は予想外だった。

 どうせ冷たくあしらわれるのだと思っていたのに。



 もしかして思っていたよりも、深刻な状況なのだろうか。

 僕は不安になってしまう。


 村上さんは何も言わずに、パソコンに向かった。

 そしてしばらく操作をすると、顔を上げて僕をまっすぐ見る。


「な、何か分かりましたか?」


「まあな。説明するから座れ」


 彼はソファに座る様に促した。

 僕は文句を言わず従う。


 向かい合って座り、視線を合わせる。

 何だか緊張してしまう。彼がこれから何を言うのか、少し怖い。



「あのな」


「は、はい」


 改めて話を始められると、更に緊張してしまう。

 僕は大きく息をのんで、彼の言葉の続きを待った。


「お前、神社にこれからも定期的に行った方が良いな」


「え? ああ、はあ」


 予想していた話ではあったが、何だか拍子抜けしてしまう。

 もっと他に、何か重大な事を言われるのかと思っていた。


 僕のそんな思いが顔に出てしまっていたのか、彼は大きなため息をつく。


「まだ話は終わってない。その神社、たぶんお前が産まれる前から親のどちらかが行っているはずだ」


「んん? 確かに、ここを紹介したのは母ですが」


 僕は昔を思い出す。

 幼い頃は病弱だったから、心配した母親がここにお参りするように勧めたのだった。

 それから定期的に行っている。


「たぶん、まあ想像だけど。お前が産まれたのは、その神社に母親がお参りに行ったおかげだ。そして今、生きているのもな。そんなに強いものじゃないが、ずっと守られてきたんだ。そうじゃなきゃ、もう何百回も死んでいる」


「……」


 思っていたよりも彼の話は、重大なものだった。

 僕は脳の処理が追い付かず、言葉が出ない。



 確かに思い返せば、色々とつじつまが合う。

 家族は皆、僕に対してはあまりにも過保護だった。

 風邪を引けば、どんなに微熱でも病院に駆け込み、怪我をすれば大騒ぎ。

 高校生になるまでは、1人で出かける事も許されなかった。


 そして周りの皆と違う環境に嫌気がさして、社会人になって家を出た。

 今は連絡を取っているが、いつも心配される。

 それはもしかしたら、知っていたからではないだろうか。



「定期的に行かないと、守護の力は薄れる。だから死にたくなかったら、お参りに行くのを止めるなよ」


「……はい」



 真剣な顔。冗談を言っているのではないと、絶対に断言できる。

 僕はそれを受けて、神妙に頷いた。




 村上さんにも誰が守ってくれているか分からないらしいが、これからも感謝の心を示す為に行こうと思う。
















「とりあえず何日行かないと限界か、試してみれば?」


「何、言っているんですか。殺す気ですか?」


 そう言って意地悪く笑った村上さんの言葉は、冗談だと今度は断言出来なかった。




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