番外編 港町に行こう!2
「あーっ! 見えた。あれがフォアムかー」
僕は道の向こうに見えてきた市壁とその向こうの水平線を見つけて思わず叫んだ。
「ルカ、落ち着けよ」
「無理だよー」
キラキラと輝く海。終わりの見えない水なんて見た事ない。
「あれが海……」
「そうよ、ルカ君。そしてあの海の向こうに隣の国がある。そしてこのヘーレベルクの魔物素材と海の向こうの物産が行き交うのがあの港町フォアム」
この海を渡って、エリアス達は別の国で冒険をしてきたんだよな……あの頃は僕と同い年くらいだったんじゃないか? すごいな。
「さーて、いよいよ街に入りますよ。みんな、身分証の準備を」
ロベルトさんに言われて、僕は上着の中にしまった身分証を取り出す。この為に初めて作った。ヘーレベルクの市民証だ。
それを市の門の前の門番さんにチェックしてもらって中に入る。
「うわー! すごい人!」
ヘーレベルクも各地から人が集まる街だけど、大体が魔物目当ての冒険者か行商の人だ。ここはちょっと空気が違う。
「さて、出入りの輸入業者にこの荷をまず預けなきゃ」
クラウディアはそう言って大量の魔物の革を指差した。今回は魔物の革の他に生薬の原料となる内臓を干したものなどが取引される。
「さ、ここよ。ちょっと時間かかるからルカ君とユッテちゃんはその辺見てきたら?」
「うん、そうさせて貰うよ。港が見たい!」
僕はユッテと一緒に街に繰り出した。白い漆喰の家屋が建ち並び、潮の匂いがする。
「早く行こう、ユッテ」
「うん」
真っ先に向かった港には。海の上にぷかぷか浮かぶ巨大な帆船がいくつもある。
「すごいなー」
「ね、ルカ。ここに魚がいるよ」
「え、どこどこ?」
港の護岸からひょっこり顔を出すと小さな小魚が泳いでいるのが見えた。
「かわいいなー」
「海って塩辛いんでしょ? この魚はしょっぱくないのかな……」
ユッテは不思議そうに海の中を泳ぐ魚を見ている。すると後ろから大きな笑い声が聞こえた。
「はははは! 海の魚を真水にいれたら死んじまうんだよ」
「そうなんですか」
それは日に焼けて逞しい腕をしたおじさんだった。
「ぼうず達、どっからきたんだ?」
「ヘーレベルクからです」
「そっか、ヘーレベルクに俺みたいな船乗りはいないだろう」
「そうですね、初めてです。どの船に乗っているんですか?」
「あれさ」
おじさんは一際大きな船を指差した。
「あの船でいくつもの海と国を渡り歩くのよ! 腕っ節じゃヘーレベルクの冒険者にも負けないぜ」
おじさんは自慢するように木の幹みたいな太い腕を差し出した。うん、うちの父さんくらいあるかも。
「はじめてヘーレベルクを出たんです。海を見るのも初めてで。面白い所はありますか?」
「そうかい、じゃあここでは『青の錨亭』の海鮮スープをぜひ食べるべきだ」
「スープですか」
「新鮮な魚と貝のスープはうまいぞー……あとは……」
おじさんは僕を見て、それからユッテを見て僕の手を引っ張って小声で囁いた。
「あの子はお前さんの彼女かい?」
「えー……っと」
「残念だな、おじさんは港の女の懐の深さなら教えてやれるんだが」
「そういうのはちょっと……」
「うーん、じゃあ……」
おじさんはちょっと考えて僕に耳打ちをした。
「ルカ君ー。おまたせー」
その時、クラウディア達が用事を終えてやってきた。
「お、俺もそろそろ行かなきゃな。フォアムの街を楽しんでいけよ!」
おじさんはそう言うと船の方向に消えて行った。
「そろそろお昼にしましょうよ」
「そうだね、さっきのおじさんは『青の錨亭』がお薦めだって」
「私達もそこにいくつもりだったのよ」
随分と有名店らしいな。楽しみだ。ただちょっとやることができた。
「あとで合流するからちょっと先に行ってて!」
「いいけど……」
「すぐ済むから」
そう言って僕はみんなと一旦別行動をした。ちょっと欲しいものが出来たんでね。
「ルカ、どこ行ってたんだ」
「へへへ……。あ、これが例のスープだね」
僕が席につくと同時に海鮮スープが運ばれてきた。沢山の魚介を香草で煮込んである。
「うん……すごい旨味だ」
「この貝からいい出汁が出るのよ」
「うまい……」
塩と香草と魚だけのそっけないスープだったけど、こんなに美味しいのか。調理はシンプルだけど魚の身はプリプリで火加減が絶妙なのが分かる。
「海の食材の味を堪能できたよ。……うちでも出したいなぁ」
「輸送が大変ね。運んでるうちに悪くなっちゃう。だからここだけで味わえる贅沢な味なのよ」
僕達はあっという間にスープを平らげた。それからもっと色々と食べたくなってフライやグリルも頼んだ。
「そういえばさっきどこに行ってたの?」
「ああ……これ、ユッテにあげたくて」
「……何? あら……」
それは硝子玉だった。海を移した様な青に白く魚の姿が浮かんでいる。どうだ、びっくりだろ。
「すごい、どうやって作ってるのかな?」
「ここの名物なんだって。海のお守りだってさ」
それを聞いたクラウディアはくすりと笑った。
「ずいぶんベタなお土産ね。ねぇユッテちゃん、この硝子玉が意味しているのはなんだと思う?」
「え? 魚……?」
「うふふ、海に魚がいるみたいにいつも一緒にいますって意味よ」
「え……あ……」
ユッテの顔が真っ赤になっていく。
「クラウディア! それ今言わないでよ!」
気まずいじゃないか……もう!
「ふふふ、だってあなた達じれったいんですもの」
クラウディアは悪びれもせずにそう言ってケラケラと笑ったのだった。
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