情報を、ひろいあつめて
でも真は、ぴんときていないようだった。
「……え? そうなの?」
「うん。そうみたい」
でも、大丈夫だ。
真ならわかってくれると。
化のなかには、信頼があった。……だってふたごの、大好きなにばんめの姉だから。
「……え、いつ、いつよお。いつ、わかったの?」
「いまさっき、かな?」
「えええ、なんでどうして、いまさっきなのよおお。っていうか、いまさっきっていつ? 朝ごはん食べはじめたとき? それとももっと前? ねええ、なんで言ってくれなかったのよおお」
「ごめん。えっと。気づいたのは、さっき、わかった。って言ったとき。だよ」
「そんな重大なこと、なんで気づいてすぐに、言わなかったのよおお」
化は穏やかな表情のままわずかに首をかしげる――そんなに、重大なことだったろうか?
「……クローズドネットに、お願い。してるんだ」
「どういうことお?」
「えっと、ね」
化は化の言葉で、ぽつりぽつりと落ちる雨だれのようなペースで、真に説明した。
化はクローズドネットにも仕掛けを施している。
ごく簡単なプログラムだ。公園事件の関連のワードをいくつか設定しておいて、該当するワードが書き込まれたら、通知がくるようになっている。……そのイヤホンは、トゥデイズアニマルのナレーターさんが使っていたよりももっと小さな小さな極小の、ほくろよりも小さな骨伝導イヤホンと紐づけられていて、その都度聞こえるようになっている。
真も最初はおなじ骨伝導イヤホンをつけていた。お揃いの、かたちとサイズの。お揃いで化は嬉しかった。
でも真はすぐにそれをつけなくなってしまったのだ。情報量が多くていやだ、と言って。
化にはよくわからなかった。たしかに情報は入ってくる。でも情報量が多いって、真ちゃん以外のひとたちもみんな言うけれど、いったいどういうことなんだろう? 情報量が多いなんて、化は思ったことがない。
むしろ、情報量はあればあるほどいいのだ――もっともっと情報を集めることを、怠らなければ、……あの来栖春という人間に家を脱出されることもなく滞りなく姉さんはもっともっとかわいくなっていたのにと、いまでも、残念に思っている。
悔いている。化にしては、めずらしく。
情報量は増やしていくのだ、もっともっともっと増やしていくのだ――あればあるほど、いいものだから。
だから、化は以前よりもっと多くの情報量に対応できるように、自分を、変えた。
ポジティブに変えた。
クローズドネットでの情報量など、なんてことはない――そんなのは、ただ、一秒に三個ほど、流れが速ければ十個ほど入ってくるだけの、ものだ。
一瞬で聞き分けることができる。なにかをしながらでも。
ほんとうに、なんてことのない情報量なのだ――人工知能だったら無限にあったって情報を処理できるのに、かなり上方のほうにラインがあるとはいえ限界のある、人間といういきものとしての自分の頭の限界を、……化は、最近になってちょっともどかしく思う。
その限界をいきものとして突破できたらいいのにな――もちろん人間としては自分自身がもうすぐそのラインを超えられそうなことは化は、……自分で重々、承知しているのだけれども。
ともかく。
現時点では、とにもかくにも、一秒につき三個から十個程度の書き込みを耳もとで同時再生して処理をしていて。
その結果、結びあわせて気がついたのだ――あ、これは。
これまでと違ったアプローチで対策が始まったな、と。
人員が移動している。
物理学や応用数学をはじめとした、もともと存在した対策チームに参加していたような、専門家たちが。
物理的に移動している――首都の西のほうに、急に移動している。
そういった対策チームに参加する将来有望な若者は、頻繁にクローズドネットで口を滑らすものだ。
なぜだろうか。
たぶん、優秀だから。
自分が優秀なのだと。言いたくて言いたくて、堪らないから。
……そう、国立学府での同級生のように。
昨日。食堂で、いっしょにラーメンを食べながら友人の彼もふっと言っていた――。
『物理学やってる優秀な友達もチームの末端として駆り出されてるけど、わけわからんって言ってたわ。マジヤバいレベルの超優秀者の教授陣もお手上げ状態なんだと』
――そう。言っていたのだ。
貴重な情報を、伝えてくれるのだ。
こちらがお願いしなくたって。
そういう書き込みがふわふわと、ふわふわと、クローズドネットという、匿名の、くろい世界に、いくらでも、情報は漂っているのだ。
……化はそれらを丁寧に丁寧にすくいとるかのように、拾い上げているだけ。
ひとつひとつは、たとえ泥だんごみたいなかたまりでも。
きちんと、ちゃんと、ぴかぴかに。ひかるように。輝いて、役に立つように。
ひろって、ひろって、ひろいあつめて。
ひとつの輝く集合体として、活用してあげている――。
……だから。
いいことをしていると。
いつも、化は思っているのだった。
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