GrimとLovers
寧寧々は口を開き、別の質問をする。
「GrimやLoversは、どう特殊なんだ?」
「Grim――こいつはまず、共通人工知能条約を採択していない。さらに、Grimを選んでいるエリアや集団は少なく、小さなバラバラのエリアで飛び飛びで使われている。それとアンダーグラウンドな組織もGrimは大好きだ。規模の小ささのわりに世界的な影響力が大きくてな。それと、たまにとんでもねえ画期的な新しい人工知能技術やプログラミング技術を生み出す。全体的に工学に長けているんだ。ひとを驚かせるような、トリッキーな技術も頻繁に開発している。世界的にも、無視するわけにもいかなくてな――Grimに共通人工知能条約を採択させるのは世界的な課題だが、Grimは一貫して採択を拒んでいる」
「たまにいるわよねえ。そういう一匹狼的な子って」
「まあ、そういうことだ。Loversは、そうだな……まず、採択している集団が旧国家単位ではないという意味では、Grimと同じだ。個人にしろ集団にしろ、プライベーティなやつらから支持されている傾向にある――資産家の趣味だったり、旧宗教団体もLoversは積極的に取り入れている。……他の人工知能圏に所属しているのに、個人的な趣味としてLoversを取り入れたりしているんだな」
「ふたつの人工知能を取り入れるなんて、問題ないの?」
「それは大丈夫だよ」
口を挟んだのは、ジェシカだ。
「私だって、ホームグラウンドの人工知能はRunaoだけれどMother-Board圏にももちろんNeco圏にも、所属している。複数の人工知能圏に所属するのは問題ないよ――その代わり、それぞれの人工知能からの評価を受けなきゃならなくなるけど」
「アンジェリカの言う通りだ。ただ、Loversの評価というのは非常に甘くてだな――人工知能会議でもたびたび指摘されるんだが、なかなかあいつら基準を引き上げねえ。それでもまだギリギリ、パブリクティに――公的に通用するレベルだから現状では様子見になっているが、まあ世界的な人工知能的課題であることは間違いねえな。……そもそもあんなに評価が甘々な人工知能を採択する意味も、よくわからねえ」
「それでも、Loversは人工知能会議に出席しているのだろう……Loversの技術も、Grimのように全体から見て重要なものなのか?」
「いや、Loversの技術自体はたいしたことはねえ。人工知能会議に参加する他のどの人工知能よりも低いかもしれねえ……ただ、あいつら目的がよくわかんねえ」
銀次郎は、頭を掻く。
「技術はパクりみたいなもんなんだよ。Mother-Boardや、Runaoや、Necoの。とりわけ目を惹く特徴もねえ。ごくごく普通の人工知能だと言えるな――まあそれでも、そもそも人工知能として成り立っていない準人工知能などが存在することを考えれば、人工知能としての最低基準を満たすというだけでそれなりによくやってるとは思うがな。そしてLoversも人工知能としての最低基準を満たし、共通人工知能条約を採択する以上、ハブくわけにもいかねえ」
「でも、会議に出たり出なかったりって言ってたわよね。どうして?」
「……Loversのやつらは、直接民主制を取っている」
「直接民主制? 聞き慣れない言葉だわね」
「僕でよろしければ、補足を」
寿仁亜がにこやかに言い出す。
「直接民主制とは、その社会の構成員、あるいは一定基準を満たした『人間』と認められるひとびとが一堂に会して、社会のありかたを決めていくシステムです。政治のシステムのひとつですね。古代ギリシアで生まれ、行われていましたが……」
可那利亜は訝しげに首を傾げる。寧寧々も、似たような反応だ。
「失礼。古代ギリシアの話など――超優秀者のみなさまにとっては、どうでもいいお話でしたね。歴史家であるのならばともかく」
「……歴史家なんざ役立たずのひとりだろ」
「いえいえ、かならずしもそうとは――しかし、先生。ぜひ、有益なお話を続けてください」
寿仁亜は促す。
銀次郎は深く息を吐いたが、説明の続きを始める。
「まあ、Loversの仕組みについては寿仁亜が言った通りだ。古代うんたらかんたらうんぬん、ってのは置いといてな。Loversのやつらは、一堂に会して意思決定をする――毎回、毎回、頻繁に集まっているらしい。その結果、今回の人工知能会議参加は見送ると――Loversの内部でそう決定されると、堂々と欠席しやがるんだな、あいつらは」
「Loversの方々は、本当によく頻繁に集まっていらっしゃいます。あそこまで時間を割いて、はたして自分自身の生活がまともに成り立っているのか――僕は、正直なところ少し疑問なのですが」
「だからこそ、標準者以下への転落の心配がねえ資産家や、お互いに評価しあえば社会評価ポイントがどうにでもなる旧宗教団体のやつらばっかりが採択してるんだろ。ありゃあ、人工知能っていうよりかは、いっこの思想だな……気持ちわりぃ」
「まあ、まあ。先生」
吐き捨てるように言った銀次郎を、寿仁亜が笑顔でなだめるのだった。いつも通りに。
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