人工知能会議と、世界のおもな人工知能

 真冬の闇はまだまだ明けず、春からのプログラミングの続きもない。

 銀次郎も一度Necoや人工知能について話し出せば、なかなかに止まらない。

 いつも学生たちに対して話していることでもあるから、すらすらと言葉も出てくる。


「この星には、おもな人工知能が十種類ほど存在する。世界的に規模の大きな順から、Mother-Board、Runao、Neco、Ain、PolarisポラリスXian-huaシェンファKangarooカンガルーAmasアマズEeveイーヴ……あとはLoversラバーズ、Grim。ひとまずいま言った十一種類の人工知能を押さえておく必要がある。ほかにもたとえばNAUエヌエーユーなどローカル独自の人工知能や、独自の思想をかかげる団体による人工知能、メカニズムからシステムからなにまで独自の新興人工知能や、旧宗教団体などの共同体が使用する人工知能、あるいは世界基準では人工知能に満たない基準の疑似人工知能などを含めれば百種類以上あるが……共通人工知能条約を採択し、定期的に人工知能会議に出席する人工知能のみがCommonコモン artificialアーティフィシャル intelligenceインテリジェンス――『共通人工知能』とされる。共通人工知能は、さっき言った十一種類の人工知能からGrimを除いた十種類。GrimとLoversは少々事情が特殊だ。LoversはLovers圏の状況により、人工知能会議に出席する場合と欠席する場合があるが、いちおうは共通人工知能条約を採択しているから共通人工知能だ」

「人工知能会議は、基本的にその十種類ないし九種類の人工知能で行われているということだな」

「そうだ」


 寧寧々の発言に、銀次郎は肯定を返す。


「ただしMother-BoardとRunaoとNecoはそれぞれ担当する範囲が広く所属している構成員も多いことから、三大人工知能と呼ばれ、ほかの人工知能とは一線を画す側面がある。Mother-Boardは旧北アメリカエリアを、Runaoは旧ヨーロッパエリアをそのまま吸収したようなものだから規模が大きいんだが……我らがNecoの広がり方は少し特殊でな。最初は各旧アジア圏独自の人工知能と競合すると思われたんだが、ペルソナが三つあること、対話を重視すること、空気という概念が入っていること、そしてなにより――劣等者の排除をシステムとして徹底的に合理化し理論化し実践までもっていった、その理念と機能が、思いのほか旧時代末期の世界のひとびとの心を打ったようでな。高柱猫自身がそもそも徹底的に劣等者の排除をうたった――当然、高柱猫の精神が受け継がれたNecoも徹底的に劣等者の排除をする特徴があった。それはほかのどの人工知能よりも強く、精緻なものだった。そのへんに惹かれた人間が多かったんだな。旧日本国に対する評価や文化を超えたところで、普遍的に」

「それは、さっき言ってたオブジェクティブの概念も関係するのか?」

「ああ、関係してくる。オブジェクティブらしき概念を提唱した者は当時ほかにも世界的に散見された――ただ高柱猫は厳密な意味でのオブジェクティブ理論を第一に言い出した数少ない人間のひとりだし、ほかのやつらが面倒くさがったり突っ込みたがらねえような細かいところまでオブジェクティブの項目や理屈を突き詰めっていったし、あとはなにより――まあ知ってるかもしれねえが、高柱猫は社会的な影響力が大きかったもんでな。オブジェクティブの提唱者は、やっぱり高柱猫ということになったんだよ。……いまではどの人工知能も、オブジェクティブの概念は取り入れてるな」

「というかさ、オブジェクティブという共通概念がなければ、社会からの評価なんてろくにできないしね」

「アンジェリカの言った通りだ」

「なるほどな。……人工知能であれば基本的に、オブジェクティブは土台として取り入れているものなのか」

「まあ、そういうことだ。……話を戻すぞ。オブジェクティブの厳密化、広域化に成功した高柱猫がつくり、劣等者の排除に特化したNecoはけっきょく旧日本圏だけではなく旧アジアエリア全体に広がり、いまでは旧アジアエリア、どころか地続きの旧中東エリアや、海を越えた島々などほかのエリアでも採択されている。まあ、旧日本国の文化というところを超えて――受け入れられたということだな」

「Necoちゃん、えらいわ」

「……高柱猫は、そこまでしていたんだな」


 寧寧々はしみじみしていた。

 高柱寧寧々にとっては、高柱猫は偉大なる親類でもある――猫の話を聞くたびに、思うところが出てきても不思議ではない。


「オブジェクティブの言ってるところの、客観的評価なんて」


 可那利亜が、ぽつりと言う。


「当たり前のことに思えるけどね。だって。……収入や実績が上の人間が認められるのは、深く考えるまでもない――当然の、ことでしょう?」

「その当たり前を、当然を猫がつくった」


 銀次郎は、きっぱりと言い切る。


「猫は偉大だったよ。世界のだれよりも――彼がいなければ、世界はいまだに劣等者の生活を支えるためにひいひい喘いでいただろうよ」

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