第三公立公園(1)形、立地、条件

 首都の都心の真ん中、海が近く、オールディで荘厳な高層ビル群が残るニューブリッジ・エリアの、そのまたど真ん中に存在する、公立公園――正確な名前は第三公立公園という。


 公園は、空から見たと考えると四角いかたちをしている。

 一辺の長さがほとんどおなじという意味では正方形に近いともいえるが、しかし正方形みたいだと言ってしまうとちょっと言いすぎかもしれない。第三公立公園はふたつの川――ムーングラウンド・リバーとソルトストップ・リバーに囲まれている。デジタル園内マップを見ると、たしかに水のテクスチャの範囲はほとんどきれいな正方形をしているのだが、しかしじっさいに人間が歩ける地面の部分を見ると、南がわが大きく削られているようなかたちになっている。

 その鋭い角度の辺に沿ってつくられた遊歩道からは水路をダイレクトに見ることができ、人気らしいが、僕は南美川さんとの散歩のルートを、雑木林エリアと広場エリア、それにときどき池エリアを通るということで決めていたので、そちらの遊歩道には行ったことがない。


 ふたつの川に囲まれているうえ、南の端はそういうわけで水路なので、公園への入り口はみっつしかない。西門、北門、そして正門。このうち西門と北門はかなり古くからあり、正門は数十年前の公共物公立化運動こうきょうぶつこうりつかうんどうによって、新しくつくられたらしい。たしかに正門だけすこし規模が違う。西門と北門はこぢんまりとしているのに対して、正門は堂々と大きい。

 公園の北はニューブリッジ・エリアに直結している。北門を通ってもすぐにたどり着けるが、しかし正門を使ったほうが楽々ニューブリッジ・エリアと行き来している。じっさい正門をつくってから、第三公立公園の利用者は格段に増えたらしい。ニューブリッジ・エリアには相対的優秀者ばかりが所属する優秀企業が、古典的高層ビル群を陣取り、多く存在している。そんな優秀ビジネスマンの彼らの休憩時間や半休や休暇のさいの憩いの場所として、第三公立公園は、驚くほどの変貌を遂げたのだそうだ。おかげでいまでは優秀者たちの憩いの場としてのひとつのシンボルみたいにもなっているという。


 ちなみにそういう話は僕はネネさんから聞いた。僕が都心にはまだいくつもあるほかの公立公園ではなくあえて第三公園を選んだのはやっぱり優秀者が多くする公園だから、ということなどもちろんなく、単純にネネさんの高柱第二研究所にアクセスしやすい公園だったからである。高柱第二研究所は新新宿地下街しんしんじゅくちかがいにあって、旧時代の新宿地域にとどまらない巨大性をもつその地下空間には、ニューブリッジ・エリアからでも入っていくことができるのだ。

 それにタクシーも捕まりやすい。タクシーで向かえば、二十分もかからず行ける。

 一日のノルマを終え、くたくたになって、次の日のためにわずかの時間も惜しいときに、高柱第二研究所に向かうには、たしかに公立第三公園は立地的にも条件的にも、向いている。

 じっさい、ネネさんもなにか公園に行く用事があると迷わず公立第三公園に来るそうだ。もっともあのひとはこうも言っていた、自分は公園は嫌いだと、というより太陽のもとを歩くのが好きではないと、だから原則地下街にずっとこもっているのだが、でもたとえば皮膚細胞などの研究上どうしてもどうしても仕方がないときには、公園のなかでは、まだ落ち着いた雰囲気でしかも近所な公立第三公園がよい――と。


 公立第三公園の成り立ちや経緯などは、僕は知らない。正直なところ、ほかの公園と比べてどうかというのもわからない。だが僕にとっても土地勘がある場所だったことはたしかだ。僕の会社も、ここからそう遠くないところにある。

 だから、ここにした。それだけのことだ。ノルマをこなさねばいけないから、バーチャル園内マップで、位置関係やある程度の全体像は把握したけれども――。

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