第三公立公園(2)三つの池
そんなふうに川で囲まれた立地の第三公立公園には、池も多い。それぞれそれなりの大きさがある。旧時代にはもっと大きかったらしいが、ニューブリッジ・エリアへのダイレクティな接続をおこなうさいにある程度は埋め立てたのだという。正門のAIランダム案内が、どこか誇らしげにぺらぺらそうしゃべっていたときがあった。
水路もあるし水溜まりのような小さな池もあるしで、歩いているだけではなかなかわかりづらいのだが。しかしバーチャル園内マップによると、大きく分ければ三つの池に分かれる。これらそれぞれの池にはシンプルなナンバーが振られている。
ナンバーワンと呼ばれる池は、公園の南がわの広くを縦長の楕円状に占める。第一名にふさわしく、第三公立公園でもいちばん大きな池だ。
僕たちがいま避難所にしているこの広場にも面していて、広場のいちばん南東――つまり僕たちが寝床にしたベンチのところを起点として、まっすぐまっすぐひたすらまっすぐな線で貫くと、ふいに広場が途切れ、だだっ広い池があらわれることとなる。ちなみに、すこし角度を逸らして左右つまり東と西にいけば、そこは雑木林となっているのだ。東の雑木林を抜けたところにも、ナンバーワンの池は広がっている。
いまは季節が異なり見れなかったが、あたたかい季節には花畑が広がるのもナンバーワン池沿いの特徴らしい。それに、ナンバーワン池をぐるりと囲む橋も用意されている。
ナンバーワン池のまわりをぐるりと一周すれば、さぞかし爽快な景色だろう。次々変わる、広場、雑木林、花畑。第三公立公園のいいところを総取りだ。さすが、ナンバーワン――もっともその名前がほんとうにその根拠でつけられたものなのかどうかは、僕などにはわからないわけだけど。
ナンバーツーの池は、広さこそナンバーワンの半分以下とまったくかなわないが、旧時代のはるかむかしから現存する、特殊なかたちの橋があることで有名、らしい。
らしいというのはそれもAI案内やバーチャルマップで知ったにすぎないからだ。もっとも、情報の優先順位としては当然のごとく下位となっていた。なぜならその価値というのは、いまどき人文学系のひとびとにとってとくに重要というものだから、らしい。人文、といまどき聞いただけで、すごいむかしだなという印象を受けるのは仕方がない。
その橋というのは楕円の半円みたいな長くて緩い軌跡を描いている。つまりして渡るときには、傾斜は小さいとはいえ、まずは上り、そして最後は降りねばならない。しかも、その真ん中には小島のようなスペースがあって小さく古い小屋がたたずんでいる――いったいなんのためにあるのか、指をさしたり首をかしげたり苦笑しながら疑問に思うひとは絶えないようだし
じっさい、僕もそのひとりだった。南美川さんも、あんまりわかっている感じはしなかった。その橋は散歩ルートに含まれていたけれど、それはただ単にルート的に都合がいいのと傾斜があるから運動になるかなと思っただけで、それ以上のことなどなにも知ってやしないのだった。
ナンバースリーの池は公園のもっとも真西に小さくたたずんでいる。南美川さんと毎日通った雑木林の、そのなかの獣道みたいな小道をゆけばそこにたどりつくらしい。でも、いままで行ったことはない。あまりに小さく、それに草がしげりすぎている印象があり、そもそもナンバースリーのほうまで行こうという発想が出てこなかったくらいだ。
これらの池は、むかしはそれぞれなにかしら意味ある名前がつき、なにかしらの複雑な名前で呼ばれていたらしい。旧時代のオールディな価値観をたちきるために、首都改造計画者は、もっともよいかたち、つまりしてそんな古い意味のついた名前はバッサリと切り捨てました――そのように案内AIがどこかしら誇らしげに言っていた、……その首都改造計画者の名前にはたしか高柱の名字がついていたと思ったんだけど、……そこまで、僕も興味があったわけではなかったし、なんとなくで聞き流していたから、そのあたりまでの精度でしか――その説明を、情報を、思い出せない。
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