さまざまな人工知能
「……いま南美川さんも言ってくれたように、人工知能はつまりここの社会ではNecoが、インフラを支える基礎部分となっているインフラでもある。だからそれが機能しないということはなにが起きるかというのは正直だれにも予想できない。すくなくともNeco人工知能社会の歴史においてははじめてのことなんじゃないかな」
大学で習った、というかあのNecoゼミ変人教授に叩き込まれた人工知能史を思い出す。……一部Necoインフラが故障したり、ハッキング被害に遭うことはあっても、Neco管理者権限でアクセスしても対話がオープンしないというまでの大きな事態はなかったはずだ。
そもそもNecoはほかの人工知能と比べても、その対話特化型という性質上、機能しないというトラブルは生じにくいはずなのだ。もし俺ネコに問題が生じても僕ネコが、僕ネコにもなにか問題が生じたなら私ネコが、きちんと対応することになっている。
……このエリアに暮らすひとびとはそもそもがそういった、複数人でものごとを成功させるような性質をもっていたと聞いている。古くから、それこそ旧時代のはるかむかしからだ。集団とか、空気を読むとかいうことが重視されていた。
だからこそ各エリアのひとびとが自分たちの社会をかたちづくる人工知能を選択して契約する苛烈な人工知能社会過渡期の時代、このエリアのひとびとはけっきょくのところほかの人工知能ではなくNecoを支持したのだ。もちろん、それは、……Necoのベースとなった高柱猫の当時熱狂的だった人気も関係しているだろう。しかしそれを差し引いて考えても、……たとえば別の人工知能、代表的な社会圏内をかたちづくってるものでいえば、Necoと並ぶ三大勢力と言われる
マザーボードであれルナオであれ、アインやグリムなどの特色あるものもすべて、人工知能のベースの働きは基本的に共通している。つまりまずは社会インフラとなり、そこに暮らすひとびとの生活を支えることだ。その機能がなければそもそも社会においての人工知能とはなれない。ただの私的な判断デバイスということになる。
そのうえでまあすこしずつ、それぞれの人工知能に特徴があるという程度の違いだ――すくなくとも僕はそのようにNecoゼミの教授から聞いた。マザーボードは社会にめぐらされる末端管理導線が細やかで大規模な人口をもつ国家に支持されているだとか。ルナオは芸術的価値を評価する機能が優れているので芸術で発展してきた歴史をもつエリアに支持されているだとか。
教授は言っていた。おおむかしも、パソコンやらスマホやらをなにで動かすかっていうことで、みんなそれぞれ美学があったらしいぜ、と。どのOSだとか、あとはどの機種かとか、な。そりゃそれぞれ違うんだろうが、たとえどこのどんなモン選んだってな、パソコンはパソコンだしスマホはスマホだ、だからパソコンとしてスマホとして売り出されてたんだろって、……あのときの僕はなにを当たり前のことを言っているんだとばかり思っていたけれど、いまこうして人工知能の話にあてはめて考えてみるのならば、たしかに――わかる。
Necoはそんなさまざまな人工知能のなかにあって、とりわけ対話に優れた人工知能だ。だからペルソナ型人工知能という構造になっている。ひとりではできないことも、三人の人格を搭載することで、できるように設計されている。
――空気というものに重きを置く民族出身だからこそ、開発できたんですね。
高柱猫はかつてNecoに関して遠くのエリアの人間にそのように言われたらしい。そのとき彼はただ深く苦笑しただけのようだ――そちらの文化圏でいう空気と、こちらの文化圏でいう空気とは、……そもそもが根本が違いますよ、と。
そんな特徴と経緯をもつ、Necoだからこそ。
対話機能がほとんど機能しないというのは、それは、ほんとうに、設計段階でもっとも起こり得ないように細心の注意を払われているはずなのに、おかしいのだ、異常事態といってもちろん差し支えなく――。
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