プログラミング(4)ワン、トゥー、スリー!

 数秒、間がある。考えているのだ、Necoが――人間の思考とは比較にならないスピードで。

 そして――Necoからの、返答。青年の、まるでものわかりのよさそうな声をもってして。


「...I confm YOU THAT,」


 なにかを確かめたいって、いいよ、いいよ、――僕はもっともっと僕ネコさんに教えてあげよう、いかにこの家がネコさんたちの価値観からして不適切なのかってこと、ネコさんたちの言語で、いつも通りに――


「Prfff.Plty Prfff.>>>>」

OKオゥケィ,Necoネコ


 判断材料がもっとほしいんだ、って――そんなのこちらからお願いしたってNecoに教えたいくらいだ。

 証拠は、きょう――すでになんどもなんどもかき集めている、――あの上位者たちは気づかなかっただろうけど僕はなんども保険を、かけてる。


Yhイェァ,Clmクレイム beビィ ...」


 聴いてくれ、聴いてくれよネコ、――ひどかったんだよほんとうに、散々な目にあったんだからさほんとうに。訴える、訴えかけるよ、――正当かつ僕の専門的なやりかたで。


 さあ最大限できるかぎりに高らかに呼びかけよう、

 僕はそういうのがとても苦手で、大学時代からいまに至るまでずうっと叱られがちなところだけど、

 いくよ、いくよと、――今回ばかりは最大限にできるかぎりに高らかに聞こえる、ように!


 ワン


「...Onワン,【Iアイ be Dengデンジャー&アンドiLeggイレギュラー.Bczビコーズ Iアイ cantカント movムーブ.THISディス "峰岸狩理" ofオフ theyゼイ infactイン・ファクト.」

 ねえネコ、

 ひどいんだよ僕はいま危険にさらされているし、こんなことは法的にもあっちゃいけない状況だと思うんだ。動くことさえできない状況にある、そんなのってないだろう、ねえネコさんもそういうのは不適切だと思うもんね? 峰岸狩理っていってさあ――実質南美川家のひとりのひとだよ、だからお願い、――これがひとりめ。


 そしてトゥー


Twトゥー,

 ///プリージナリィPleaseプリーズ Lok atルカット Proffプルーフ,//エモーショナリィVioバイオ.../ティンキィThティンク apllyアプライ 【C↓C↑】バイオレッション...THISディス "南美川真"」

 南美川さんの、……妹さん、あなたは比較的早くに根拠となる材料を提供してくれた。僕がこの家にきたとき、……容赦なく躊躇もなく僕の股間を蹴り上げた、よね。

 もちろん通常であれば家ネコからそんな情報がのぼるはずはない、家ネコは玄関先だって当然映像デバイスで記録をしているわけだけど、そんなプライベートな映像なんか必要がなければまず出回らないから、だからちょっと油断しちゃってたんだよね南美川さんの妹さんは――僕が、Necoとこうやって対話して、必要性を生じさせて映像をパブリック・サーバーに上げることさえ可能だなんて、……知りもせずに。そういうことを――きっと、僕のことを馬鹿にして、想像さえもしていなかったのだろう。

 たしかに、ちょっと似ているよね、あなたの――お姉さんと。……とくにお姉さんの高校のころのことなんか思い出しちゃうと、そういうところはほんとうにおなじだよ、……ほんとうに、ね。


 ……さあ。そして――スリー


Thスリー!

 Lisリス HEヒィ //エモーショナリィLiiライ Liiライ Leeライ.Lk atルカット "Thisディス movieムービー inイン Namikawa'sナミカワズ Familyファミリー" in of atイ・オ・アト Todayトゥデイ,

 ――Re,Courseレ・コーズ!」


 そうあのときたしかに南美川化は言ったのだ、


『……あの。失礼かもしれないんですけど、このお茶は、飲んでもだいじょうぶなものですか。……毒入りとかじゃ、ないですよね』


 そう問うた僕に対して、――南美川化は、悲しそうに両眉を下げて。


『そんなに、信じられませんか?』

『……入ってない、って解釈でいいんですか?』

『そういう、……ことでしょう』


Lk atルカット Lk atルカット Lk atルカット and andアナンド,

Recourseレコーズ! Recourseレコーズ Pleaseプリーズ ReDifineリディファイン it it itイッツイッツイッツ――Recourseレコーズ!」


 最後、……だけは、少々、エモーショナルに、なってしまった――僕は。

 でも。


 ビッ、コン。

「……OK.Prepare」


 通った。僕ネコは――簡潔だから。



 三人ぶん、ぜんぶ、……事故なく滞りなく、通った。

 ここまで確定させてしまえば――あとはもう、僕以外には、だれがどう乱入しようが止めることはできない、――僕はほとんど最短時間でやり遂げたんじゃないか?



 はあ、と息を吐いて、いったん僕は力を抜いた。

 つか、れた、さすがに――すさまじい集中力が必要だった。ふだんの業務でやれば中級程度のことでも、……すべてを頭のなかだけで描いて、それを天井の白色にえがくがごとく空で唱える、しかも完全ノーミスでというのは、まあ、まあね、……あはは、まあまあ疲れるもんだな。一日じゅうたっぷり業務をするよりも――ずっと、ずっとだ。


 ネコは、すでに、通った。

 ……必要なファイルの準備を進めている。


 おあいにくさま、だね。とくに、……南美川さんの弟くん。

 ネコは、嘘が、――とりわけひとを陥れるための嘘っていうのは大嫌いなシステムなんだよ。



 僕は、視線をゆっくり落とした、……南美川さん。

 僕の両脚のあいだに挟まるかのようにちょこんと収まっている南美川さんが、僕を見上げていた。

 キラキラ、キラキラ、その目を輝かせて、一心に僕を見上げていた。尻尾もぶんぶん振ってしまっている。

 なにも言ってなくともその感情は伝わってきた――すごい、すごいのねシュン、南美川さんは言葉にせずとも全身でいま僕にそう言ってくれているのだということが、僕には、わかった。……僕は、小さく苦笑いする。

 南美川さんは口を開きかけた――だから僕は首をきっぱりと横に振った。それで南美川さんにも伝わってくれた。きゅっ、とその唇を引き結び、ぶんぶん振っていた尻尾を落ち着けて、ばさり、ともういちどゆったり、大きく、振った。


 まだ。まだだ。

 いや……高柱寧寧々に頼まれていた書類は、これで滞りなく僕のクローズネットに送信されている。


 だから、目的は果たした。

 けど。




 まだ――この家に歓迎してもらったことの、お礼を、なにもしてないだろう。



 ……さて。いきましょうか、手順としてはいつも通りに。

 まあでもこれは業務ではない。ここまでくれば、義務でもない。

 じゃあなんだって、復讐なんておおげさなもんじゃない、けど――



「……Plzプリーズ Thirdサード?」



 ……バン。

 大砲の空砲みたいな、音。



 さあ、あらわれたな――最後の、通称オレネコ。

 ……殺人鬼のようだとまで評されたあなたのその底知れない力を、どうかいまだけ僕に貸してくれ、――僕にはお礼をしなくちゃいけない相手が何人もいるんだよ。

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