第3話

私があの時聞かされたのは


衝撃的な、紛れもない事実だった。


それは


自分が


人殺しのような


立場にいたことだ。


美帆が死んだ。


あの時私が、もしふざけていなかったら。

遊んでいなかったら。

そして、

いやな予感を感じてすぐ行動していたら。


自分は、どうすればいいのだろう。


ある日の夜。

私は美帆の両親と会っていた。

もちろん、私のおばあちゃんも一緒に。

美帆の両親2人とも、涙を流していた。

目を真っ赤に腫らすまで。

美帆のお母さんが、

「ほら、美帆。翼ちゃんが来たわよ。」

と震える声で言った。

私は線香を立てた。

火をつけてから手を合わせ終わるまで、恐怖に襲われていた。

きっと美帆は、私を深く憎んでいるだろう。

あまりにショックで、何を美帆に伝えればいいのか全くわからなかった。


その後、

美帆の両親は私を深く責めるようなことはしなかった。


病院に帰った後、脱力感がどっと出てきた。

あんなに緊迫した雰囲気は始めてだったし、何よりも美帆と美帆の両親に謝りきれなかったからだ。

ごめんなさい、ですまされない。絶対に。

この経験は、一生背負うものなのだろう。

そう思うと、自分はこの世にいない方がいいんじゃないかって思えてくる。

私はその日から、何も食べることができなくなってしまった。


数日後の夜、お粥を持ったおばあちゃんが病室に入ってきた。

「翼」

「なに?」

「力を抜きなさい」

私はゆっくりと深呼吸をして、体を落ち着かせた。

「下ばっか見てないで、夜空をみあげてみな?」

窓を開けると、空を埋め尽くす程のたくさんの星が瞬いていた。

「きれい・・・・・」

星に見とれていると、おばあちゃんが話をしてくれた。

「わたしゃねぇ、小さい頃星が大好きじゃった。辛い時も嬉しいときも、お星様に報告してたんだ。たとえ嫌で嫌でしょうがなかったときも、星が大丈夫だよってささやいてくれてるような気がしてね。」

「そうなんだぁ。」

「双子座って知ってるかい?」

「うん、なんとなく。」

「星座には神話って言う物語があるんだ。双子座の神話は、今の翼みたいな感じさ。」

「どういうこと?」

「それは昔ゼウスという王がいてね、双子の息子がいたんだよ。弟がポルックス、兄はカストルという名前だった。それから色々あってポルックスは神様になる。つまり不死の存在になった。でも、カストルだけは人間のままで、いつかは死ぬ運命になってしまった。」

「え、どうして?」

「まあそこは置いといて。何年か後にカストルは戦死してしまう。これをきいたポルックスはとても悲しんだ。それをみたゼウスが哀れに思い、ポルックスを天上に連れて行こうとする。でもポルックスはカストルと一緒じゃないと嫌だといった。だからゼウスはポルックスの不死性をカストルに分けて、2人を1日おきに天上界と人間界に暮らせようとさせたんだ。」

「とりあえず良かったね。」

「そう。でも翼の状態と違うところは、ところどころにある。もし美帆ちゃんも生きていたとしても、2人は永遠に生きられるわけじゃない。それに、どっちかが亡くなってどっちかが生きていたとしても、天上と地上を半分に分けることなんてできない。そのままなんだ。つまり、美帆ちゃんがこんな風になっちゃったのも事実。

でも、美帆ちゃんは翼にそんなに落ち込んでることを望んでないと思うよ。代わりに、翼はこのあとの人生で美帆ちゃんがやり残したこと、一緒にやってあげれば。」

「私超能力者じゃないし、美帆の望んでることなんて、分からない。」

「うん。でもね、これはできると思う。毎日その日にあったことを星に報告する。星を美帆ちゃんだと思って。星が出ていなくてもね。翼が頑張ってること、人のために協力してることとか、伝えたら喜ぶはず。だって、親友でしょ?どこにいても、想いはきっと届くよ!」

私はいつの間にか涙が止まらなくなっていた。

「お粥、食べなさい。」

スプーンで柔らかくすくって口の中にいれた。

「おばあちゃん、美味しいよ。」

お粥はほんのり出汁の味がでていて、自分をふわっと包み込んでくれたような気がした。そして涙を流しながら、ただひたすらに、心の中へ流しこんでいた。

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星が私にささやいて。 @Komirin3535

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