第4話
Side 光
彼女をベッドに寝かしつけてから1時間ほどたったころ、様子を見に行こうと部屋のドアを開けた。
すると、少し前に目が覚めていたらしい彼女がこちらに目を向けた。
あどけなさの残る容姿から高校生くらいだろうかと思ったが、それにしてはやけに大人びた雰囲気を持っている。やはり彼女は心の中に闇を持っていた。
彼女をそんな風にさせた経験からか,近づいていく俺を怖がっている。目がおびえていた。
「目が覚めたのか。」
思っていたより柔らかい声が出てきて安心した。また低い声で怖がらせたりはしたくなかった。
そんな俺の問いに答えなかったのは傷が痛むからのようだ。
傷ついている彼女を置いていくのは嫌だったが、大事な会議があるのは分かっていた。だから、すぐ帰ってくると決めて彼女にそう伝えた。
彼女の瞳の奥に怒りと憎しみと悲しみが渦巻いているのにはうすうす気が付いていたが、このけがの状態ではどこにも行けないだろうとふんで家を出た。でも、それが間違いだった。
会議では彼女のことが気になって全く集中できなかった。そんな俺に気づいてか、光成は諦めたようにもう帰れと言ってきた。
はぁ、やっと帰れる。
そう思って光成に車を限界までのスピードで走らせて家に帰った。
いつもは楽しみもない帰りなのに、彼女がいると思うだけでニヤニヤが止まらない。
「そんなにあの女よかったのか。」
光成が意味深な目で俺を見てきた。
「あいつはそんなんじゃねえよ,てか俺がそういうの苦手だって知ってんだろ。」
そんな俺に少し驚いたような顔の光成。
「まあ、興味ねえけど。」
自分からあおってきたくせに変な奴だ。
ああ,帰ったら、あいつがいるんだよなぁ。これからずっとそうなるのか。悪くないな。
ウキウキした気分で家への到着を待っていた。
「ついたぞー。」
光成の間延びした声がして、俺は外へと出た。
「ん、ポストが開いてんな。」
中をのぞくと,何やら光るものが入っている。
「これは・・・まさか。」
そういってポストの中からチャリ・・と出した。
家の鍵だ。
嫌な予感がしてダダッっと階段を駆け上がり、ドアを勢いよく開けた。
部屋の中はシン・・・・としていて、ついでのように机の上に金が置かれていた。
「あいつ・・・・・・、おい光成、車出せ。」
「どこに行くんだ。」
「決まってんだろう、探しに行くんだよ。大事なものを。」
やっと、やっと会えたんだ。こんなところで手放してたまるものか。絶対に探し出してやる。
そうして俺たちは当てもないまま、もう暗くなりかけの闇へ飛び出した。
「金もないはずだから、そんなに遠くには行ってないと思うぜ。」
そういって光成は車を近くの町に向かわせ、俺は車の中から○○を探した。
「この辺ぐらいしか行けるところないだろうにな・・・。」
日が暮れてきても見つからない彼女に俺の心はどんどん焦りを見せる。
また居なくなってしまったら、ようやく見つけたのに、ようやく・・・
そんな俺を嘲笑うように日があっという間に落ちていく。
「ここの近くに繁華街があるはずだ。これだけ探しても見つからないということはあとは、もうあそこしか残ってねぇ。」
繁華街があんまり好きではない俺のことを気遣って先に町を探したんだろうが、これだけ探してもいないということはきっと彼女はそこにいるだろう。
「向かうぞ。」
いつみてもギラギラと照らすネオンが昔の記憶を思い出させる。
此処はゆがんでいる。上にはついさっきまでネオンの光が届いていたはずなのに少し視線を落とすとまるで氷のように冷たいコンクリートに覆われる。
一見光ばかりのここの、見えないところには闇が共存している。光には闇がつきものだ。
そんなことを知ったのもこの場所だった。
昔の記憶に思いをはせていると、
「ん?」
光成が何かに気が付いたように声を上げた。
きらびやかな恰好をした奴ばかりが見えていた俺の目に、目が覚めるような白が、まるで舞うように、跳ねるように映りこんできた。
いきなりドアを開けた俺に光成は焦ったように
「おい、走行中だぞ!」
そういって車に急ブレーキをかけた。
その衝撃のせいで足に痛みが走ったが、そんなの大した問題じゃねぇ。
周りを見渡すと、少し人の波が引いているところに彼女がいた。
「ッ・・・」
言葉にできない喜びに身が震えた。
やっと見つけた彼女は、羽をまとった天使に見えた。
「・・・・・?」
いきなり彼女はガクンッと膝を折って前のめりに倒れていく。
「あぶねっ!」
そういってとっさに彼女を抱き留めてしまった。
すると、俺の手に気が付いた彼女は弱々しく俺に抵抗した。
「イヤッ!・・・離して!!」
息も絶え絶えに今にも倒れそうだ。
「悪い。」
だんだんと手の力が抜けて瞼が閉じていく彼女の瞳に映っていたのは、闇だった。
闇と流れ星 @HONEY-WITCH
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