第3話

Side 桜

自分の頬に流れる温かい感触で目が覚めた。

もしかして今までのは、夢だったのかもと思ったが、自分の身体中に巻かれている包帯の所為でそうではないと分かった。

なんの夢を見ていたのだろう、まあ、思い出せないとしてもどうせまたいつもの夢だろう。そう思うのは、頬を流れる感触が冷たいからだ。

これは覚えのある冷たさだからだ。

これ以上考えているとまた思い出してしまう。

そう思って私は周りを見渡した。夜は暗くてよく見えていなかったけれど、私が眠っていたところは誰も通らないような路地だったことにほっとした。まだ日の上りきってない朝だったからよかったものの、住宅がちらほら見えるこの場所では包帯でぐるぐるまきの私は目立ってしまうだろう。

とりあえずここから移動しないと、そう思った私は両手を地面につけて、立ち上がろうとした。すると予想通りの痛みに少し顔をゆがめた。この程度なら歩くくらいはできるだろう。いろいろな事情によりけがになれていた私は、そこまで推測できた。

服についた汚れをサッと払って立ち上がった。

これからどこへ行こう。とりあえず家のほうに向かわないとお金がない。帰ったらまた母親がいるのかと思うとすごく怖くなったけど、帰らないわけにはいかない。

日が昇るまでに帰るのは無理だろうな、そんなことを考えながら歩いた。

此処はどこなんだろう。全く分からなかったけどとりあえず歩いた。

私は半日も歩き続けた。体は疲れ切って、この時期に包帯なんか巻いてるものだから汗をかいて暑くてしょうがなかった。喉が渇いた、おなかがすいた、体が痛い。

いつの間にか夜が来て、迷い込んだ繁華街のネオンが目にいたかった。

あ、と気づいた時にはもう遅かった。

繁華街はだめだ、このネオンはだめだ、人を狂わせるこの雰囲気はだめだった。

ああ、始まる。

胸が苦しくなって息がすえなくて苦しい。どうにかおさまらせたくてギュッと自分の胸のあたりをつかんで抑えてみようとしたが、手遅れだった。

「ハァ、ハァッ・・・・」

いつもの発作だけではなく脱水状態に近い体は限界を迎えそうだ。

目の前が真っ暗になって意識を飛ばしそうになったその時、懐かしいような優しい香りが私を包み込んだ。

「やっと見つけた。」

やっぱり彼だった。

肩にかかった毛布に少しだけ安心感を覚えた。でも、彼は男だ。

「イヤッ、は、はなし、って・・・・・」

最後の力を振り絞って彼の手をほどこうと力を込めた。

でも私を支えている腕は思ったより強くて、衰弱しきった私の弱々しい抵抗ではびくともしなかった。

その時点で力を使い切った私の身体はもう限界を超えていた。

真っ暗な闇へと私は落ちて行った。

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