二十四. ゆく末への抗い⑫




 「・・局長」

 

 山崎の掛け声に。近藤は顔を上げた。

 

 「こないな物が」

 山崎が前もって開いて中を確認したのだろう、

 手渡されたその激しく握り潰された痕の残る紙面に。近藤は視線を落とした。

 

 新選組の名の署名された、斬奸状だった。

 

 

 「・・これは何処で」

 

 「鈴木さんの部屋でした」

 

 「・・・」

 

 

 伊東の弟、鈴木は、この屯所でなきがらとして見つかってはいない。

 だとすれば。

 

 「総司達が来る前に、鈴木さんは一足先に此処に居た・・そしてその偽の斬奸状を見たんじゃねえか」

 近藤の隣で、土方が吐くように呟いた。

 

 「確かに今日、鈴木さんなら出かけたいう報告があります。もし出先から帰ってきて・・斬られた伊東さんを目にしたんやとしたら、」 

 鈴木さんは

 握り潰された痕の激しい斬奸状を山崎が今一度、哀しげに見遣った。


 「新選組の仕業と、誤解したんと違いますか」

 

 「しかし、伊東さんのなきがらを置いて何処へ・・」

 「新選組の仕業だと思ったからこそ、」

 

 土方が、紙面から近藤へ視線を戻した。 

 「総司達がやってくる音でも聞いて新選組が引き返してきたと思い、咄嗟に逃げたんだろう」

 

 「・・早う誤解を解かなくては・・」

 山崎が嘆息した。

 「いま鈴木さんが何処に居てはるか、急いで探索します。もし他の外出してた方々も鈴木さんから話を聞けば同じく、」

 

 「誤解されるならば、されても構わぬ」

 

 「え」

 近藤の言葉に山崎は驚いて息を呑んだ。

 

 「解いたところで、もう藤堂君や伊東さんたちは戻ってはこない。今更・・、俺達じゃないと言ったところでいったい何の違いがあるんだ」

 

 元々、

 彼らを誤解し殺めたのは、新選組だった。

 

 それが他の者に依って代わりに為されたとて。

 

 


 「そうだろう・・・?」

 

 

 つと雲を逃れて射し込んだ淡い月明りが、近藤の泣きはらした涙のあとをひっそりと照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近藤達と入れ替わるように先に帰屯した沖田は、

 先程捕らえたばかりの浪士達を収容している仮牢へ、まっすぐに向かった。

 

 

 「やはり死んでいただろう」

 

 入って来た沖田を見るなり、醜い笑みを再びのせて勝ち誇ったその男が、

 その顔を引き攣らせることになるは、間もなくの事だった。

 

 

 沖田が、男に伊東達の屯所を襲撃した下手人の一人残らず、その名と所在を吐かせる間に、

 

 もう殺してくれと懇願する男の悲鳴は、辺り一帯を幾度もつんざき、

 その場に居て光景に耐えきれなかった新入りの隊士などは外へ飛び出して吐いた。

 

 苛烈を極めたその拷問は。

 人体の急所も、つまりその逆の、死には至らぬ方法も、沖田は知り尽くすがゆえに。一分の無駄な時間も費やさず、非情なほど的確に、執り行われ。

 

 もういい充分だと、早く止めを刺して楽にしてやれと、

 戻ってきて駆けつけた土方にさえ、言わしめ。

 

 それでも最後まで吐かせ切った沖田から、

 そうして異例の速さで報告を受けた近藤が、

 

 「近藤さん、今すぐ仇をとりにいくよな・・!?」

 「そうだッ、このままで済むかよ!!」

 

 運び込まれた藤堂のなきがらの前で涙ながらに叫ぶ永倉と原田へ、

 

 「勿論だ」

 

 当然に、頷き。

 

 

 下手人其々の潜伏先を目指して、複数に分かち近藤達は、

 夜更けの寝静まる闇へと再び向かい出て行った。

 

 

 






 

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